52公爵家とは聞いてません
「さて、改めて自己紹介させてもらうね。私の名はマキシレム・フォン・エルンハート。四大公爵家の一つであるエルンハート公爵家の当主だ。娘のキャトリアーナを盗賊から救ってくれたことに感謝を伝えたい。ありがとう」
「それはどういたしまして」
公爵家ってどれくらい上の貴族だっけ?
「そうだ。娘が無礼をはたらいて聞いていないんだったね。公爵家は王様の親戚関係の家だよ。王様の次に貴族としては偉い血筋だね」
貴族の爵位は、騎士爵・男爵・子爵・伯爵・侯爵・公爵と続き、一番上が王族になると教えてくれた。うっすら聞いたことはあるけど、いきなりそんな人と知り合いになるとは…。
この一件が片付いたら王都から逃げるか?昇級試験なんて別の国でも受けられるんだし。
「もちろん、言葉だけで終わらせるつもりはないよ。君の冒険者生活のサポートをさせてもらいたい。」
うさんくさい。その笑顔が余計にうさんくさい。
「見返りに何か希望されてます?」
「純粋にサポートだけだよ」
貴族が何かするのに見返り無しって怪しいんだけど、この場合はどうするのが正解だろうか。
「あなた。警戒させてどうするんですか。しっかり説明しないと感謝は伝わらないものですよ」
突然後ろから女性の声がした。慌てて振り向くとリタさんと同い年くらいの女性が立っていた。あなたって奥さんですか?どう見ても年齢がおかしいぞ?
しかし、全く気配を感じなかった。プルも気づいていなかったようで、二人で戦慄する。
「驚かせてしまってごめんなさいね。セリアーナ・フォン・エルンハートと申します。マキシレムの妻でキャトリアーナの母ですわ」
「セリナ。驚かせてしまったキミの方が失礼というものだよ」
「あら。そうですわね。昔の血が騒いでしまったのですわ。ごめんなさいね」
この母、キャラが濃い!一つずつツッコんでられない!悩んだうえで決断をした。
「じゃあお二人の裏は考えなくて良いんですね」
「あぁ、それで構わないよ」
「娘の命の恩人ですもの」
微笑む二人を見て決めた。考えることを放棄しよう、と。
☆ ★ ☆ ★ ☆
二人と少し話をさせてもらって警戒は解いても良いと思えた。裏があるような感じを受けない。もちろん悪意感知にも全く反応が無い。
「有力な冒険者は国としても大切な戦力だからね。今のうちに囲っておきたいのさ」
「そういう言い方をしてもらう方が安心します」
「クーロイ君は子どもっぽくないね。本当に10歳かい?」
「本当ですよ」
前世の記憶持ちってことはバレたかもしれない。とぼけておこう。
「この国にいるときで後ろ盾が必要な時は使ってくれて良いよ。我が家の家紋が入った懐中時計を準備しておくから受け取ってほしい。一か月ほどで出来るよ。君の名前も刻むけど名前だけで良いのかな?」
「はい。クーロイという名前だけです。名字持ちになるつもりは無いので」
「つれないことを言うね」
「出身の村を欲ボケの貴族に襲われたことがありますので、しがらみがあると気に入らない奴を返り討ちに出来ないでしょう?後ろ盾をもらっても使うつもりも無いですよ。全部自分の責任でやります」
そう言うと奥様が旦那様に話しかける。
「あなた。この子にこれ以上の無理強いはダメよ。懐中時計を渡すくらいで良いじゃない」
早々に諦めてくれたようだ。平和的に済ます選択肢を取ることも少ないだろうからね。
「じゃあせめてセリナって名前で呼んでちょうだいね」
諦めてるのか分からないことを言われた。
「じゃあ僕はマキシでよろしく」
何なんだろう、この夫婦は。呼び方くらいは希望の通りに呼んでも構わないだろう。
「マキシ様とセリナ様ということで良いですか」
「構わないよ。獣人の英雄と英知が育てた子とつながりが持てただけで十分だよ」
いきなり貴族っぽいことをかましてきた。こちらのことは把握済みなんだね。
「御存知なんですね」
「公爵だもの。僕ら二人とも元冒険者だから、そっちに顔もきくからね。同じパーティでやっていたんだよ」
「そうなんですか」
立派な貴族なのに、冒険者だったのか…。ん?
「同じパーティですか?」
「そうだよ」
セレナ様を見て、マキシ様を見る。セレナ様若すぎないか?
「ふふ。女の年齢を聞かないのは正解よ」
「彼女はこれでも4人の母なんだよ。妻が綺麗だというのが僕の自慢の1つさ」
若さの維持がすごいな。女性だし、あれの紹介なんてどうかな。
「村でこんなの栽培してるんですけどいかがですか?」
「何だい?」
カバンから取り出すふりも忘れない。
「赤色の奇跡っていう果実です」
「あの幻の!?」
村から出るときに教えてもらった。村の中でも貴重だったが、村の外でも希少価値が高いと。
「森で自生していたのを取るしかなかったんですけど、栽培に成功しまして」
ルウネのおかげで。
「お近づきの印にこちらを。ついでに保護もしてもらえると嬉しいです。輸送には『馬鹿果報』を紹介できます」
「君も結構なカードをぶち込んでくるね。貴族向きだよ」
「しませんよ。乗り気ならあともう一ついいですかね。『馬鹿果報』で馬車の改良してるんでそれもお手伝いしてもらえますか?」
「きみ本当にいいねぇ!」
マキシ様は上機嫌になっていく。セレナ様はお付きの侍女に赤の奇跡を切ってくるように言づけたあとは楽しそうに笑っている。
「人脈の作り方は正解だよ。利用できるものは利用する。それくらい強かで良いんだよ。10歳でそれをやられたらたまらないね。今日はもう遅いから、このお礼はまた今度渡すね」
「私からもお渡しするわ。楽しみにしててね」
俺自身が借りるつもりは無くても、村の保護に回ってくれるなら良しとしよう。
「聞くかどうかは別にして、こちらも一つ良いかい?」
「何となくですが、断るやつだと思います」
「次女のケイトのことで頼みたいんだが」
すっごい断りたい。
お読みいただきありがとうございました。




