76あくまでも剣と魔法の世界…のはず
目を開けるとプルがいた。元気に俺の胸を目掛けて飛び込んできたので、ひとまず無事であることを確認する。状況を進めてくれたわけだし、あまり怒れないが安全確認だけは気を付けるように伝えておく。
ただ、火魔法で火の玉みたいに浮かべて光源を確保していたので、若干ビビったのはないしょだ。
話が終われば周囲の確認をするが、なんというか入り口のような感じだ。足元には微弱な光で先程と同じ紋様がある。窓のようなものもあるが、土の下なだけに何も見えない。ただ黒い。
とりあえずは中を探索するべく、注意しながら中に入ることにした。光源はヨウキに光る玉を出してもらった。多少属性魔法の心得があるそうだ。魔導具作成を生業とする者はある程度の数の属性魔法を身に付けることが普通なんだって!くそ!羨ましい!
後ろには扉があるし、本当に船か何かなのかもしれない。剣と魔法の世界かと思ったらSF的な要素もあるのだろうか。まだ世界観が変わるには早い気がする。せめてもう少し世界を旅してからにしてほしい。
目の前の扉をくぐるが、何かの警備が生きているわけでもなさそうだ。警戒はするが、しだいに慣れて歩いていた。他の扉は開くことが出来ない。強めに殴っても少々へこむくらいだ。壊すのも悪い気がするのでやめた。
ヨウキは存在を薄くすればすり抜けることが出来るかと思ったが、なぜか入ることは出来なかった。プルがねじり込むスキマもなかった。密封がすごい。
探索を開始して1時間ほど経過したころ、とにかく大きいことだけは分かったが、内部を歩いただけでは何も発見は無かった。最初の緊張感は既にない。
発見も緊張感も無かったが、創造神様が行けと言ったところにあるものだから放り投げるわけにもいかない。正直飽きたなと思った時に最初の転送地点から4つほど上の階層で扉が閉まっていない部屋を見つけた。
操縦室のようだ。イメージとしては船の操舵室の方がイメージに近い。
外の土が見えるわけでは無いので、おそらくモニターらしきものが多く付いている。入ってすぐのところにあるのは全体が見える艦長席っぽい席だ。
艦長席まで進まずに入り口横の階段を降りたところには座席が様々ある。ただ、分かるのは操縦桿が付いている操舵席くらいだ。あとは各席にモニターっぽいものが付いているだけだ。う~ん、宇○世紀っぽいぞ。
しかし、これは知識と経験のある人を複数連れてこないと動かすのは無理そうだ。手探りでジェット機を飛ばすような難解な感じがする。
「ご主人、ここが何かは分かるんですか?」
「たぶんこの建物全体が乗り物だと思うぞ。ここで操縦することで動くのだと思う。この物体自体が陸を進むのか、船なのか、空を飛ぶのか分からないけれど…」
「これ動くんですかぁ。は~。そんなことが出来るやなんて聞いたことないですわ」
ヨウキも専門は違うが、見たことの無い技術には興味があるようだ。どう使うのかも分からないが、あちこちを見たり触ったりしている。
プルは何か分からないからか、いつも通りに頭の上だ。食べる物もないから興味が薄い。
とりあえずは艦長席っぽいところに座ってみた。エネルギーがないときでも再起動させる機能があるんじゃないだろうか。手当たり次第に触ったり、叩いたりを試してみたが反応は一切無かった。
立ち上がって今度は操縦桿らしきものを握る。引っ張ったり押し込んだり左右に回してみたり、多少の遊びがあるみたいで動くがそれだけで特に何も無し。他にも付いているボタンを押してみたが特に何もない。
他の席にはモニターはあるけど、今触っても何もなさそうな雰囲気しかない。
「仕方ない。ここの探索は終了してよう」
「了解~」
ヨウキの返事を受けて立ち上がった。振り返ってふと操舵席から艦長席を見上げて見ると、艦長席の下には大きな黒色の球体が仕込まれていたことに気が付く。ガラスで仕切られた奥にはめ込まれている。
「入った段階では気が付かなかったな。この黒色の球体って何だろう?」
俺の呟きを聞いて、ヨウキが近づいて来た。ガラスに触れた後、しばらくじっと見つめてまま固まったかと思っていたら、魔力を少し放出している。そのまま見ていると突然叫んだ。
「ご主人!これ!!ものすごいで!!」
俺はその声の大きさに驚くよ。興奮状態になっている。
「いきなり叫ぶな!何か分かったの?」
「たぶん魔石を球体に削り出したもんや。こんなに綺麗に球体に仕上げるやなんてどんな技術なんや…。しかも壊すことなく中身の魔力だけ抜き取ったことでまた魔力を貯めることが可能かもしれん!」
「なんで見ただけでそこまで分かるの…?」
「魔石やとわかるのは、なんか分からんが確信できるんです!」
プルも同意している。魔物だけに分かる何かがあるのかな?
「魔力の再充填が可能なの?」
「その言葉エエですな!先程魔力を送っていたのを見たでしょう?吸収されましたからまず間違いないです」
「ということは、司令室にエネルギー充填の本体を置いておくわけが無いから、非常用かな。とりあえず俺も魔力を注いでみようか」
その後、3人でギリギリまで注いでみた。途中でもう深夜になっていることに気づいたので俺は一度就寝させてもらい、朝になって俺の回復した分も注ぐことで必要量が貯まったようで、部屋に明かりが付いた。
「「おおぉ~~」」
光源が部屋の明かりで確保できたので、ヨウキは光の玉を解除する。何か起こるかと待っていたら、俺に向かってスキャンの光が当てられる。レジでバーコードを読み取る赤外線のようだ。
読み取られた後もしばらく待っていると、機械音でピピっと鳴った。
「非常事態ヲ回避シタコトヲ確認。充填ヘノ助力ヲ感謝シマス」
「どういたしまして」
「えっ!?ご主人なんで普通なん!?どっから声してるんですか!?」
「いや、俺からしたらお前も充分どこから声出してるんだってツッコミ対象だからな」
どこかにスピーカーがあるのだろう、機械音声に不思議の死者が怯える。いくら転生したとはいえ言うべきことは言っておいた。
「最低限0.11%ノエネルギーデスガ、確保デキマシタ。コレヲ元手ニ更ナル充填ト、各所ノ修繕ヘト段階ヲ移行シマス」
「全然補充できてないやん!」
「しかもこの操縦室のエネルギーだけだろう?全体からしたらもっと少ないんじゃないかな」
操縦室だけでざっと2年半は必要だ。サブのはずの充填でそこまで必要なら、メインはもっと時間が必要だ。供給できる魔力量の底上げが必要だな。
「状況ノ確認ガ不十分デス。状況ノ説明ヲオ願イデキマスカ」
「俺たちも分からないんだよ。かなり地面の下に埋まってるし、この上に建物があるってことくらいだよ」
「返答確認。今後ノ方針を検討中……」
自律しているんだな。かなり高度なAIっぽいぞ。
「生命体ニ助力ヲ申請」
「そうなるよね。プルもヨウキも構わないよね?」
プルも手伝ってくれるようだ。なんかソワソワしてるけど。
「ワイも構いませんよ。何か面白そうな技術ですし」
自前の魔力で充填できるようだし、ただここで生活することになるのかな。それは面倒なことになるな。
「生命体ヲ‘マスター’トシテ登録。マスターノ活動ヲ補佐及ビ遠距離充填ノタメノ遠隔機体ノ同行ヲ許可申請シマス」
「あ、ついて来てくれるんだね。それなら良かった」
「作成ニハ二日間ノ時間ヲ要シマス。連絡手段ノ作成ノ必要性ヲ繰リ下ゲテイタタメ、予想時間ニ再来訪ヲ願イマス」
「了解了解。そうしたら別にもう一つ用事があるから一旦外に行くよ。魔力が残っていたら補充のお手伝いするから、微々たるものかもしれないけどよろしく」
「マスター感謝シマス」
入り口までの移動は通路に非常灯が付いたので道が分かりやすくなった。寄り道も警戒も必要なかったので、せいぜい10分ほどで戻ることが出来た。外に出ると昼だったので、二日後の昼まではこの砦で過ごすことになる。
「もう1つの用事はいけますかね?」
「どうだろ。たまたま出会えるかなってだけだから何とも言えないね」
もう一度会うことが目的ではあるんだけど、いきなりまた嵐竜王が出てきたりはしないと思うんだよな。
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