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58お嬢様の鍛錬開始

それからはクエストをこなしながら生活をしていた。魔物を狩りつつ、採集系もしつつ、塩クエストもこなせるものは受けていった。塩クエストは誰も受けようとせずにいつまでも残っているクエストのことだ。


Fランクの受ける依頼や依頼料が少なくて残っていたものが多かった。どれも子どもの小遣い程度だったが受注した。


足が悪くて歩くのが辛いおばあさんからペットの散歩。犬やら猫やら、散歩だけではなくて小屋の掃除や庭の手入れも手伝った。通された家の中もきれいにはされていたが、手の届かない棚とか高い場所は俺が代わりに掃除した。


孤児院の買い出しのお手伝いは手が足りなくて、とのことだった。依頼された荷物は量も種類も多かったが俺には関係ない。さっさと終わった後は子どもたちと遊ぶことを手伝った。ついでに夕食の準備も手伝った。プルは買い物について来ず、最初から遊んでいたけどな。


新婚時代を思い出して子どもの面倒を見てほしいというクエストは、日付指定でのクエストだった。結婚記念日だそうだ。

旦那さんからのクエストで、子どもたちも乗り気で送り出してくれていると。長男は8歳で次男が5歳だった。いつも仕事ばかりで奥さんに申し訳ないと思っていて旦那さんは感謝の気持ちを込めての贈り物だそうだ。近くに住んでいる親を頼もうにも用事で王都を出ていて急遽不在になってしまった。


記念日を休みにしたが、その日に子どもだけにするのは心配で、可能なら誰かに来てほしかったのだと。誘われた奥さんがクエストを受ける人がいないなら日を改めることを主張したそうだ。

兄弟2人は両親からその話を聞いて、ギルドの受付に2人で来て誰か来てくれないかとお願いしていた。その話をたまたま聞いて一番乗り気になったやつがいた。プルです。感動して涙らしきもの流してたよ。問答無用で引き受けることになりました。


ご両親は朝食を取ってからデートへと見送った。俺たち3人とプルは事前にご両親からどこに行くとか、どの店でご飯を食べるとか聞き出しておいたから後を追っていった。家の中で面倒を見るとか言われなかったからね。


店には先に手を回しておいて、色んな店で偶然を装ってサプライズをしてもらった。食事処では新婚記念日キャンペーンとして俺が作った特別料理を出してもらったり、公園をデートして休憩しているときに馬の練習と称して乗馬体験をしてもらった。もちろん奥さんはお姫様のように座ってもらった。


夕食のレストランでは兄弟二人が作ったケーキをウェイターの服を着せて両親の席に持って行かせた。ご両親に特大のサプライズとして大喜びしてもらった。下手に滑ることなく、良い思い出になったと思う。自画自賛だ。


もらう以上にお金を使っていないか?ふふふ。


昼食の店は祝福の朝亭、俺の泊っている宿だ。宿泊客相手にやってないだけでランチはやっているんだ。掃除するから部屋から出て行けって意味だね。俺のレシピをいくつかあげることで許可をもらった。


公園の馬はさっきのおばあさんの伝手を頼った。あのおばあさん一人暮らしだったけど、エルンハート家派閥の伯爵家当主の実母だった。偶然に助けられた。馬にはエルンハート家の馬丁さんに来てもらったよ。


夕食の店は『美食の奇跡』に連れて行ってもらった店だ。そこにも俺のレシピをいくつかお渡しした。レシピを渡したときに、うちで働かないかと誘われたけど丁重にお断りさせてもらった。客としてでも、こういった企画場所としてでもまた来いと言われた。気に入ってもらえてラッキーだ。

振り返ってみればお金は使ったような使ってないような感じだけど、今後の人脈が出来た気がするから良いのだ。

渡したレシピからまた美食が生まれてくれると嬉しい。


そんなわけで10日でこれだけのことをした。分かっただろうが、あんまり王都の外に行ってない。魔物狩りつつ、って言ったけど2回しか行ってない。


王都の中の依頼の方が楽しくて。普通の冒険者じゃないってギルマスには言われたけど、関係ないと割り切っていた。風呂のことは悩ましいけど。


なんとなく、こういうクエストの方が受けたかったのだ。俺がパーティを組むならこんなクエストも一緒に受けてくれる人とが良いな。とりあえず相棒は喜んで受けてくれていた。この前は魔法のことで複雑な気分になったが、やっぱりプルが相棒で良かった。


冒険者としてだけではなく、こんな人たちの助けになるようなことが出来れば良いなとも思う。何か考えておこう。


さて、今日からはそうも言ってられない。今俺がいるのは公爵家の門の前だ。お出迎えのセバスさんは以前に固辞していたから来ていない。門兵さんに挨拶して中に入らせてもらった。


お嬢様の鍛錬開始である。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「助けてくれてありがとう!前のときは本当にごめんなさい!」


挨拶も無しでお嬢様の旋毛が見えている。マキシ様から援護が入る。ちなみに今いるのはお嬢様とご夫妻とセバスさんと俺とプルもいる。通常は乗馬の練習に使う公爵家所有の広場にいる。屋敷に着くと俺一人だけで馬車に乗せられ移動してきた。


「これは親が言わせているのではなく、本人が自発的に行っているとして大目に見てあげてほしいな。依頼主の命令ではなく、こちらが下手に出てのお願いとなるんだけど」


マキシ様は苦笑しながら話している。許すかどうかは俺が決めて良いようだ。家族が好きで、自分にも役に立てるようになりたいと考えての暴走。安易に力を求めてしまい、偶々悪いことにはならずに済んだ。ならば、俺の一言目はこれだ。


「謝れば許してくれると思いますか。僕はそうは思いません。謝られても許せないことはあります。死ぬところだったんですから」

「あ…う…」


必死そうな表情が途端に暗くなる。


「しかし、どんなことが起きても許してくれるのは愛している家族だからです。仲が悪かったり、どうでも良かったらこんな場など用意してくれないでしょう」


お嬢様は顔を上げてご両親の顔を見る。二人とも笑顔で見守っている。


「そのことを肝に銘じてください。僕が許すかどうかは、お嬢様の悪い面しか見ていないので判断できません。あと、僕だけではなくて他の人たちにも同じように謝ってますか」

「屋敷から出ていく前に謝ったわ」


ほう。ちゃんと謝っていたのか。冷静になればちゃんとすべきことが出来るのか。貴族なのに頭を下げられるのは認めざるを得ないな…。


「ちゃんと許してくれましたか?」

「ええ」

「セバスさんとリタさんもですか」

「謝ったわ」

「お二人は御当主夫妻に雇われているので、お嬢様に謝られれば許すしかありません。心から許していなくてもね。言葉だけ、一回だけで済ませることの無いようにしてください」

「分かったわ」


マキシ様がすごいニヤニヤしている。なんだよ。

セリナ様は口元を扇で隠している。目元は微笑んでる感じだけどな。


「僕が許すかどうかはこれからを見て決めます。力を安易に求められても困りますので、諦めるようなら一生許さない人間がいると覚悟してください」

「諦めないわ」


どんなことをするか分かってないから表情から覚悟は固いね。

許すかどうかは悩んでいる。正直今でも分からない。でも、オステンタさんみたいにやむを得ないこともある。誰かが死んでいたら絶対に許さないが、彼女はそこまでの事態にはいかなかった。彼女の状況や行動の理由も知った。暴走したことには違いないけど。ならば一回は手を差し伸べても良いと思う。よく考えたら許す許さないって俺も何様かなと思わなくもない。俺自身の思うところもあり、判断は先延ばしだ。


「幸い、僕の体術の師匠にも才能は有りません。でも今の僕が本気にならないと勝てないくらいには強いです。強いにも色々ありますが、まずは強さの基本から身に付けましょう」

「分かったわ」

「そこは先生と生徒ですから、敬語で」

「分かりました!先生!」


嫌がらずに即答なのね。それに嬉しそう。可愛すぎてあまり強くなるための指導はしてこなかったんですね、と思って夫妻を見ると視線を逸らされた。


「では質問です。武器を扱っていくのか、魔法系統なのか、どちらが良いとかはあるんですか?」


家の方針もあるだろうとご夫妻にも視線を送る。


「僕は回復と補助、それと体術は少しだけ。自分で身を守るくらいだね」

「私はバリバリの物理攻撃ね。属性魔法の素養はあったらしいけど、それは面倒だったのよね」

「口調」

「………うふふ」


セレナ様の口調がちょっと荒々しい。昔はこんな話し方だったのかな。誤魔化していると感じない


「お嬢様は何が良いとかありますか?」

「私は出来ればエルンハート家の娘だから回復の力を身に付けて皆を癒せるようになりたいわ」

「「ケイト!!」」


ご夫妻揃って娘を抱きしめに来ないでください。娘さんの顔が真っ赤ですよ。


「ではどちらにしても魔力操作からですね。出来れば毎日行う方が良いですが、俺が身に付けたやり方でいきましょうか。あとは訓練というよりも勉強もしてもらいます。何か学びたいことがあればその都度言ってください」

「今じゃなくても良いから、できればあなたについて冒険者としても活動してみたいわ」


周りは驚かないから、突然の話ではない、と。なんで俺が全部決めるみたいになってるんだろう。


「冒険者として活動するなら、回復系統だけではなく最低限身を守れるように体も動かせるようになってもらいます。幸いご両親が出来たことですからお嬢様も出来る可能性は高いです。指導にやりがいが出ますね」

「……ケイトって呼んでほしいわ」

「…はい?」

「先生と生徒なのに、お嬢様って呼んでたらどちらが上か分からないでしょう?ケイトって呼んでほしいわ。それに敬語もやめて」

「はぁ…。ではおじょ…じゃなくて、ケイト、まずは魔力操作から始めます。手を繋ぎますよ」


お嬢様は顔が赤くなり、マキシ様が泣いてないのにハンカチで目元を拭き、セレナ様はにんまりとしているのがわかるし。ポーカーフェイスなのはセバスさんだけだ。

俺はこの関わり方でケイトお嬢様からの好感度が上がるのかの理解が出来なかった。

お読みいただきありがとうございました。

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