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60鍛錬開始の3か月後

飯テロを意識した表現があります。空腹なのに食事出来ない環境の方はご注意ください。

ケイトの指導を始めて3か月が経過した。何とか魔力操作までは出来るようになった。これが出来れば発展させて身体強化に持っていける。魔法スキルは俺以外は割と素養があるものは身に付くようなので、ケイトの希望通りに回復が出来るようになるかはそこでまた一山ある。

手を繋いで魔力を相手に流すのは思ったよりも高度な技術だったようで、誰もやったことがないと言われた。俺は出来たので、おそらく慣れだろう。

しかし、今まで出来なかったことが出来るようになったことは自信になるようだ。ケイトの表情は良くなったと思う。おそらく俺と会った時が一番彼女にとっては底にいたのだろう。


「先生!魔力操作はこれでいつでも自分で使用していてもよろしいのですか?」

「いや、まだ何かあっては困るから分裂プルを渡しておくよ。操作が危なくなったらプルが助けてくれる。持つか頭に乗せながらなら一人でやってくれても良い」


MPがなくなるほどがんばらないようにも注意して終了だ。もう手を握っても赤くなることはない。ないのだが。


「感覚を忘れないように、これからも時々魔力操作の指導をしてくださいね」

「いや、もう必要ないよ」

「……」


不服そうな顔をするが、不必要なことをすることは無い。しかし、子どもの願いをを叶えるくらいは良いだろう。


「…たまにな」

「はいっ!ありがとうございます」


やる気のコントロールに他人を利用するのは良くないのだが、まあまだ魔力操作を出来るようになったばかりだ。大目に見よう。


「じゃあ次は走り込みね。屋敷の周りを1周4分で、早く回ってくれば呼吸を整えて。今日も5周で1セットだ。大休憩5分のあとは同じことを3セットね」

「いつも通りですね。少しでも休憩時間が取れるように1周3分を目標に走っていきます!」

「本当に呼吸を意識しろよ。走るのは良いトレーニングになる。体力も精神力も自分の体をコントロールすることも鍛えられる」

「大丈夫です。何度も聞いてますから。では、始めます!」

「行ってらっしゃい」


話をしながらストレッチをしていたので、準備はしっかり出来ていたようだ。砂時計をひっくり返して元気に走り出していった。ポニーテールって本当に馬と同じように動くよな。

こうやって考える暇がないくらいに追い込んでも、無意識で魔力操作や身体強化が使えるようにならなければ意味がない。

良い意味で追い込まれてくれるから扱いやすい生徒だ。


見送った後は自分の鍛錬に時間を使う。纏気と闘気操作がもっと効率よくできるようになれば負担も軽くなり、持続時間も長くなるはずだ。

発動させた状態で体術の動きやゴザルさんに教えてもらった型をなぞる。


「降御雷も久しぶりだったからな。久々に他のもやっておこう」


生徒ががんばっているときは、先生もがんばっているものだ。目に見えるところで見せておこうか。

コレクションルームからこっそりと大きな木材をいくつか取り出して動かないようにプルに固定してもらう。剣を距離を取って下段に構える。


「剣式一番!飛鳥!!」


斬撃を飛ばして真っ二つに切っていく。何度か放てば薪として使いやすい大きさだ。こういうところで時間と手間を有効活用していかないとな。さあ今度は縦に割るとしよう。そこに1周目を走り終わったケイトが帰ってきた。


「そんな大きな木材ありましたっけ?」

「あぁ。マジックバッグから取り出したんだ」

「そうでしたか。」


どうやって切ったのか現場を見ていないと想像できないのだろう。薪までもう一歩の木材をしげしげと観察している。


「砂時計が落ちきるぞ」

「あっ、いけない。2周目行きます!」


砂時計をひっくり返して走り出していった。じゃあ次行ってみよう。


「剣式二番!降御雷!!」


これ、真面目にゴザルさんから教わったときの方法だから。俺が考え出したんじゃないよ。あの人たちの考え方が俺を形作っているんだよ。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「今日もありがとうございました!」

「はい。今日もがんばってました。時間が出来たときはしばらくは同じようにひたすら繰り返してくれ。ただし…」


注意の言葉をケイトが遮る。


「次の日に動けなくなるまでしてしまっては非効率、ですね」

「その通りだ。どうせ、一日がんばって手に入るようなものがケイトの目標じゃない。毎日続けられなければ意味が無い」

「自分がどこまで、何が出来るのかを見極めることこそが必要なことだ、ですね。もう覚えてますって」


言わないと無理しそうだから。それに初対面で嵐竜王を前に見誤ってたからな。まあ、反省はしているので、それは言わない。


「明日は休みだね」

「はい。お姉様が帰って来られるので。先生もお会いになられますか?」

「イヤ、良いよ。ケイトの鍛錬もクエストだけど、他にも受注したいものはあるから」

「わかりました。ではまた明後日お願いします」


公爵家から祝福の朝亭まで目立たないように走って帰る。


素直になったケイトは真面目に取り組むようになっていた。元々母親のセリナ様の身体能力はおそらく人族の中でも有数の強さを誇っている。本人の前で口に出すことは絶対に出来ないが。

諸々の向上はお約束と言って良い。リタさんやセバスさんが教えていた時に伸びなかった原因は精神的なものだろう。


(がんばろうと思わなければ成長しにくいだろうからねぇ)

「誰だ!?」


立ち止まって周りを見回したが辺りには誰もいなかった。気のせいではないはずだけど。プルにも聞こえたけど、周りには誰もいないそうだ。気味が悪いが…、とりあえず帰ろう。


近くなってくると、香りが漂ってくる。祝福の朝亭の料理長はリアンカさんのお父さんだ。格好は至って普通で、どこにでもいるおじさんだ。料理が好きでふくよかな体型になっているのはご愛敬だそうだ。俺がレシピを渡したときに非常に喜んでくれた。今日の夕食は、以前渡したレシピの一つだろう。入り口に入る前から香りだけで入り口の周りに人だかりが出来ている。皆さん、すみませんね。俺は確実に食べられるんですよ。横を出来る限り無表情で通った。


一人分の夕食をリアンカさんが運んでくる。


今日のメニューは、デミグラスソースで煮込んだ魔牛肉のシチューだった。付け合わせでパンも2個付いてくる。


目の前に来るとますます香りがすごい。周りの他の客もほぼ同じメニューを頼んでいる。声がほとんどしていない。響くのは食器の音だけだ。

香りだけでパンがいくらでも食べられる。が、そんな愚行は起こさない。食べてこそ、味わってこその料理である。スプーンで一掬いすると、乗ったのは肉だ。なるほど、具材は少し俺には大きめだ。大口を開けて頂くとしよう。






「うっまぁ………」






舌だけでなく体まで溶けそうなほどに、口の中に幸せが広がる。肉は噛まずともホロホロとほどけていく。

充分に堪能した後にのどに流し込むと、通っているのどですら幸福感を感じる。


絶品すぎるよ~~~~~~。


これ以上の賛辞は今の俺からは出せない。はっと気づく。これを冷ましてしまうなど世界の損失であると!


人参は少しの歯ごたえと共にスープとは違った甘味を出してくる。

じゃがいもは煮溶けることなく、中に味は染み込みつつもほっくり感を残している。

玉ねぎは名脇役としてスープにうま味を加えている。

そして、何度口に運ぼうと止まらない魔牛肉の暴力!


一口ずつ噛みしめながら敬意を払いつつも食していく。一滴も無駄にすることがないように、スプーンで掬えなくなったらパンで皿をぬぐって口に運ぶ。

あ~~。パンまでいつもより旨い!なんだこれは!俺は明日死ぬのか!?これ以上の美味があるのか!?いや、あるぞ!米を食らうまでは死ねない!絶対に探し出すのだ!


新たな決意を胸に俺はリアンカさんに向かって叫ぶ!




「お代わりください!!!」


この日の夕食の売り上げは過去最高記録を打ち立てたそうだ。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆

満腹になり幸福感に包まれた俺は見覚えがある天井を見ていた。変な夢かな?


「変な夢とは失敬だな」

「創造神様か。いきなり何ですか」

「神託で話しかけたけどキミの反応が良くなかったからね。寝てるときにしたんだ。夕食の時の君はちょっと錯乱してたし」


うるさいな。美味かったんだ。


「いや、別に構わないけどね」

「心読まないでくださいよ」

「つい癖でね。で、今日の要件なんだけど。才能のレベルアップをお知らせに来たよ」

お読みいただきありがとうございました。

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