63発覚と対策
創造神様からは何も言われなかったが、コレクションブックにも追加された情報があった。習得もしくはレベル上昇に至るまでの習得具合が示されていた。いつから増えていたのか気が付かなった。
懸念のレベル5で止まっているスキルは、やはり現状では伸びないようだ。しかし、どれくらいで習得できるか、上昇するかは心をくすぐられる機能だ。これは毎日見ていたい。より捗る。
これまでの中で習得が難しいスキル系統が分かっている。それが耐性系のスキルだ。毒耐性は今後のことを考えて、ルウネ監修のもとで安全に十分注意して行った。回復が出来る今でも許可されたものを口にする以外の冒険はしていない。
植物由来ではなぜか全て毒という判定になってしまい、麻痺や石化といったメジャーな耐性は身に付かなかった。
それなのに、混乱耐性という身に覚えがないスキルが習得間際くらいまでに高まっていた。心当たりを思い出してみると、混乱していた人が2人いる。
1人が本命のオステンタさん。これは誰が見ても明らかだった。一件が静まってからのあの人は別人と言えるくらいに落ち着いた。ギルドマスターが信じられなかったのも、元からの性格を知っていれば、行動が一致せずに信じられないだろう。
2人目にアラン様が加わる。オステンタさんと同じ被害者と言って良いだろう。2件あれば傾向が見えてくる。
原因が何かと考えれば、オステンタさんは肩当て、アラン様はブレスレットだ。オステンタさんが手に入れたのは冒険者が掘り出し物を持ち込む武具屋だったが、持ち込んだ人物を店主は覚えてはいなかった。
アラン様も場所は覚えているが、どんな人物だったかまでは覚えていないそうだ。本当に印象に残りにくい人物か、残らないように何らかのスキルや魔道具を使っていることになる。
後者だと考えて動くことにした方が良いだろう。
混乱耐性の話やコレクションブックの説明を正直にするわけにもいかないので、何となく分かるんです、とぼかした。
察して受け入れてくれたのは感謝しかない。
結局はアラン様は正気に戻ると共に、不審なものには手を出さないように注意されることになった。
内容が内容なだけに完全に平和な雰囲気ではないが、本来のルピネイラお嬢様とアラン様に婚姻の話を行って、家族での食事会にうつることになった。
その前にマキシ様は王家への報告書の作成を行い、俺は食事会を辞して冒険者ギルドへの報告を行うことになった。
公爵家という大貴族の一角と冒険者ギルドという実力者軍団がハッキリと敵と認識して動くことになるのだ。そして最終的に判明すれば権力者の方々には申し訳ないが、混乱ではなく暴走するやつがここに一人いる。自分で言っていれば世話ないけど。
状態異常の付与か。付与は何を対象としているんだろうか。持っているスキルなのか何かの条件があるんだろうか。一番重要なのは俺も出来るんだろうか。付与は魔法扱いだから今の俺には出来ない。俺も有効活用にすごく良いアイディアがあるからいつかは欲しいものだ。
とりあえずケイトは俺も食事会に来ると思っていたから来ないことに不満だった。本当は食事会は不参加で鍛錬のはずだったからだ。マキシ様から貴族学校に向けての学習がはやく済めば俺の予定次第で鍛錬の日や冒険者としての登録を良しとする許可を引き出していた。
エルンハート家の女性陣の女傑感がハンパない。というかセレナ様の血筋が強すぎないかと心配になった。
俺はというと、盗賊の砦に行くのは延期して、王都中の店を回って妙な魔力を放っているものが無いかを探す役割を果たすことになった。
たまたまとはいえ、知っている範囲で2件出会った。しかもベテラン冒険者と貴族だ。何かが違っていれば大事件になっていた可能性がある。既に事件になっているものの洗い出しは俺には手を出せないので、未然に防ぐことを目的にしようと動くことにしよう。
こういうロクでもないことを仕出かすやつらにも心当たりがある。公然とした立場を持って潰せるのが非常に嬉しい。今はより自分を磨いて、その時を待つとしよう。
王都に来てすぐに手を出さなかったのは全体像が掴めなかったからだ。力を持っている者を単純な力だけで潰しきれるとは思っていない。でも状況が整ってきた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
あれから1か月経過。王都の店回りもようやく一通り回ることが出来た。何か怪しいものを売りに来る人間がいれば、何食わぬ顔で了承して名前を連絡を付ける方法を聞くようにと伝えておいたがやっと引っかかってくれた。
表通りや真っ当に商売をしている店は後回しにして、裏通りから先に進めていた甲斐があった。
裏通りの方々の買収方法?
1つ目は公爵家が動いているという証を借りていること。2つ目は冒険者ギルドの許可証も一緒に持って行くこと。それでも分からない人には3つ目として、はやく終わらせないと自由に活動できない冒険者の少年とその友達のスライムが傷を一切付けないように暴れること。
最初のうちに3つ目まで披露したおかげか、割と皆さんが従順に動いてくれた。黒幕の家は自分のところで目当てのブツを売るなんて分かりやすいことをしないのはわかっているけど毎日帰りに寄ってみたよ。顔を名前を売ることは出来たと思う。
ということで、連絡の渡りをつけてもらって指定場所の王都の外にある倉庫に向かう。色々な戦力の方たちには伏せてもらっている。俺も金髪のカツラを被って荷物運びのフリをしている。一緒に行く商人さんには分裂プルを付けて安全の確保をしている。
どこの家の倉庫か分かるかと思ったけど、所有者がいないことになっていた。それを潰したのが例の家なので乗っ取っていたことになる。これも証拠にはなるが、もっと人的な証拠か、あるならば書類がほしい。
「ここが指定された倉庫だ。時間はあと5分ほどで中に入るように言われてる」
「了解だよ。おじさんも悪いね。荒事に付き合わせて」
一緒に来たのは、店を訪れる前に協力を申し出てくれた裏町の武器屋のおじさんだ。俺も監視されてたからおじさんはわざわざ宿泊客としてカモフラージュして来てくれた。
「あんたに暴れられても困るし、サンドバのやり口にはもう付き合えないからな」
「はっきり言うんだね。俺は味方には優しいから、安心してよ」
「このスライムがくっついてるのに馬鹿なことを考える奴はいねえよ」
「お願いね。あと、馬鹿ってあんまり今は貶し言葉にならないよ」
「口癖みたいなもんだ。気にするな」
小声で軽く話をしながら時間を待つ。中の気配を探るが分からない。倉庫の壁が何か遮っているのかな。プルも同意見ってことは油断しないようにした方が良いね。
時間が来たのでおじさんが扉を開ける。横から俺も覗くが、中は暗くて何も見えない。扉が倉庫の北側に設置されてるから陰になっていて余計に見えにくい。覗くと同時に察知系スキルを総動員する。はい。アウト。
プルの警告と同時におじさんを掴んで後ろに飛ぶ。瞬間、入り口扉だけでなく、壁を破壊して多種多様な魔物が飛び出してくる。
スライム、ゴブリン、コボルドのEランク魔物もいるが、スケルトン、オークのDランク魔物、果てはオーガやトロルといったCランクの魔物まで。
堤防が決壊するのを待っていたかのように魔物があふれ出す。大急ぎで倉庫から離れたが、既に倉庫に入っていたよりも多い体積の魔物が溢れ出てきていた。
一気に殲滅しないと危険であると判断して、魔力弾丸を可能な限り作って放ち続ける。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
一緒に来たおじさんを見るが、顔が真っ青になっている。悪意は感じなかったしこの人は白か。目の前の脅威が無くなるわけではないので、とりあえずは逃げ回られるよりカバーできる範囲にいてもらおう。
倉庫を見ていてか、音を聞いてか伏せていた人たちが急いで近づいてきた。サブマスターのエルンストさんとあの腹の立つ物言いの騎士隊長さんだ。名前は聞いてけど忘れた。
「これはすさまじい…」
エルンストさんは何とか言葉を発しているが、騎士隊長の方は近づいてきたものの何も言わない。ちらっと表情を伺うと驚きすぎて顎が閉まらないようだ。
「クーロイくん、我々で出来ることはあるか?というかこの凄まじい攻撃でMPは持つのか?」
「あと5分くらいは大丈夫です。2分経っても魔物が途切れなければ別の手段を考えましょうか」
目安を伝える。飛翔の練習のときに発生したMP消費軽減が良い仕事をしている。1割減くらいになっているのが大きい。単純にMP消費だけの手段が無かったので良かった。宿屋内で魔力放出しすぎるわけにもいかなかったからね。
そうして1分ほど経過すると魔物の飛び出しも少なくなってきた。限度の時間を迎えるころにはほぼおさまった。俺の魔力を気にしたエルンストさんが、もう人力で行えるから止めるように言ってきた。
勢いが弱まってきたあたりから適当ではなく、狙って打つようにしていたので消費は抑えられていた。が、一人でやると冒険者ギルドや騎士団が何もしないことになって悪いかと思って言葉に従うことにした。
魔力弾丸を放つのをやめて味方への誤射がないことを確認すると、二つの部隊が一気に建物を目指してなだれ込んでいった。危険そうなものが無いことは俺とプルの察知で確認している。よほどのことがない限りは大丈夫だろう。
消費したのは大体4割くらいだ。まあ放っておけば回復するだろう。そう思っていたら、エルンストさんがすごい顔をしながら近づいてきた。
「MPは大丈夫か!?限界が近づくと突然倒れるんだ。すぐにMP回復薬を飲め!」
なぜか怒っている。え?なんで?表情に出ていたようで、口に回復薬を押し込みながら説教が始まる。
「君が強いのは分かっていたが、こんな規格外の消費をしていては命に関わるぞ!無茶なことをするんじゃない!!」
心配で怒ってくれている…?
そうか。知らない人からすると俺の存在は異常だった。
最近は何やっても心配などされないから、真正面から言われるのは久々だった。ありがたくお言葉を頂戴しよう。
「心配していただいてありがとうございます」
「クーロイ君からすれば子ども扱いはイヤかもしれませんが、私が強くなった理由が誰かを守るためです。守る側にしか見えない君に無茶をされるのは心に悪い。本当に大丈夫なんだね!?」
回復薬だけではほぼ回復しきる量ではないが、しっかり回復していることを伝えた。心配ないことを信じてもらうころには魔物の駆逐は完了していた。
一緒に来たおじさんは何とか状況を飲み込んで落ち着いた表情で座っていた。
騎士隊長さんは何かを噛みしめるような表情で部下の騎士たちに指示を出していた。
倉庫の面影は俺の魔力弾丸でほぼ無いから何か見つかるか心配だった。
お読みいただきありがとうございました。




