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72実験完了

【ヤマイダレ視点】


一体何だというのだ、この小僧は!


迅い!先程とは比べ物にならぬ動きをする。先程は10回仕掛ければ3回は切れた。

既に100は超えているというのに、やつの服にすら刀が届かぬ。目に見えるほどの闘気、いや先程は魔力も使っていないなどともぬかしていた。

毒は効いていなかったのか。確かに表情には何も浮かんでいなかった。


これほどまでの力を秘めていたとは、ワシは何を見ていたというのか。…目が眩んでいたか。


攻め手を見つけることが出来ず、一度仕切り直しをする。二歩下がって手を止めると小僧も止まる。忌々しい…。


「おじさん、気づいてる?この状態になってから俺は一度も攻撃してないんだ。躱せないだろうからさ」


気づいとるわ!だから防御に回らずに済むよう必死に動いていたのではないか。一度逆転されては二度と勝ちの目は手元に来ないだろう。

勝機があるとすれば、動きを止めさせた上で一気に刺し殺すしかない。急所に届けばそこから毒を食らわせることも出来るはずじゃ。

ワシはこんなところでまだ死ねぬ!小僧と死合うたことで新たな境地が舞い降りた。


自分よりも弱い者を甚振るだけではなく、強い者とギリギリの線で殺し合い、最後にはワシが毒で勝ちを掠め取るのだ。


仕留めてやるぞ。小僧!


【クーロイ視点】


実戦でこの闘魔纏身の状態になるのは久しぶりだ。それよりも、名前を付けたのは正解だったな。

複数を同時に使うという意識を持つよりも、1つのスキルを使うような感覚で発動出来ている。実戦の使用には耐えうるものには仕上げられている。

ただ、実戦だと気持ちの高ぶりからか、消耗が激しい気がする。集中が乱れてるんだろうな。もっと心を磨かないといけないな。


検討事項を整理しておくか。躱すという点においては及第点。一回も切られずに済んでるし。

消費はさっきも考えた通り、まだまだ。スキルレベルの限界はまだ先のはずなのに、なぜ5から上に上がらないんだろう。そろそろ誰かに聞いてみても良いかもしれない。

途中で壁に当たるなんて話は誰も言ってなかったけどな。何か阻害する原因があるんだろうか。話がズレてるな。考えていると攻撃が止まった。


ヤマイダレも当たらないからって諦めたか?いや、目が全く諦めてないな。より危険なことを考えてるような感じがするな。何か仕掛けるつもりだな。こちらも最大の実験準備をしよう。


攻撃を仕掛けようにも決めかねているようだし、話しかけてみよう。


「おじさん、気づいてる?この状態になってから俺は一度も攻撃してないんだ。躱せないだろうからさ」


より睨みが強くなる。勝利への飢えってのを出してきてるね。


呼吸がバレるのも気にせずに深呼吸をしていたヤマイダレは肺に空気をいっぱいに吸い込むと一足飛びで間合いに踏み込んできた。


「食らうが良い!我が必殺の‘乱刃’んんん!!!」


先程までの攻撃の速度よりも更に速い乱撃を仕掛けてくる。二撃目までは躱せたけど、三撃目からは打ち合いになる。

それならこの打ち合いに応じよう!お前が止まるまで付き合ってやる!俺からは止まらないぞ!!


キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ


打ち合うたびに空間に音が響く。


ガキン!!


勢いが遅くなった瞬間を狙って、相手の動きを抑える。力が弱くなったところで強く押し込んだら止まってくれた。お互いの刃物を打ち付けあって均衡を取った状態だ。ヤマイダレの必殺を受けきることに成功した。


「残念だったね。次は俺の番で良いよね」

「…………良かろう」


バックステップで間合いを取ると、先程の準備を解放する。ある魔法効果を乗せたため剣身に白い光を宿す。本番でも試したことは無いが、これが形になれば今後、大いに役に立つ技術が確立したと言える。


「じゃあ、いくよ」


今度はこちらから相手の間合いに歩いて侵入する。これを使うのも久しい。最初はゴザルさんに学んだけど、必殺と言えるような威力でも速度でもなかった。

掴んだのは、ルウネが発生させる魔物の数と種類を間違えて、とんでもない量の虫型魔物が発生した時だ。そうでもなければ怖気を感じながら本気を出すことも無かっただろう。

あの悪夢のような光景を少し思い出しながら、気合を入れて叫ぶ。


「剣式四番!乱れ桜ぁぁあああ!!!」


自慢にもならない、いや自分で比較しても仕方ないか。先程ヤマイダレに仕掛けられたよりも鋭い連撃を仕掛けていく。


十を超えたあたりで、向こうの刀に皹が入る。そうなってしまえば、ほぼ大勢は決した。二十を数える前に刀を切り倒した。


すっかり諦めた表情になったヤマイダレは腕も下ろして、完全に無防備な状態をさらす。止まる理由も無いので、まだ乱れ桜を続けて攻撃を加えていく。

腕を、足を、体は出来る限り臓器に傷が付かないように気を付けながら続ける。

ヤマイダレが異変を察したのは割とすぐだったようだ。


「なんじゃ!?どういうことだ!?小僧!!」

「っと。とりあえず一回止めておこうか?」


自分の両手を目で確認し、両腕や腹を触り、足も実際に動くかを確認している。五体満足であることを確認して更に震える。

そうだね。身につけている物に関しては効果無いからね。


「なぜ…なぜ!痛みがあるのに、体が切れておらんのだ!?」


動いてるし感覚も大丈夫。つまり神経は傷つかず、剣に多少の血がついてはいるものの問題はないっぽい。


「成功だ~!体には違和感は無い?ぶっつけ本番だったから自信が無かったんだよね」

「小僧…。貴様は一体何だ…?」


やっと少し怯えを浮かべてくれた。


「いや~。俺もあんたと同じ穴の狢かもしれないかな。俺もね。悪いことしてたやつが絶望した顔をするのがとっても気に入ってるんだ。惜しむらくは観ているのが俺だけってこと。本来なら被害者で希望する人には無料で提供すべきだよね」


白く光る剣身を見せて教えてあげることにする。


「この魔法ね。生命魔法なんだよ。わかる?」

「せい…めい…まほう」

「つまり、この剣が白いうちはいくら切られても死なないんだ。剣に定着させるのは中々難しいんだけど、それが切っ先ではなくて、剣の腹限定だから難しいんだよ。更に魔力の調節も難しいし。大変なんだよ?」


技術的な話をしても分からなかったようだ。じゃあ分かりやすく受け取るための精神的な話をしてあげよう。簡潔になぜこんな技術をがんばって開発したのかを言い切ってあげる。


「あんた、今までに何人殺したの?一回死ぬだけで許されると思うわけ?そんなわけないじゃん。被害者以上に苦しまないと割に合わないでしょ?」

「…は?」

「とりあえず、どこ切っても大丈夫かを確かめたいから、あんたはその実験体ね。ここだけで終わらせないよ。同じ穴の狢の前でも実演するから。心の底から反省して殺してくれって願ってからが本番だよ」


先程の攻撃時には胴体深くだったり、首や頭を直接はやってない。今後のためにも必要な情報だ。


「た…たしゅ!」

「助けなんて来ないよ~。あんたが今までに被害者に言われたときにどうしてたのさ?一度でも助けたことあるの?

「あ……あ……」

「ま、諦めろ」


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


開発のコンセプトは生き地獄。荒事を行うような人種は痛みに強くはなっていることが多いだろう。けれど、どこをどう切られたとしても痛みを感じて、それは終わることは無いとなればどうなるのだろうか。

実際どの程度で痛みを感じるものなのか、心が折れるものなのか、が知りたかった。個人差があるし、これからまだまだ考えないといけないことではあるけれど。


結果から言えば、良い実験結果を得られた。どこをどう切っても実験体は生きていたよ。ゆっくり切ったり、突き刺したままは危ないみたい。切る部分にまで生命魔法はかけてないから、再生されないみたいなんだよね。

要するに、切った後に生命魔法がかかった部分に触れさせないといけないわけだ。この技術に関しては誰かに教えるつもりもないから俺しか使わないだろう。業が深いし。今後の注意点として気を付ければ良いかな。


あとはこれの使い道って何かあるかな。毒の扱いについての知識もあるから、話す頭があるうちに聞き出しておこう。

毒と薬は表裏一体って言うし。ヨウキの知識として蓄えておけば良いだろう。生産担当としてがんばってもらうつもりだし。



ん?毒と薬ということは、生命魔法もかけすぎると危険なのかな。それは試したことなかったな。そういえば回復魔法を攻撃に使ってるマンガがあったな。

これも今後の研究テーマとして考えておこうかな。回復のし過ぎが行きつく先は即死か?まあ、攻撃手段の一つとして持っていれば良いか。

それもこれも、お手軽な属性魔法が手に入らないからだよ。マイナーな方向に頭を使うから、人様から見てエグイ使い方を思いついてしまうんだ。そうに違いない。言い訳終了。


ふと、気づくと一階まで下りてきていた。まずは、プルとヨウキと合流するか。ちゃんと確保してくれているかな~。

右手に引きずっているのは屋敷の中にあった服を適当に巻き付けただけのものだ。合流を優先させることにした。

お読みいただきありがとうございました。

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