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67尻尾を掴んだら泳がすことはしない

本の中身を確認するメンツとして集まったのは、エルンハート公爵家から当主のマキシ様と長男のヒュレム様が、冒険者ギルドからギルドマスターのライアードさんとサブマスターのエルンストさんが参加している。

騎士隊からは専門家がいないとのことだったので誰も来ていない。俺とプルもいるよ。役割は特攻隊かな。


「結果から言うと研究はしていたとは思いますが、繋がる研究なのかどうかすら分かりません。それっぽいと言えばそれっぽいのですが」


歯切れ悪くエルンストさんが報告する。


「どちらかと言うと魔法陣としての研究をしていたことは間違いないということしか分かりませんでした。他の本は基礎研究の範囲ですね。この続きがあったとしたら持ち去られているのでしょう」

「そうか。こちらからの手がかりは無しか」

「通常業務も回す、無いと分かっていても調べる、両方やらないといけないのが下っ端の辛いところです」


エルンストさんが疲れ果てた表情で呟く。


「したっぱ?サブマスターなのに?」

「この中では下っ端でしょう?こちらは囮みたいなものですから、能力はもっと有効活用しないといけません」


囮とは聞いていなかったが、招集がかかるまでは何かあっても暴れるなと言われていたあれのことだろうか。


「うむ。これ見よがしに置いてあった書物にヒントがあるとは思っていない。スタンピードが起こらなかったことにこそ、犯人は動くと判断したのだ」


ヒュレム様が話し出した。優し気な雰囲気をまとっている方だから、こういった荒事を仕切る経験はあまり無いように感じる。今のうちに経験させておこうということなのだろう。


「クーロイ君が普通に生活していれば何か反応を見せるだろうというのが1つ。もう1つは当日参加した騎士隊に何かはたらきかける輩がいるかどうか。この2点で見張りを立てていた」


それで暴れるなということか。ついて来ている人がいるから何かと思っていた。悪意を感じたやつには分裂プルの極小を付けている。これでアジトもバッチリだ。


「それで、クーロイ君はおそらく居場所の把握まで済んでいると考えて良いのかな?」

「はい。もちろんですよ。今から5分もあれば連れてこれると思いますよ。体も温まっているので」


マキシ様がニヤッと笑って聞いてきたので、事実をお伝えする。

ちなみにケイトの鍛錬を済ませて、夕方前の時間に集合している。ケイトの鍛錬をするのもカモフラージュの1つなので、マキシ様からいつも通りに行うように指示された。

鍛錬後に夕食を頂くこともあるので、俺が屋敷に入っているのはおかしくはない。屋敷の近くで待機しているのをプルから教えてもらっている。


「ギルドの二人は尾行されてないんですか?」


疑問をぶつけてみた。


「俺を尾行とか、捕まえてくださいって言ってるようなもんだからな」

「私はカンヅメだったので、尾行されるところに出てませんね」


ライアードさんは俺寄りの人だった。もう一人にはノーコメントで。


「そ、それで騎士隊の方なんですが」

「すまんね。ヒュレム様。話の腰を折った」


ライアードさんが代表して謝ってくれた。俺も話はちゃんと聞こう。背筋を伸ばす。


「いえ、お気になさらず。全員に付けるわけにはいきませんでしたから、騎士隊長と現場に付けたんですが」


一拍置いて話し出す。


「明らかに様子が変わりました」


マキシ様が、ほぅと相槌をつく。


「普段は変わりませんが、昨日の戦闘訓練では人が変わったとしか思えないような形相で檄を飛ばしていたそうです」

「それは…、オステンタさんと似てますね」


戦闘の前哨とも言える段階で人が変わった感じになった。それは何かがあったとしか思えない。


「では、これからの動きはどうしますか?両方とも俺が動いた方が良い気はしますが」

「情けない話だが、両方ともお願いしても良いだろうか。キミは隠密としても有能だね」

「了解です。では、早速近場から行きます!」


15分後。


「ということで、騎士隊長さんことブレイムさんです」

「クーロイ殿が来られたので、こちらに馳せ参じた次第であります。どういった内容でしたでしょうか」


尾行者は先に簀巻きにして転がしてある。練習して身に付けた技術の練習に乗ってもらったおかげで実用に耐えられることも確認した。ガタガタと震えておられる。

その後で騎士隊長さんを迎えに行った。実際に会ってしまえば、以前と同じで何が悪いのかは分かる。今回は騎士剣の鞘だった。


「いや…何から話をすれば良いかな」

「クーロイ君の衝撃から立ち直る方が先かな」


ギルドコンビが疲れている。公爵家当主はいつも通りだが、長男は別室にて休憩中だ。


「話を先に進めてしまいませんか」

「そうだね。時間がもったいない」


俺とマキシ様が同意したことでブレイムさんに質問する。


「と言っても聞きたいことは1つだ。その騎士剣の鞘は誰から受け取ったものだい?」

「これでありますか」


今回のスタンピードを未然に防いだという功績で渡されたものらしく、意匠は凝っていると言って良い。勲章は渡すことが出来ないから個人的にと渡されたそうだ。


「騎士団団長のアレックス・フォン・ビーガスペード殿から頂戴いたしました」


マキシ様が頭を抱える。簀巻きの男も表の肩書きが騎士団の諜報員だったからだ。裏の所属は言うまでもなかった。


「まさか騎士団が、公爵家の1つが国に害を及ぼす事態を引き起こそうとしているとは」

「公爵家の次男がそんな危ない橋を渡ろうとするかね」


ライアードさんは疑問を口にしているが、マキシ様としてはショックだよね。なぜこんなことをしたかは俺には一応関係ない。これ以上、村に手を出したツケを払ってもらうだけだ。マキシ様にこれからの行動を確認しておこう。


「じゃあ、捕まえてきて良いですか?」

「……どちらからだ?」

「裏の方から行ってきます。表の方はそれで充分脅しになるでしょうし」


頭を抱えていた腕を体の前で組むと目を閉じて黙考する。2分ほど時間が経過すると覚悟を決めた顔で俺の方に向き直る。


「止めても止まらないよね。クーロイ君、まずは裏の動きをしていたサンドバ家から拘束してきてくれ。ビーガスペード公爵家の方については、ここにいる人員で緊急の面会を陛下の御前で行うと取り付けておこう」

「了解です!では、行って参ります!」


意気揚々と公爵家の門を出た俺は、プルからヨウキのことで話しかけられる。


「今じゃないとダメ?ダメか。ちょっと急ぎなんだけどな。え?関係してるの?分かったよ」


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


<少し前のコレクションハウス内>

【ヨウキ視点】


「いや~。解体がやってもやっても終わらへんナ~。笑いが止まらんワ」


解体そのものは素材部屋の入り口前で行っている。部屋の中で行うと解体にかかると予想した1か月分の時間が経過してしまうからだ。解体する分だけを持ち出し、終われば元に戻して次を持ち出す。

進捗具合は5%というところだ。手始めに簡単なものから取り組み始めている。疲れることはないが、ずっと同じことをしていても思考が鈍るので休憩を取ることにした。横には一緒にプルがいる。


「プルの兄貴がいたら時間経過してしまいますケド、良いんですカ?…ワイのやってることの見学デスカ。御主人が良いて言うなら構わんのですガ」


許可済みなら別に構わないだろう。時間が経過する方が緊張感を持って取り組めるし、兄貴が話し相手になってくれる方が気が楽になる。

コレクションハウスとは、恐ろしいスキルだと思う。数日の間にご主人となるクーロイのこれまでのことを教えてもらった。まさか正直に全て話されるとは思わなかった。


「創造神とか、転生とか、ごっついユニークスキルとか…、規格外にも程があるデ」


隣にいるプルが、すごいけど本当のことだと更に念押ししている。まさか疑っているわけではないので、驚いているだけだと弁明する。部屋に置いてあるものを見てみようとそのあたりの棚を見て回る。


「これは…。そうか。ワイだけ黙ってるわけにもいかんカ…。兄貴、ご主人と話することはできますカネ」

お読みいただきありがとうございました。

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