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43鍛錬計画のお返し

「いいか。パーティを長く続けるコツは、女をパーティに入れないことと町に滞在するときはメンバーで一緒に行動しないことだ」

「えっと、子どもにする話になってますか?」

「クーロイは変に子ども扱いしない方が良い気がする」

「どういう意味ですか!」


なんか男の微妙なラインの話もあったが、彼らの名誉のために補足すると、皆さん普通に女性が好きとのこと。ただ女性がメンバーになるとギクシャクしかねないので、町にいるときだけに限るそうだ。


「働くときと、自分の好きにふるまうときでバランスを取らないとどこかで崩れてしまうからな」


とは、ボクジさんの言葉だ。かっこいいかどうかは微妙なところ。


晩ご飯は町でイートさんが祝いだと言って特別に作成した調味料で味付けした肉の入ったスープを作ってくれた。祝い事のある時にしか使わないそうだ。

肉は柔らかくなっており、口の中でとろけるのにうまみが爆発するかのように広がる。一緒に煮込んだ野菜くずも歯ごたえの残ったものや甘味だけ感じる程度に煮崩れているものとスープの中で素晴らしいアシストを感じさせる。

スープ本体の味付けはフーズさんの領域だそうで、入れる材料を見て味付けを調節するのが抜群に上手かった。水魔法で出した水だそうだが、材料を見てから出した水で、今日は殊更うまくいったと自慢げだった。


食事も終わってから、少し休憩時に今日のことについて振り返ってみた。


「イメージが明確かどうかがスキルや魔力以外にも影響を与えるようです」

「そういうことだな。原理そのものを理解していることが大きいのだろう」

「試してはいないが、魔力だけでなく纏気でもやってみよう。『切断』を具体的にイメージしたときはよく切れた気がする」

「あ~。あの命がけでオーガを狩ったときか」

「簡単に口外できないな」


そういうことだ。悪用されないようにと考えると下手に広めることは危険だ。自分が伝えた技術で犯罪を起こされた日には被害者に謝っても償えるものではない。


「冒険者強化学校は廃案だな~」

「そうとも言えないだろ」

「え?」

「クーロイがこいつなら大丈夫だろうってやつに教えるのは良いだろう。無差別に教えるのがダメなだけで」


要点を抑えるのはいつもボクジさんだ。


「俺たちも切り札だけにして、今まで通りの技術でやっていくことにしても良い」

「今日一日だけで十分なくらい教えてもらったしな」

「俺は一生感謝するからな」

「そんな話はしてないぞ」


イートさんの熱すぎる感謝をフーズさんが止める。ただ、笑顔で伝える。


「初日で満足しないでくださいね。強さってのは毎日の継続です。今日は頭の中身を素直にしただけですから、体を苛め抜くのはこれからです」

「「「「「「「……………」」」」」」」


全員が黙った。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「それはそうと、クーロイよ」

「なんでしょう?」

「その言葉遣いは直さないのか?」


魔力操作の見本を見せてほしいと言われて試した後でヤシタさんが声をかけてきた。後衛3人はMPの最大量を感じ取って、その差に落ち込んでいた。


「落ち込む暇があったら1秒でもやってくださいよ!癖みたいなもので。年上の方には自然とこうなりますね」

「冒険者ってのはなめられたら終わりとか考える荒いのもいるからな。余計な絡み方をされると思うぞ。俺たちはそんな発想になる前に凹まされたわけだが」

「見た目だけで判断するならそこまでだと思います。そもそも周りの人を不必要に威圧してもプラスは無いですよね」


心底疑問なのだ。フィリルさんのように表には出ないような仕事で支えてくれる人たちは大勢いる。自分が世界の中心のように振舞うやつもいるが、世界は支えあいから出来ている。

力を誇示することで防げる争いもあるだろうが、丁寧な口調だろうと荒い口調だろうと、手を出したらダメなものはダメ。そして、出してきた輩の末路は一つで一歩通行だ。終点までご案内することに躊躇いはない。


「高い授業料をお支払いいただきますよ。一生を棒に振るならそれもまた良かろうなのですよ」

「その力こそ全て、みたいな考え方は獣人の考え方なのか?」

「違います。あくまで俺個人の考え方です。人に迷惑かけて笑うやつが嫌いなだけです。勘違いで手を出したりしないようには気を付けますよ。自分が悪人にはなりたくないので」

「そこまで分かっているなら…イヤ、良いのか?う~ん」


自分でも難しい問題だと思う。命を奪うかどうかも有効活用してから、今後を確かめてからとか制約をつけているつもりだ。見境なしに暴れるつもりは、ない。


「独りよがりにはならないように気を付けます。せっかく身に付けた力の使い方は間違えません」

「そうだな。それがクーロイの生き方のようだしな。じゃあ俺も今日の話を聞いていて閃いたことがあるんだが、聞いても良いだろうか」

「もちろんです。どんなのですか?」


ヤシタさんが閃いたことは、弓が使えるようになれば俺も試してみたいことだった。これは普通ならできないが、ヤシタさんなら出来るだろう。


「ぜひやってみましょう!俺もいつかやってみようと考えていたことなので、一緒に挑戦してみます」

「ほう!ならばせっかくだ。どちらが先に出来るようになるか競争してみようではないか」

「面白いじゃないですか。何か賭けますか?」


何か村で遊んでいたときの感覚を思い出した。ぽろっと一言出してしまったが、ヤシタさんは受けて立つというように笑ってくれた。


「もしクーロイの方が早ければ、君に合わせた弓の本体を作ってあげよう。弦に使う糸はおいおい考えよう」

「本職の方が作ってくれるんですが。本気でがんばりますよ!?」

「構わないよ。そもそもこちらは教えを乞うている身だ。賭けなどなくても作っても良いくらいだ」

「いえいえ。一度賭けと言ったわけですから、ヤシタさんが勝ったら例のやつの葉とか樹液とかでどうですか?」


ヤシタさんが大いに慌てる。


「ク、クーロイ君。持っているというのか?」

「はい」

「冗談でも無さそうだな。それを探して何人の先達が旅に出たと思っているのだ。しかし、賭けとしては余りに私がもらい過ぎになるぞ」

「負けないんで」


一頻り笑った後で、拳を合わせたのが開始の合図となった。ウォルさんとマチェルさんがそれを見て笑っていた。

お読みいただきありがとうございました。

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