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57下宿するときに風呂の有る無しは死活問題です

俺のお願いに不思議そうな顔をしたギルドマスターだが、確認するとすぐに調査することを約束してくれた。何かあればお互いに連絡をすることになった。


医務室から出た俺は、冒険者に一斉に群がられた。パーティ勧誘だ。あれだけ一方的にオステンタさんを返り討ちにしたため、即戦力として誘われることになった。

しかし、ギルドマスターが許可を取っていると宣言した上で公開した情報でパーティ勧誘はやんだ。


「エルンハート家のクエストを長期で受けているので無理だ」


さすがに公爵家のクエストをソロで受けている者を引き抜く勇気のあるものはおらず、パーティ勧誘は諦めた。偶に助っ人でと誘ってくれたものに関しては今後の様子を見てご一緒させてもらうことにした。


一騒動あって疲れたのはあったが、何もしないのはイヤだったので依頼書を見て回る続きだけはしておいた。クエストは明日から始めるが、いくつか常設依頼を見繕っておいた。


ギルドを出た後は昼過ぎだったので、遅い昼ご飯として屋台などで食べ歩きをして回った。食べ終わった後は雑貨屋や薬屋、布団を扱っている店を探さないといけないと思いながら王都をゆっくりと見て回った。

夕方になる前には紹介してもらった宿屋を見つけたので、先に挨拶と部屋の確認をしておこうと入った。受付には誰もいなかったので、ベルを鳴らしてみた。リーーンと音が響くと、遠くから元気な声がしてきた。


元気な声で成人である15歳くらいの女の子が2階から降りてきて、横を通って受付に立った。茶色の長い髪の毛を三つ編みにして後ろではねていた。

ニコッと笑った後、受付の説明が始まる。


「お待たせしました。祝福の朝亭にようこそ!ご予約はされてますか?」

「冒険者ギルドで予約してあると聞いてきたクーロイと言います。予約されてますか?」

「クーロイさんですね。お待ちくださいね……………ありますね。206号室です。お部屋に入られますか?」

「はい。お願いします」

「分かりました。宿泊の日数などはお決まりですか?」

「とりあえず1か月くらい大丈夫ですか?」


お嬢様のクエストがいつまで続くか分からないけれど、王都には長めに滞在するつもりだ。でも普通が分からないのでとりあえず1か月契約で聞いてみる。


「へ~。いきなりうちの店を長期なんだ。一泊いくらか知ってる?一泊銀貨一枚だよ。年齢の割にしっかりと稼げてるんだね」


いきなり表情を話し方を変えてきた。


「私の名前はリアンカ。よろしくね。1か月なら大銀貨3枚だよ。持ってる?」


そういえば金額の確認を忘れていた。今の手持ちでも十分に払える。盗賊団捕縛の賞金があるし、やつらの貯め込んでいた財宝を処理したお金も2週間もすれば支払われる予定だ。


「ではこれでお願いします」


金貨を1枚出して、お支払いをお願いする。


「ワオ。有望株だね。これからも御贔屓にしてね」


看板娘とはこういうことを言っても許される愛嬌の持ち主のことを言うんだろう。お釣りの大銀貨7枚を受け取ると説明の続きを聞いた。


「ご飯の説明をしておくね。食堂はあそこが入り口ね。朝食と夕食は代金の中に含まれてるよ。追加料金をもらえば追加は出来るし、宿泊客には少し割引で提供してる。他のところでご飯を食べてくるときはなるべく言ってね。冒険者だから無理な時があるのは分かってるので気にしないで。昼食は前日の晩までに言ってくれたら料金もらうけど出すけど、基本は無し。わかった?」

「わかりました」

「冒険者の割に若いし、素直なんだね。珍しいって言われない?」

「よく言われます。でもこれが癖になってるので気にしないでください」

「ふふ。わかった。でも丁寧で良いんじゃないかな」

「どうも」


会話のあとは206号室に案内してもらった。内装としては前世で使ったビジネスホテルと同じだった。惜しむらくはこの宿屋には風呂が無いことだ。その辺りは『美食の奇跡』を探せば何とかなる。この1か月で風呂の素晴らしさを仕込んである。

後衛3人がいれば冒険者を引退しても生活がどうとでも出来るくらいには自信を持ってもらった。自分でも使えればなぁ。身に付けていたマントや他のものを外してベッドに寝転がる。


「風呂に自由に入れないのは困るなぁ」


ぼそっと呟いた時に、プルが反応した。え?できるの?


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


判断の材料が足りなかったため、王都の外に移動するよりも、意見がもらえそうな公爵家の庭を借りることにした。何が普通かの基準を聞きたかった。


セバスさんだけに来てもらって、一応周りに人がいないことを確認した上でプルに風呂の作成を頼む。まずは愛用していた鉄を加工して作った風呂釜をコレクションルームから取り出す。

土魔法で地面に固定する。水魔法で水を満たし、火魔法で温度を上げていく。水魔法で温度の調節をして、風呂の準備が整った。


「なんでだよ!!!」


渾身の叫びが夕日のきれいな空に響いた。


お前、俺が属性魔法を使えないことを悩んでるの知ってるよね。いつから使えたの?火と水は村にいたときから使えたの?何で教えてくれなかったの?火は火のついた松明が保管してあるし、水も大量にあるから教えなかった。う~ん、納得。


風と土は?マチェルさんに教えてもらったの。あの人使えたね。努力で土魔法を使えるようになったって話は聞いたよ。それと同じことをお前もしてたの?火と水の時点でそうか。


お前すげ~な~。しばらく落ち着くまで待ってて。



落ち着いたところでセバスさんに聞いてみた。まず珍しいのか。あ、待たせてごめんなさい。


「風呂自体は貴族ならば珍しくも無いでしょう。魔法を使うか、お湯を沸かせばよいだけですから。一般市民であれば贅沢になります。魔法を使いこなせるものも少なく、燃料費もなかなか確保できない」


敏腕執事はにこやかに説明してくれる。さすが、ただモノじゃやないね。俺はまだ心が不安定だよ。じゃあ宿屋の庭を借りて行うのはダメということだな。セバスさんがそれよりも、と前置きして。


「属性魔法を3つも使えるプルさんの方が希少価値が高いです」

「風も使えるので4つは使えるそうです」


プルはふっふ~んと胸を張っている。器用なスライムである。


「そういうことですと、余計に簡単に使用してはいけません。使うのは何か1つだけとしておく方が良いです。貴族であれば奪いに来てもおかしくありません。エルンハート家と友好関係であれば良いですが、敵対関係にある家ですと厄介です。どこに目や耳があるか分かりませんから避けてください」

「人族でも珍しいから魔物だと余計ですね」


なぜそこまで考えが至らなかったのか。確かに考えが浅かった。貴族なんて狩れば良いと思っていたから、油断が過ぎたかもしれない。


「冒険者ギルドの一件で貴族の間で名前が売れています。くれぐれも油断なさらない方が良いかと」

「あ~。今思えばエルンハート家と繋がっておいて良かったかもしれないですね」

「そう言っていただけると嬉しい限りです。早いところAクラスまで上がれば貴族もそう簡単には手を出してこないでしょう」

「分かりました。それまではお名前をお借りすると思います。お嬢様次第ではあると思いますが」

「お嬢様も必死ですので、簡単には諦めることなどなさらないでしょう。万が一、諦めたとしても御当主様が直接友誼を結ばれるでしょうから。ご安心ください」


赤の奇跡とプルの希少価値はそこまでの価値があると買ってくれているのか。俺もそうなのかな。認められているというのは何であっても嬉しいかな。


「プルさんに魔法を使わせるのは誰にも見られない場合に限った方が良いでしょう。」

「アドバイスありがとうございます。助かりました」


公爵家から宿に帰るころには太陽は沈んでいた。一応方法はあるにはある。コレクションルームに入れば良い。ただ、風呂に入っている時間だけ食品の劣化が進むし、生モノに湯気があたるのも衛生的にどうなんだ。

コレクションルームがもう少し変化が起きればなぁ。そうなるともっと魔物を狩っていくしかないか。


常設依頼は採集系を考えていたが、討伐系も取り組むか、積極的に狩るようにしよう。それまで風呂は公爵家のお風呂を借りるとかで我慢しよう。背に腹は変えられない!

お読みいただきありがとうございました。

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