65陽気なヨウキ
誤字報告頂きました。いつもありがとうございます。
探索と格好良いことを言ったけれども、生活感あふれるもう一つの部屋と魔法陣のあるこの部屋の2部屋しか、ここには無い。
生活スペースにあるのは、台所に食卓、ベッドと机に本棚だ。食料保存で使っていたようなスペースもあるが、何も残っていない。最低限生きるためのことはできるかなという部屋のようだ。扉すらついていないこの2部屋はいつでも魔法陣が目に入るような状態になっている。
ここに閉じ込められた人がいたとしたら、苦しいことになりそうだ。
今の俺には魔法陣の解析も出来ないし、エルンストさんみたいに罠の発見も出来ない。現状では、罠があると言われてようやく分かるくらいだ。
とりあえずあるものを探ることからやってみようか。
本棚の本を見てみると、それらの背表紙には魔石、召喚術、魔法陣などの言葉が多く並んでいる。あとは、魔物とは何か、呪いとは、魔力の定着化などと書いてある本も数は少ないが並んでいる。研究の成果として目の前に魔法陣があるので、一定の成果は果たしていると言って良いだろう。
ここでそれらの研究をしていたのだろう。証拠になるわけだし、全てコレクションハウスに収納する。入り口の部屋に設置した机の上に配置されるようにしておく。
その後も探してみたが、特に何も見つかることは無かった。いつまで使われていたかは分からないが、食料などの生きるために必要なものも無いので、ここに置いてあるものは放置されたものなのだろう。
魔力が強いから何かあると思ったけど何も起こらないなら、エルンストさんを呼んだ方が良いだろうか。もう一度階段を上がろうと向き直した時に、見つけてしまった。
見つけたというよりも目が合った。いや、目は見えてないから目が合ったはおかしいか。お互いに視線を交わしあう、これが一番しっくりくる。
そして、この部屋に漂っている魔力はこいつのものだ。
Bランク魔物のリッチが浮いている。
一気に警戒度を上げたが、襲ってくる様子が見えない。というか全く気が付かなった。プルも…気が付かなったようだ。漂う魔力にごまかされてしまったのだろう。今後の課題だな。というか同時に気づいたってことはプルの目は一方向なんだな。今言及することではないか。
余計なことまで考える余裕があるのは目の前のリッチのせいだ。本当にただ漂っているだけで魔力の高まりなど無い。顔を突き合わせることしばし、何も反応が無いので話しかけることにした。
「えっと、リッチですよね?言葉は通じますか?」
「………ツウジル」
少し間があったが返事が返ってきた。争わずに済みそうだ。何を聞くべきか迷っているとリッチから話しかけてきた。
「ソウヤ。コトバヤ。ワスレトッタナ。ナンデヤロ?」
すっごい特徴のある言葉を話し出した。
「アー、アー、アー。あ、うぅん!!」
喉の調子を整えだした。
「兄ちゃん、悪かったナ。コレで話できるワ。話し相手になってくれるンカ?」
すっごいフランクに話しかけてきた。一人で来るんじゃなかったと真剣に後悔した。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「じゃあ生前の記憶は無いの?」
「ソウヤナー。なんか気が付いタラ、兄ちゃんが立っとったからナ。それまでの記憶はナイナ。あるけど薄っすらって感じヤナ。この部屋に見覚えはあるけど、モウ少し記憶揺さぶるものが欲しいナ」
記憶を揺さぶるものか、ここで暮らしていたとするならさっきの本を見せてみるのが良いかもしれない。取り出して見せよう。
部屋の中をふわふわと浮いて落ち着かずにあちこちと見回っていると思えば、唐突に近づいてくる。ちょっ!?骸骨のみで近づいてくるのは勘弁して!?
「ナンヤ、名前が無いと困るナ。どうしよか。リッチって魔物なら、リッチなおじさん、でどうや?あっはっは~」
「…すごく陽気だね」
その言葉に大笑いするリッチ。
「陰気の塊のはずのリッチが、陽気!ぶはは!兄ちゃんオモロイこと言うナァ」
少し笑っていると唐突に静かになる。
「兄ちゃん、悪いけど出来れば記憶は出来れば戻らん方がエエ」
「そうなの?」
「特に魔法の記憶は勘弁してホシイ」
既にコレクションハウスから取り出そうと手に持っている。カバンでカモフラージュしているからまだ見せてないだけで、あとは引き出せばすぐに見える状態だ。
「今が陽気でも、こんなところでリッチになってるんヤ。きっと生前に碌なことしとらン。あまり自慢できんことをしてた人間なんやロウ。兄ちゃんも手がかりがあるとしても少し待っててくれんカ?」
記憶に関しては俺も途切れ途切れだ。思い出したいこともあれば、思い出したくないこともある。消えたままでいてほしかったことも。
気持ちが分かってしまった以上は、良いだろう。この倉庫のことと、本の中身を確認するだけでも何かの手がかりになるだろうから。しばらく一緒にいて、安心したら相談してくるだろう。
「わかった。良いよ。それでここで待ってるの?」
「イヤ。ついて行くデ」
「はあ?」
意味が分からない。ついて行く?憑いてくるの?
「憑りつくって意味とちゃうデ。どちらかと言えば、そちらのスライムさんや。えらい強ないカ?」
「プルのこと?強いのは強いけど」
「この身やから分かる。途轍もないものを感じるデ。ワイでは足元にも及ばん何かヲ。プルの兄貴って呼んでもエエ?」
何のことか分かっているのだろうか。プルは許可を与えている。俺の許可は確認しないのかな。
「兄貴って呼ぶなら兄ちゃんって呼んでたらややこしいナ。う~ん…。決めた!ご主人って呼ばしてもらうワ」
「俺の気持ちは確認してくれないの?」
「ん?ご主人はなんだかんだ言って結局は許してくれる人やって、兄貴が言うてるデ」
おい、プル!しばらく魔石やらんぞ。
プルルルルル!
足にしがみついても、かわいく首をかしげてもダメだ!しばらくは放置しよう。
「まあついてくるのは良いよ。いや、ずっとついてくるのは冒険者ギルドに確認してからの方が良いかな。少なくても町中で姿を現すのは危険だと思うよ。その辺りはどうするの?」
「そうやなぁ。この部屋の中のモンで、媒介に出来そうなものを探そカ」
まとわりつくプルを無視しつつ、リッチと一緒に部屋を改めて物色する。生活スペースの机の引き出しから装飾品がいくつか出てきた。
「ペンダントに指輪、ピアスにブレスレットか…。この辺りは役に立ちそう?」
「そうやナ。生前のワイが身に付けてたものやナ。少し思い出したワ」
「えっ!?いきなり!?」
「リッチになってからの経験がないからナ。少しのことで思い出してしまうみたいヤナ」
コレクションハウスの中の本は違うところに隠した方が良さそうだ。本の取り出しや内容の検証は見てないところでしないといけないな。
「それにしても控えめな装飾品だね。もう少し派手なものを選んでそうだけど」
「ワイが少年のときに買ったっぽいナ。装飾品を買うだけで恥ずかしかった気がするワ。でも、これなんかええやんカ」
そういって指差すのは、まんまの髑髏の意匠がついたピアスだ。これだけ他のとテイストが違うぞ。
「何で方向性の違うものが混じっているんだ?」
「おまけでもろたんちゃうカナ。売れんから引き取ってくれて言われた気がスル」
「これでいけそう?決定?」
「決定ヤ!」
不思議なことに髑髏に向かって出たり入ったりが出来た。ピアスの中に入ったときでも外の様子は分かるようだ。本の検証が余計に難しくなるな。これを耳に付けておくように言われたので、左耳に付けておいた。あまり趣味ではないのだが。
「あ~、そうヤ。名前やけど、ヨウキって名乗るワ。御主人よろしくナ」
記憶を無くしたリッチ、陽気なヨウキに憑りつかれた!
「失礼なこと考えてるヤロ」
「別に何も」




