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74王城での会議

【マキシレム視点】


私の名前はマキシレム・フォン・エルンハート。公爵家の一角を預かる当主だ。今日は長男で次期当主予定のヒュレムを連れて王城での会議に出席している。

会議そのものは当主のみならば平常通りだが、私の発議で当主、次期当主、そして王族の方々にもご参加いただくことを奏上して開催となった。


クーロイ君によるサンドバ家の屋敷崩壊事件を正式に報告することが目的である。2週間前からジスメダイヤ公爵家当主が協力的になってくれたことが開催の大きな決め手だ。

ジスメダイヤ家は守護を司っている。具体的には政治を主に取り仕切っている。振り返ると宰相職に就いているのはジスメダイヤ家の者ばかりだ。私も政治に関係することはないわけではないが、多く見積もっても半分程度しか関わっていない。


他の三家が専門的なことに力を割くことが出来るのはジスメダイヤ家のおかげなのだ。完全にこの国を支えている公爵家と言える。彼の家が協力してくれたということは、国にとっての利点となるということだ。裏付けが取れたとも言える。

なかば安心して会議に臨むことが出来ると安心していた。


「――――――以上が、報告となります」


クーロイ君のやりすぎた部分は出来る限り減らして報告した。さすがにやりすぎの部分が多い。彼は罪を犯した者に対しての制裁が普通よりも激しい。

彼の前世にも何かあったのだろう。あまり深く立ち入り過ぎずにいた方が良いだろう。これでも貴族の当主だ。人を見る目はあるつもりだ。ケイトへの指導も的確だ。信用すべき人材だと考えている。

しかし、私の報告をそのまま受け取れない者がいる。


「一国の騎士団長を専門機関を通さずに現場にいたというだけで、拷問にかけるなど考えられんことだ!それだけで罪になると考えるが!?」


語気を強めて発言するのはタイクス・フォン・ビーガスペード。既に罷免された騎士団団長アレックスの父親でありビーガスペード家の当主である。


「しかし、ビーガスペード公爵殿。彼は騎士隊長に呪いの魔導具を渡したともあります。まだ解析が済んでいませんが、非公式の技術であることは確かです。我が家ならともかく門外漢のはずの彼がそのような技術を持っていることは不自然です」


そう言って援護を送ってくれたのはイーリム・フォン・ダブスクラブ。魔導を司るダブスクラブ公爵家の当主だ。彼はクーロイ君の講演会を横にいる長男と第2回から毎回最前列で参加している。

可能ならクーロイ君をこの国で一番欲している人物と言っても良い。あの家は知識欲が全てを凌駕している者が多い。犯罪でない限りはダブスクラブ家だからという理由で許されることも多い。貴族、平民、獣人と偏見はないし、対価も払うので大事にはならない。

エルンハート家、もしくはジスメダイヤ家が事を治めることに駆り出されることが多いため、比較的3つの公爵家は仲が良い理由になっていたりする。

実際、今の当主は年齢が近いこともあって、学生のころから交流がある。


「掘り出し物の剣を渡したことは私も報告を聞いている。武具屋を見ていた時に見つけたものだと言っていた。価値あるものを簡単に渡すなとは言ったが、それが原因でこのような事態になるなど許されるものではない。その非道な拷問を行ったものを連れてきて私自らが尋問をさせてもらうことを承認頂きたい」

「必要ありません」


言い切ったのは最後の公爵、ジスメダイヤ公爵家当主のオリバー・フォン・ジスメダイヤ。私も信じられなかったが、彼はこの場で武力を司っているはずのビーガスペード家の当主と同等クラスで強いそうだ。

同時に知った者たちも表情には出さずとも驚いた。気づいていないのは一人だけ、ビーガスペード家の当主のみだ。


「ジスメダイヤ公爵、いや宰相殿よ。公平なあなたがなぜそんなことを発言されるか私には理解が出来ない」

「そうでしょう。自分の隠し事を暴かれるはずなど無いと思われているのならば、我々の用意した集まりに来ることも無いでしょうから」

「何を言っているのか分かりかねますが……?」


発言の意図を掴みかねて、目元だけに反応があったことを確認する。ずっと見ていないと気が付かない程度だ。武力だけでなく、こんな狸の面もあったとは。見抜けなかった自分に腹が立つ。

ビーガスペード現公爵は先代の弟だ。跡継ぎの指名をしないまま事故でなくなってしまい、まだ十代と若かった長男の代わりに当主になった。跡取りとして連れているのは先代の息子で現公爵の私たちと年が近い。彼、ブガンクス・フォン・ビーガスペードが後継の順位が一番上だ。

いつ正式に譲ってもおかしくは無かったが、ブガンクス殿は個人の武はそれほどでもない。どちらかと言えば魔導に才能がある。伝統に即した意味として武力と判断するか、魔導も含めた総合的な武力で判断するのかで跡継ぎを決めかねていると聞いていた。先代が不慮の事故で亡くなったため、判断が延期されても良しとされていた。現当主の武力も高いため、その地位についていても異を唱える者はいなかった。


今にして思えば、この狸がブガンクス殿を蔑ろにして家督を譲らなかったことは想像に難くない。しかし、自分の息子のアレックスを使ったことでボロを出したとは思わないだろう。


「あ~。申し訳ない。1枚だけ報告書が抜けていたようです。今からお配りいたしますね」


配られた報告書は当主3人は既に知っている内容だが、それ以外には渡していない。とはいえ、自らの手で配り、話を聞いているはずの王族の方々には専用の使用人に合図を出して配布を指示する。

今回の内容が内容のため、王族は別室でこの内容を聞くだけにしてもらっている。そういう魔導具をクーロイ君はこの1か月で作り上げた。原理さえ知っていれば近距離用ならすぐ出来るそうだ。小型化が大変なのだそうだ。目の前の箱からも驚きの声が聞こえてから続きを話し出す。


「私が全て指示していたことだと自供しただと……!?」

「その通りです。アレックス殿、敬称はもう不要ですかね、アレックス含めてもう1人の首謀者も憲兵に引き渡されたときには、非常に素直な受け答えになっており、質問には全て素直に答えたそうです」

「私もエルンハート公爵の後に同様に聞き取りを行いましたが、同じ返答を受けました」


私の後に宰相殿が援護してくれる。そしてもう一つ合図を出す。部屋の中に物を持って来させる。


「これについては、私から説明致しましょう」


宰相殿が重ねて発言する。


「先日、何者かに襲撃を受けたサンドバ家の一室から、このような書類が見つかりました。見つけたのは憲兵、つまりはどこの家の者でもなく公的な立場の者です」


持ってきたものは、クーロイ君が壊さないように気を付けた机の中に保管されていた書類の1つだ。


「先日のスタンピードクラスの魔物が発生した倉庫を譲るという文書にあなたのサインがあるのかご説明願います」


遠回しの証拠しかなかったが、これは一つの証拠になる。どこにも見つからなかった倉庫の所有権について、サンドバ家が最終的に握っていたことは間違いない。

元の持ち主から辿っても、サンドバ家の直前の持ち主には辿りつかなかった。その書類が残っていたのだ。


「あの倉庫で呪いの魔導具を研究していたという証拠・証言も複数取れています。あなたが直接関与したという証拠はありませんが、あなたが譲ったことで犯罪の温床になった。あなたの周りで騒動や呪いの魔導具に関与したものがある。あなた自身の口から、どこまでご存じだったのか詳しくお聞きしたい」


無表情に話を聞いていたビーガスペード公爵は無言で立ち上がる。この場にいる全員が警戒態勢に入る。一般兵よりもそれぞれが十分に強いが、剣を振るうだけで攻撃になるので一瞬の油断が命取りだ。


「純粋な力で私に敵うとでも?いい加減な証拠を見せられるとは思いませんでした。本日は失礼させていただこう」

「待ちなさい!」


年齢が一番上とはいえ、魔力を伴わない力ではこの場にいる者は誰も敵わない。とはいえ、逃がすわけにもいかない。捕らえようとしたとき、帯剣していた剣に手をかけたところまでは見えた。

標的は一番近くまで近寄っていた私だ。冒険者をしていたとはいえ、実戦を退き、また後衛だった私には見えても躱すだけの技量は無い。危険を回避しようと動こうとしたときには既に終わっていた。


私の懐から飛び出した複数の触手がビーガスペード公爵の手足と首を押さえ、剣を手放させる。何が起こったか分からない表情のままビーガスペード公爵は気を失った。


気絶した彼を放り投げた後には、プル殿が揺れる音だけが静かな部屋に響いた。

お読みいただきありがとうございました。


次回から4章です。活動範囲を王都以外のところにも広げていきます。王都にも帰ってきますけどね。詳しくは考えながらなのであまり決まっていません。まだがんばって参ります。


図々しいお願いではあるんですが、もし面白いと思っていただけたら、ブクマや評価などもお願い致します!モチベーションの上昇に繋がります。よろしくお願い致します。

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