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69怒っているのは俺だけではない

「すいませ~ん。荷物のお届けにあがりました~」


門兵がいそうなものなのに見当たらない。勝手に入ってしまって良いだろうか。荷物を置いて、通りすがった人に声をかける。


「今からあの家にお邪魔するんで、何か大きな音がしたら、憲兵とかに知らせてもらえますか。あ、僕はエルンハート家の使いです」

「えっ。はぁ。でもあそこのお屋敷は…」

「大丈夫ですよ。これをこんな風にしたのは僕なので」


ドン引きの表情を浮かべつつ、大銅貨を2枚ほど渡してお願いする。さすがに子どもからもらえないと突き返されたが、1枚だけは握らせた。


これで不法侵入というよりは、誰も門前にいなくて直接訪ねるしかなかったと言ってくれる人を確保した。言ってくれないかもしれないが、それならその時だ。


「お邪魔しますね~」


もう一度声を出しながら門をくぐる。特に何もない。そのまま屋敷の入り口を目指して進む。噴水やら花の咲き誇る庭園を横目に金色に光る像3体を見つけた。

騎士とガーゴイル、2体を足した大きさの獅子・山羊の2つ頭のキメラだ。尻尾は蛇ではなかった。


「趣味悪いな。これ」

「芸術を解さぬ俗物が。勝手に屋敷に入る不審者め」


黒いローブを目を隠すように被った男が像の傍から出てきた。


「門をくぐる前に誰もいなかったんだもん。途中まで入るのは仕方ないでしょ。あとさ、これだけじゃないけどゴミの引き取りをこの屋敷の主人にお願いしたくてさ」

「問答無用!」


その言葉とともに、趣味が悪いと言った像が3体とも動き出した。


「私の作り出したゴーレムに引き裂かれるがいい!」


口元に優越感を浮かべて、気分良さそうに笑う。耳障りだな。


「魔力弾丸」


いつも通りにぶっ放す。しかし、魔力弾丸はゴーレムたちには当たったが、装甲をへこませたり体勢を崩させた程度で終わる。一番近くにいた騎士ゴーレムが手に持っていた槍で攻撃してくる。右に左にと避けていく。


「子どもの割には強いようではあるな。しかし、私の技術の前では児戯も同然だ」

「じゃあ、ゴーレムじゃなくてお前を狙うことにするよ」


もう一度魔力弾丸を作り出してローブ男に放つ。射線上にキメラゴーレムが飛び込み、身を挺して守る。キメラへの着弾を確認したら、次は上空を経由して男の頭上から降らせる。キメラゴーレムで見えないので適当に左右から曲げながら同じところに着弾するように放っていく。


キメラゴーレムが下がって庇っている。これで釘付け完了だ。


「じゃあ、あとは任せるよ。プル」


任せろと返事が聞こえたような気がする。頭から飛び降りると巨大化する。体のバランスはそのままに俺よりも大きくなる。2メートル近い大きさだ。

俺の胴体と同じ太さの触手を一気に複数伸ばす。さらに触手の先を球状へと膨らませる。持ち上げて地面に叩きつけるを繰り返すと地響きが響き渡る。使い心地は良いようだ。

その音を聞いて男が気が付いたようだ。いつの間にか四つん這いになっていたが、震えているのが分かる。


まず、全く出番の無かったガーゴイルゴーレムは空中に浮いて襲い掛かってきた。プルの触手を避けきれず、一撃でぺっちゃんこにのされた。騎士ゴーレムはこの中では丈夫なようだったが、動きが遅いので触手球を食らっているうちに、肘や膝などの屈曲部から破損していき、動けなくなったところで、同じ末路を辿った。


この時点で触手球は周りの庭園には当てていない。花には罪は無いからね。


プルががんばっている間に、キメラゴーレムに当てた魔力弾丸も百を超えた。そこまでくれば衝撃で体を削るくらいまでは役に立っている。おまけにローブ男は自分を守ることを優先させているので、攻撃される気配が無い。


「じゃあ、プル。残りもやるか?」


了解と言わんばかりに体を震わせると、触手球を振り回し始める。これらの一撃は魔力弾丸よりも強烈なんだろう。それが複数叩き込まれるとキメラゴーレムの体は3つに分かれた。崩れ落ちた後に男が見当たらなかったが、既に気絶していた。


「よし、せっかくだからプル、門兵いなかったからドアベル代わりに残骸をこの屋敷に投げ込もう。ガーゴイルは1階、騎士は2階、キメラは3階に。これでどこにいても分かるよ」


触手の先をいつもの形に戻すと残っている残骸を振り回し始める。変な方向に飛ばさないでくれよと祈ると、伝えた通りに放り投げた。周りのお屋敷に迷惑かけたくはないもんね。


残骸は派手な音を立てて衝突した。多少気配は感じていたので、様子を見ていたものもいるのだろう。これを見て屋敷の陰から逃げ出す者もいるかもしれない。それもマキシ様が対策はすると言ってたから大丈夫だろう。


お荷物の男を回収して、入り口に向かって再度歩を進める。入り口前でローブの男にビンタをしてムリヤリ覚醒させて声をかけておく。


「まだやります?俺が出てくるまで逃げないでいるなら今は見逃しますよ?」


屋敷に投げ込まれたゴーレムを見て再度気絶した。面倒だったので簀巻きにして転がした。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


屋敷の扉を開けて中に入ると、複数の男が武器を持って待機していた。剣を持っている奴は賑やか士程度の実力で、槍・鞭・短剣二刀・戦斧と違うものを持っているやつはその中でも頭2つくらい出ている感じだ。


「貴様、常識を知らんのか」

「こんな少年に尾行貼り付けて様子を伺う変態犯罪者の家だったら何しても良くない?僕何されるのかって夜も寝られないよ」


グッスリ寝てたやないデスカ、というツッコミは俺にしか聞こえない。その口調でツッコミされるのめっちゃ気持ち良い!出来れば「デス」は要らなかった。今度よく話し合っておこう。


話しかけてきていた槍の男が話すことは無いとでも言いたげに頭を振ると、手で合図した。

途端に剣を持った賑やか士たちが切りかかってくる。荷物の男を狙っている奴もいる。まずは後ろに投げて屋敷の外に避難させる。


攻撃を避けるために身構えると、先程の待機状態と違って明らかに目がイッた状態で切りかかって来ていることに気づく。


「ご主人!狂化しとるデ!気ィつけテ!」


手短にヨウキが叫ぶ。狂化してるってことは動けなくなるまで襲ってくるな。共通してるのは…剣かな。量産型の剣に呪いの状態異常を付けて使い捨てる感じらしい。

自分の剣を抜いて無魔法で剣を頑丈になるよう強化する。残りの4人がじっと見ているのはこちらの出方を見ているようだ。観察して勝機を伺っているのだろう。やだやだ。


同時に来られると面倒なので、近いやつへこちらから仕掛ける。剣を受けることなく、強化した剣が相手の剣と持ち手の腕の骨を叩き折る。あまり良い品質ではなかったようだ。折れた剣が地面に落ちるころには持ち主の男は正気を取り戻している。痛みで呻いているけど。


手放すだけで解除されるのはありがたい。分かったならどんどんやっていこう。2人目、3人目と同じような目に遭ってもらう。触手を伸ばして頭を揺らしたプルが、入り口の方へと戦闘継続不可の男を投げていく。入り口には待機した分裂プルが控えており、動けないように縛って転がしている。


5分もしないうちに剣を持った男と片付けた。改めてロビーを伺うと恐ろしいほど広い。祝福の朝亭の食堂が2つくらいは入りそうだ。向こうも40人くらいは一気に座れるんだけどな。


「貴様の動きは見せてもらったぞ。もはや勝ち目は無いと思え。俺からやることで構わないな」


そう言いながら戦斧を持った男が他の男に向けて発言した。他の男たちも異論は無いのか、何も言わない。でもこっちには言うことがある。


「順番を勝手に付けてたのはあんたたちだからな。こっちがそれに付き合う必要はないよな」


戦斧の男が訝しげに声を出そうとしたとき、自分の足が動かないことに気が付いたようだ。


「なっ!!」


戦斧の男の足にはプルが絡まり付いている。俺を見ることに意識を割いていたから、音もなく近づくプルには気が付かなかったんだろう。


「今回の件については、俺も怒ってるよ。でもな~」


戦斧だけでなく、鞭と短剣二刀の男も同様に足が動かせなくなっており、徐々にプルが3人を持ち上げていく。そのころには口も抑えられて既に声も出せない。鼻は抑えてないので、呼吸できるだけ優しい…かな?

ちなみに槍の男はこの場の仕切りのようなので、手は出していない。いや、触手は出していない?


「初めて出来た弟分を害したやつらがいるってなったら、新米兄貴分がめちゃめちゃ怒ってるんだよ」


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


足を掴まれた3人の男たちは、屋敷のエントランスロビーの破壊に使われた。2つあった階段の1つは既に瓦礫となり、見える範囲の扉は叩き壊されて部屋の中が見えるようになっている。しかし、ここまでやっても、男たちは3人とも死んでいない。絶妙な力加減である。


前世の物理法則と比較してスキルがどの程度の効果があるのか、また気を失った時に効果の変化があるのか、あたりは確かめておきたかった。

コレクションハウスの中で寝たら、その瞬間にはじき出されちゃうからね。術者の俺だけなのかもしれないけど。まあそれは後で良い。


プルが振り回した男のうち、短剣二刀の男はヨウキを殺したときに現場にいた男だそうだ。その言葉を聞いて、一人だけ振り回す速度が上がったのでプルも聞いていたのだろう。ボロボロ具合が違う。しかし、今後のことを考えると死なせるのは惜しい。


「正々堂々と戦うとでも思ってるのかな。陰謀を企ててるやつ相手に、真正面から戦う必要ないよね。まあ後悔させるのはこれからなんだけどさ」


ヨウキに提案したこれからの発明品は実験が必要だ。その被験者が確保できるならそれに越したことはない。ここで大量に確保できるのは喜ばしいことだ。体が丈夫じゃないと実験できないので。

それに、どんなスキルを持っているか分からないから、思わぬ反撃を食らうかもしれない。心を折っておくことは必須だ。


その結果、屋敷のロビーは廃墟へと姿を変えていた。


槍の男を見ると、槍を構えてはいるが既に腰が抜けてへたり込んでいる。屋敷に入ったばかりの優越感たっぷりの顔が懐かしい。


「じゃあ、案内頼むよ。あんたがどうなるかはその心がけ次第だから」

お読みいただきありがとうございました。

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