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44あと一週間で王都には着くんだけれど

「さて、ここを出発したらあと一週間で到着だ。途中に宿泊できるようなところは無いぞ」

「物資の準備は大丈夫だ。それぞれの装備も問題無いか?」


それぞれが問題ないことを答える。クーロイも同じ返答をした。だいぶ『美食の奇跡』になじんだものだ。

ホーグラッドを出発してから既に1か月が経過している。到着予定は過ぎているが、前衛組の鍛錬を考えると移動中では限界があったので仕方ない。宿泊できるところでは鍛錬の時間に充てていた。

そのおかげか、パーティの戦闘技術は向上していた。パーティとして連携していくのは王都に着いてからとして、今はただ個人の技術を磨くことにしていた。


まず技術向上を掴んだのはイートさん、フーズさん、マチェルさんの後衛組。初日のイートさんの温度上昇が刺激となったこともある。魔力の扱いは魔法学校で慣れていたし、新たな発想は食事中でも出来る。いろんな時間を有効活用して力を磨いていた。


その次は、ボクジさんとニケンさんの直接攻撃組。勧めたスキルは解体と目利きだ。解体は俺とヤシタさんから、目利きは後衛組から教えてもらった。ちゃっかり俺も目利きを教えてもらっている。

後衛組の目利きは食材に対してだったが、前衛組は弱点を見つけることに使える。解体はどこを攻撃すれば良いのかを無意識下で効果を発揮する。相手の動きを読むことにも繋がっているため攻撃と回避も上がっているはずだ。底力はこれから向上していくだろうから順調に進むだろう。


難航とは言わないまでも苦労しているのはヤシタさんだ。ひとまず鏃に風属性を纏わせて威力を上げることには成功。世界樹の枝から自分の弓も削り出して、持ち手や反り具合などを調整中だ。

新しい弓にも慣れるのに移動中は適さない。前の弓も使いながら慣れていくことになった。更に賭けになった鍛錬についてはまだ決着がついていない。お互いもう少しというところだが、身に付いたらお祝いとして贈ろうかと思っている。


一番難航しているのはウォルさんだ。新しい立ち位置である上に、俺も詳しくない立ち回りが必要になる。必要なスキルはコレクションブックで指導したものの、全てが身に付いたわけでは無い。これはギルドで誰かに教えてもらう方が良いかもしれない。

それでもタンクを諦める気は全く無いそうだ。パーティメンバーから見ても、あんなに充実した顔をしたウォルは珍しい、とのことだ。出来る限り手合わせを多くすることで応援していた。


「あと気を付けるべきことを冒険者ギルドから仕入れてきた」


話は王都までの道のりの話に戻る。


「盗賊でも出るのか?」

「そうらしい」

「冗談で聞いたのに」


ニケンさんが、当てたくもない事実にうんざりした顔をする。俺にとっては人生で初めての盗賊だ。


「おそらくいる、という情報だ。予定では到着するはずの馬車が着かないことからの推測でな。危険をはらんだ道に進むか、もう1週間かけて遠回りにするか」

「さすがにここから1週間は伸ばし過ぎだろう」

「強くなった力試しにも良いだろう」

「クーロイは最後の手段だから見てるだけだぞ」


盗賊がどれくらいの強さかは分からないが、今回は強気で行くことになった。見積もりとしては全員が冒険者ランクが1つ上の強さにはなっているそうだ。

闇クエストの代償として公式に落ちるかもしれないことを考えると破格の強さを得たと言っても良さそうだ。


「あとは大型魔物の情報もあるが、見かけたら報告してくれという注意喚起だ。よくあるいつものやつだから大丈夫だろう」

「そのレベルの情報で見かけたことなんて一度もないけどな」


それってフラグ立ってないか?


「では、明日早朝に出発で良いな」

「「「了解」」」


本当に出会うのだろうか。プル、がんばって索敵しような。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


王都まであと2日となったところで、何となく引っかかるものを感じた。ヤシタさんの方を見ると同じ感覚だったようだ。

プルに確認するとまだ確実ではないが、近い気がするそうだ。


「警戒!」


ヤシタさんが周りに声をかける。今回だけは警戒していることがバレないように警戒しろ、という意味だ。こちらが警戒していることが分かると襲ってこないかもしれないので、素知らぬ振りはする。


今通っている山道を越えれば王都までは平原となる。山の麓には大規模な農地が見えるらしいが、そのためにはこの道を越えなくてはいけない。

30分ほど進むと道の上に土砂崩れが見つかった。わざわざ山を崩したらしい。パッと見て武器を持っているように見えないヤシタさんとマチェルさんで御者をしている。中からニケンさんが出てきて道から除けて通るか戻るかの相談の芝居をする。

乗っている馬車は男所帯だから大きめのものだが、金持ち商人のものだと見えてもおかしくはない。武装したボクジさんとウォルさんは中で待機、イートさんとフーズさんも魔力こそ練はしないが戦闘準備は終わっている。


一旦休憩して相談しようと、外に出ているメンバーで休憩をする。油断させるために俺も外に出て和やかに会話しているのを装う。


来た道を塞ぐ目的で男が十数人現れる。気配から周りにも配置しているようだ。魔力の気配は感じないので、弓などの遠距離攻撃目的だろう。一人が前に出てきた。眼帯に逆立った髪の毛、顔はいかにも悪そうなことを言いますよとニヤニヤ笑っている。曲刀をこちらに突き付けて大声で叫ぶ。


「良い服を着た坊ちゃんを連れてるじゃねぇか!積み荷も含めて馬車も置いていくなら命だけは勘弁してやるぞ!」

「痛い目見たくなければ早く決めた方が良いぞ」


男の後ろからも、楽しそうに声を張り上げてくる。


「そ、そんな。坊ちゃんを引き渡すことなど出来ません。馬車だってなくなったら山を下りることすら難しくなります。荷物をいくつかお譲りするので勘弁してください」


ヤシタさんが相手に乗るように話し出した。坊ちゃんというなら怖がったふりをした方が良いか。ニケンさんの後ろに隠れてしがみつく。


「ぶふっ!似合わねぇ!」

「こら!ニケン!打ち合わせ通りにやれ!」


声は向こうには届かなかったようだが、俺の動きに笑ったニケンさんへマチェルさんからの注意が飛ぶ。俺も後ろから抓っておく。痛いという声は飲み込んだようだ。

その間に魔力の動きを確認するが、魔法を使えるものはいないようだ。使えるなら盗賊に落ちぶれることは無いだろうから大丈夫だろう。馬車の中に合図を送り、魔法の準備をしてもらう。マチェルさんも準備を始めている。


ヤシタさんが荷物を選んでくれて構わないので、身の安全の保障を交渉している。お互いに相手の身の安全など考慮しないことは分かりきっているが、様式美みたいなものである。

隠れている盗賊も含めて、悪意を発していることから奪うことが日常になっている奴らばかりのようだ。『美食の奇跡』だけでも問題ない強さのようだし、危なくなったら手を出すことにしよう。


「では、中を見させてもらうぞ」


どこに完全な優位を確信する要素があるのかさっぱり分からないが、盗賊の代表はこちらに近づいてきた。連れとして3人も後ろに付いている。

馬車の後ろの扉を開ければ開戦だ。一応武器を向けて注意をしているが、馬車の中の戦力には気が付いていないようだ。


「お宝は何かなっと……!ガッ!」


扉を開けるなり、氷の塊を顔面に食らい仰向けに吹っ飛ぶ。後ろの3人のところまで飛ぶ。これで一人ノックアウトだ。


「ピーッ!!」


後ろに控えていた連中の中から笛のような音がした。その瞬間森の中に隠れていた連中から矢が放たれる。


「誘引!」


馬車から一番に降りたウォルさんが飛び道具を自分の方へと曲げるスキルを使用する。既に盾強化も併用しており、盗賊が放つ矢が何本当たろうが盾には傷1つ付かない。


その間にイートさんは見えている男たちに向かって火の塊を数個放ち追撃の手を緩める。ヤシタさんは矢を、マチェルさんは風の塊を森の中へと狙いを定めて打ち込んで仕留めていく。

ボクジさんとニケンさんは近づいていた3人を沈めたあとはそれぞれの獲物を持って火で動揺している盗賊へと切り込んでいった。


全く問題なく、速やかに制圧が完了した。打ち所が悪く後遺症の残る怪我をした盗賊もいたが、襲撃して殺されなかっただけ感謝してほしい。死なない程度の回復だけしておくことになった。


「今までよりも速く動けたから制圧が楽になっていたな」


ボクジさんは大剣ゆえの動きの遅さをカバーできたようだ。


「魔力集中のおかげで一撃で物理ダメージが高く与えられたな。あの氷の固さを見たか!」


氷の塊で殴られれば痛いなんてものじゃないからね。不意を打てば意識を刈り取るくらいは訳はない。


それぞれの役割を果たしつつ、噛み合ったことで自信になったことは良かった。1か月の特訓の成果は出たようだ。


「3倍近い人数を相手に無傷か。油断させたとはいえ、成果だろうな」

「そうですね。怪我なんてしてる人がいれば、王都についてからも基礎特訓をやってもらおうかと思いましたよ」


その言葉に前衛組は反応はしていたが、表情は見せてはくれなかった。


武器は全て剥ぎ取り、両手両足をロープで繋いで転がるしかできないようにしていった。このあたりは捕縛の基本として身に付けておくべき基本の結び方だそうだ。


しかし、何か感じるのは残ったままだ。プルも同じだそうだ。まだもうひと悶着起こりそうな気がする。

お読みいただきありがとうございました。

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