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6森の中の出会い

クーロイが4歳になって半年が過ぎた。魔力を纏ったまま動くことにも慣れて、今までよりも動けるようになった。

というよりも自身の異常性に気が付いてきた。他人のステータスを見ることは出来ないにしても、創造神がわざわざ特別というような才能がある。

隠していこうとしても目立つのではないかと思う。目立つと叩かれるのが世の中というものだ。命の危険まで考えた方が良いのではないかと思う。

いつまでもこの村にもいれないのかもしれないと思うと少々寂しく感じるのも無理はない。


牙丸との訓練も、クロエミのご飯も、アカヅメを始めとする友人たちとの交流も非常に楽しいのだ。

ここから離れるのも惜しいと感じてしまう。しかし、この1年で聞いた話もまた心を揺さぶる。


冒険者。


異世界によくある職業はこの世界にもあるそうだ。牙丸とクロエミは過去に、何なら二人の子ども家族は現在進行形で冒険者をしていたそうだ。

少し冒険者に適した才能があったり、なくても夢を追いかけて生まれ故郷を旅立つものもいるそうだ。

そういえばこの村にも10代後半から20代の若者は割と少ない。それ以上となると帰ってきて村の中での役割を見つけてくる。

大概が伴侶や子どもを連れて帰ってくるそうだ。うっすらと獣人の障害が見えた気がした。


クーロイ自身は人族だ。ただ、獣人に囲まれた中で生活して自分もその生き方をしてみたいと思う。

前世の記憶や才能のことと合わせると、一人で旅をするのも悪くない。

というよりも、一緒に旅立ってくれそうな友人がいない。


以前ならついていくことが出来なかった狩人ごっこだが、今は魔力を纏って動くことが出来るようになった結果、かなり優位に動けるようになってしまった。

嗅覚や聴覚のハンデがあったとしても、見える範囲まで近づいた時の速さが一段上だった。逃げられないときはあっても逃げるときは周囲に気を付けておけば捕まることは少なかった。

そうなったときのアカヅメの一言を紹介しよう。


「クーロイ!俺たちはお前の足元にも及ばない!年上であるというのに悔しいことだ。正直お前がうらやましい。

だから、だからもっと実践的な動きができるように特訓してくる!楽しみに待っていてくれ!」


イケメンはどこまでいってもイケメンだった。獣人は実力の高さをそのまま受け入れる。

アカヅメの発言でさえ、年齢を理由に努力して追いつくという宣言だ。下剋上を狙うにしてもあまりにも爽やかな発言である。

身体的には勝利しても精神的にはクーロイは完全敗北だと思っている。


「尊敬の目で見られるのはなんか違うんだよな。正直チートみたいなもんだし」


才能と黒い石の2つが原因だ。これが無ければ一緒に遊ぶことも出来ていないだろうが、あったおかげで逆に遊ぶことも出来なくなってしまった。


「薬草集めをがんばろ」


午後は森の中に入って、役に立ちそうな植物や実を集める時間にあてるようになった。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「クーロイ。動きが良くなった。これからも鍛錬に励め」


なんて、じいちゃんに言われた!頭をなでながら!

尊敬する人物から言われたからには嬉しくてたまらなかった。


その日の会話を思い出す。


「最近教えてもらった肉料理なのよ。これなら3人で同じものを食べられるでしょう?」

「うん!じいちゃん!おいしいね!」

「そうだな」


思いっきりハンバーグだったけど。お代わりのし過ぎで、その日の魔力操作訓練は無しになってしまったが。

ばあちゃんからのお祝いの気持ちが何よりも嬉しかった。


そんな嬉しかった記憶が頭をよぎる。そんな現在の体調は昼寝のおかげで元気いっぱいだ。


目的地の森は村のアスレチックから少し進んだ先になる。子どもたちが遊んでいる傍を通り過ぎた。

アカヅメを始めとしたガチ勢は別の場所で特訓に入った。7歳から9歳の男子の半分がそちらに参加しているそうだ。

年下の子たちの面倒を見るのも役割分担していた。


クーロイが免除されているのは牙丸とクロエミから免除の要望があったからだ。理由は分からないが。


横を通るクーロイに気が付いた子が手を振ったが、獲物役だったのか捕まっていた。油断大敵だよと心の中で忠告した。


今日の目的は薬草だ。ある程度数が集められたら調合を学ぶ予定だ。

「調合までは出来なくても、見つけられるだけで役に立つようになるものですよ」

「じゃあ色々摘んでくるよ!」


将来のことを思うと、調味料を自作してみたい。この世界にあるかは分からないが、カレーを食べたい。

薬草もそうだが香辛料になりそうなものが見つかれば良いなと思っている。

今日は一人で行く。一緒に行くことはあっても一人は初めてである。行き慣れているから大丈夫だろう。


森の中には基本的に戦闘力の無い大人や子どもも入ることがある。だから巡回は念入りに行われている。

魔物が現れたときは、察知スキルのある狩人が見回るのだ。見落とされることは無い。凄腕だからだ。開拓メンバーの一人である牙丸も良く行っている。


その信頼感もあってウキウキ気分で歩いていた。

森の中に入ってからは自分の足元を中心に見て探していた。

この森では薬草と毒消し草は一緒に生えていることが多い。その方が成分も良いと教えられていた。共生関係にあるのだろう。詳しい成分は分からないが。


腰に付けたカバンに十分採取できた。他にも見たことの無い実をいくつか持って帰るように摘んでいる。

何かの役に立てば何よりだ。集めるのは才能のおかげか、苦に感じない。


「ふふふ」


立ち上がって一歩踏み出したとき、ふと誰かに見られているような気がした。

顔を上げて、そして気づいた。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「回想は以上です。ははは……」


赤い光が見える。なんだか笑いが込みあがってきている。無意識笑っていた。


「目は無いんだから、目が合ったはおかしいだろ」


言っている場合ではないし、見た瞬間に体温が下がったことを自覚する。口に出したことで自覚した危機感で心拍が上がってくる。


(ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイ!!)


「…なんで森の中に上位種の赤スライムがいるんだよ!」


がさっ!


こちらに来る音に反応して、竦んでいた足をそれぞれの手のひらでたたき直し、急いで村の方向へ逃げようと走る。

通い慣れた森で良かった。いくら一人で慌てていても、村の方向くらいは分かっている。


振り返ったらまた赤い塊が目に入った。


「赤スライムがもう一匹?」


スライムの恐ろしいところは分裂だ。吸収する栄養分があれば無限増殖といってもおかしくない。

何か合致する栄養分があったのだろう。何かなどは今は考えていられない。目の前に迫ってきている。


スライムを倒すには核を突かなければ倒せない。今の自分では届かない。一定のスキルなり武器が無いと攻撃手段がないのだ。

それだけに優先して討伐される対象のはず。本来ならこんなところにいるわけがない。

出現するだけなら、まだ分かる。ただ、分裂まで出来る個体に出くわすなど確率としては悪すぎる。


まだ魔力を攻撃に使うようなスキルなど学んでいないし、自分で開発などもしていない。


「不幸体質の元が出てたけど安心できないじゃないか!」


悪態の一つも出てくるのも仕方ない。仕方ないがどうするかが必要だ。


(ひたすら逃げる!!)


2匹目の出現により村への最短ルートはあきらめて遠回りの方向へと走り出す。村まで走り切れば勝利だ。スライムを倒すことが出来る大人はいくらでもいる。

ある程度鍛えた自信がある。伊達に村の生活をしていたわけではないのだ。走り回っていたのだ。速くも長くも走れる。


しかし、少し走ると赤スライムが湧いてくる。出会ったのは合計5匹だった。ありえない数だ。


出てくるたびに逃げる方向を変更しなくてはならない。動揺から魔力の制御も乱れる。思ったよりも動揺が激しい。命の危険を感じるが故に落ち着きを取り戻すのが難しい。

しかし、息切れしても止まることは許されない。


(でも、あともう少し!)


もう少し走れば森は抜けられる。


最後の最後まで気を抜くつもりはないのだが。不幸とは畳みかけるものらしい。


「最後に青スライムの登場ね。信号だと通っていい合図なんだけどなぁ。異世界だと通用しないか」


後ろをちらっと振り返ると赤スライム3匹が追いついてきた。


(長生きしたいんだけどな。前に死んだ記憶はないけど、今回はばっちり記憶に残りそうだよ)


全身溶かされて死ぬなら寸前まで意識がありそうだ。手や足にくっつかれたらと思うと恐怖感でたまらない

訓練が足りなかった。もっと出来たはずだ。魔法か武器術。もっとやっておけば…。


「いや!まだだ!!」


自分を奮い立たせるために宣言するかのように大声をあげる。


「目の前の一匹を倒せば村はすぐそこだ。片腕犠牲にしても生き残る!」


右手を握り拳に固めて特攻の覚悟を決めたとき、目の前の青スライムが動いた。


(思ったよりも速い!)


思わず身が竦んでしまい、(しまった!)と思ったら脇を通り過ぎられた。

振り返ると、大きな口(?)を開けて赤スライムを一匹包み込んで吸収してしまった。


「は…??」

お読みいただきありがとうございました。

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