75状況を変えるのはいつも勇気ある者の行動
【クーロイ視点】
会議から戻ってきたマキシ様からは分裂プルの返却と一緒に礼を言われた。犯罪者の取り押さえに一役買ったそうだ。お手柄だなぁ。俺からも感謝を伝えておく。
顛末としては、その場で当主の交代が行われることになり、現在の継承権が一番上の長男がビーガスペード家の当主となったそうだ。また、念のため騎士団団長の後任も選定し直すことになった。
しばらくは騎士団の人員調査に時間がかかることになると言われた。俺やプルが手伝うことも可能だと伝えたが、目立ちたくないならこの辺りで引いておくように言われた。
まあ見つけたら何するか分からないからかもしれない。自浄作用がはたらくようになってもらった方が良いし、ここは引いておくことにした。
可能なら冒険者ギルドに依頼を出すので、騎士団が担っていた魔物討伐を請け負ってくれた方がお互いのためになると言われたことも理由だ。
ちょうど良いので今後についても相談した。普通の冒険者生活に戻っても良いかということだ。王都に来て約3か月経過した。ケイトが回復魔法を使えるようになったことで、一定のきっかけは掴ませたことを報告した。公爵家に世話になる理由も果たしたことを伝えた。
公爵家としては繋がりを残しておきたいと難色を示されてしまった。主な話は3つ。
1つ目はケイトへの指導。これはあとは実戦だけだが、まだ9歳の貴族子女をさすがに連れ出せないことには納得してもらった。
2つ目はダブスクラブ公爵家の対応。講演会への期待が激しいこと。これについては、基本の地水火風で簡単に何について注目すれば良いのかのヒントや自分たちで発見する喜びについて書いた手紙を渡した。これで納得してほしいとマキシ様に託した。
3つ目はエルンハート家には気にせずに来て構わないということ。これは断るための良い理由が無かったので、機会があればと濁しておいた。あまり来るつもりは無い。
離れておきたい理由は世界を見て回りたいからだ。故郷に帰ろうと思えば、すぐに帰ることが出来る距離だからだ。普通の馬車で1か月であれば、本気で自分が走り続ければ半分の日程で良いだろう。それでは旅をしたと言えない。せめてこの大陸を周り、別の大陸に渡るくらいはしてみたい。
そして何より、せっかく聞き出した和の香りを感じる国へは絶対に行きたい。
まあ黙って行くほど無情なつもりも無いので、他国・他大陸に行く可能性についても正直に話した。サンドバ家の残り二人も叩き潰してからが望ましいこととも考えているし、半年は様子を見ることを伝えた。
「僕個人の感覚としては納得するよ。冒険者にも色々種類はあるけど、クーロイ君は広い世界を巡りたいんだね。ただ、公爵家や父としては悩ましいところだね」
「最高の誉め言葉であると受け取らせていただきます。ただ、10歳やそこらで定住地を決めるつもりは無いので」
「分かったよ。ただ、君もある程度は納得させるのを手伝ってくれよ?」
「それは親の仕事だと思いますが」
「先生の仕事だよ」
生徒がどう反応を示すか次第となった。矛先は俺の方に向かった。腰に拳を当てる、仁王立ちのポーズだ。仁王が通じるかどうかは知らないが。
「どうしても先生はこの国を出て行かれるというのですか!」
「そうだよ。それは俺に必要なことだと考えているから」
「もうあと半年ではなく、もっと先に伸ばすことはできないのですか?」
「予定外のことが起こらない限りは無いね」
希望を見つけたように、ケイトの表情がパッと明るくなる。
「可能性はあるのですね」
「俺の想定を覆すんだからよっぽどのことだよ?」
「もう私も無謀なことは致しません。全うな予定外の可能性を探ります。…せめて週に一度くらいはお越しくださいね」
直接会うくらいしか確実な生存確認が無い以上は、このあたりが引き際だろうか。長期に離れるようなときは前もって言えば許されるだろう。
「絶対の約束は出来ないけど、定期的に鍛錬の成果は見に来るよ」
「手を抜かずに研鑽に励みます!」
まあ何とかなった。ケイトも引き留めるのは無理だと分かっているだろうから、言える範囲のワガママを言っているのだろう。先生としては相手はするが、冒険者としては旅に出ることは決定事項だ。
ケイトよりもしつこかったダブスクラブ公爵家の方々への対応は割愛する。二日間ほど徹夜で質疑応答付きの講義を行うことになった。どうせならもう少し余裕を持って行いたかった。
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自分自身で決める時間が確保できた!まずは、以前から気になっていたが後回しになっていた元盗賊のアジトである砦へと向かうことにした。コレクションハウスと相性が良いとは何があるのか。
到着して早速地下牢を探す。もう既に辺りは真っ暗だが、寝床はいくらでも準備できるので探す方が優先だ。
しかし、特に何も見つからなかった。他にも地下があるということだろうか。魔力探知で探るが特に何も反応が無い。
このままでは見つからないので、地上に出て大人しく今日は寝ることにした。夜の警戒はプルでもヨウキでも出来るが、ヨウキは実験か研究がやりたいそうで出てこなかった。
ということでプルにお願いした。盗賊がいなくなったことで、王都から少し離れたこのあたりは魔物の討伐が進んでいない可能性がある。襲ってきた魔物は狩ってしまって構わないことを伝えて就寝した。
深夜になって妙な音を聞いて目を覚ました。地面に耳を当てると、低く響く音がした。これに近い音を聞いたことがあるが、なぜこんなところで?
エンジンが駆動している音だ。こんな魔法やスキルのある世界で、機械があるっていうのか?
プルにも近くに寄ってきてもらって確認する。魔力は感じられないが、地下で何か動いているような感じがするそうだ。プルには何か分からないようだが、機械なんて見たことも無いだろうから当然だ。
地魔法で音の出ている所まで直通の穴を開けてもらう。俺はその間に、もしかするとすごいものが見れるぞと言って、ヨウキも外に連れ出す。
「キカイってなんですの?」
「ある一定の構造を持って使える便利な道具のことだよ。俺の世界では手に持って使えるサイズから馬車に馬がいなくても走ったり、巨大なやつだと100人以上が乗れる大きさで空を飛ぶものもあった」
「ほほ~。魔法とはちゃうんですか?」
「違う。何かしらのエネルギーを代わりに現象を起こすという点では同じだが、俺の前世に魔力は無い。この前まで講義で話していたような、物理的な現象で動かすものの代表だな」
改めて機械とは何だと問われると案外難しい。先日書いたばかりだというのに、ダブスクラブ公爵家の方々への手紙に書いたことを自分でもやってみた方が良いかもしれない。
目の前の現象がなぜ起こっているのか魔法を使わずに説明してみる。火や風を起こすためにはどういった要素が必要か、水や土とは何が含まれているのか。
魔法で単に発生するからと思考を止めるのではなく、一つずつ自らの言葉で説明し、全く原理を知らない人間に説いてみることを勧めた。
原理を理解することでより具体的なイメージを持つことが出来るようになり、説明できるようになることで詳しい理解へと繋がる。正しい理解が出来て入れば魔法の威力や精度が変化する。
魔力のごり押しではなく、自然の力も利用した発言が可能となるのだ。今後、あらゆる魔法の基礎が見直されることになるだろう。そして、基礎の徹底が見直されることに繋がれば言うことは無い。
生まれ故郷のある国だし、自分がいない間に何かあって知人がいなくなることは本意ではない。ならば国力の増大に繋がることを伝達していくことに躊躇いは無い。
少し思い出しながら待っていると、30分ほどでプルは穴を広げることを終了させた。そのまま飛び下りるには深いと判断して、飛翔を使いながら降りていく。穴自体はプルが広げたものなので危険は無いが、穴を下りた先にあるのは未知の物体のはずだ。慎重を期する方が良いだろう。
穴の底まで下りると、明らかに金属で出来た板があった。全体像が掴めないが、箱状になっているのだと推測する。砦の下には何かが埋まっていたということだ。さてこれは掘り起こして上に持って行くことは出来るだろうか。
下手にこれ以上掘ると上の砦まで崩れてしまいそうだ。なぜ砦の中庭から掘り始めてしまったのか。自分の見切り発車を後悔していると、立っている部分から発光していることに気づく。
慌てて飛びのき、もう一度飛翔で浮くと、何かの紋様が円状に浮かび上がった。
「これ何だと思う?」
「いや、こういうのに一番知ってるのはご主人とちがいますか?」
「こういう魔法陣的なものはヨウキの方が詳しいだろう」
「リッチ遣いがあらいなぁ。う~ん…、技術体系がちがいますね。文字のような絵のような感じやから何かいてあるかもわかりません」
俺も見たことないし、ヨウキも分からないならお手上げだな。ヨウキの語尾は流暢に話せるようになったからか聞き取りやすくなった。
「プル、石作って投げてみてくれない?」
え~冒険しようよ、という勇気ある一言が聞こえたかと思うとプルが紋様の中心に飛び込んでしまった。不意を打たれて止める間もなかった。プルが光に包まれた直前には得意そうにしており、光が消えたときにはいなくなっていた。
「どうします?」
「行くしかないだろ。ほら、ついて来い!」
「ラジャー!」
俺とヨウキも紋様の中心に立って光に包まれた。こういう時ってどうしても目を閉じてしまうよね。しょうもないことを考えながら光が治まるのを待った。
お読みいただきありがとうございました。




