38同行者の申し出
ギルドを預かる2人の更迭がほぼ確実になった。詳しい内容には興味がないので、あとは冒険者ギルドと領主様にがんばってもらおう。
資格の停止も無く、冒険者ランクはE級でそのままとなった。
1階に降りて気になることがあったので、プルと協力してギルド内の人探しを実行した。ギルド職員の方々には領主様がわざわざ説明してくれた。目的は達成したので、その対応もお願いした。
自由にして良いことを確認してから、狩ったリバークラブを1体納品して初クエストを達成した。達成までに事件が多すぎる。帰り道の途中で採取したものも合わせて納品してクエストを5回分終わらせた。
1回分に不足していたものは過去に採取した分から出している。コレクションルームのおかげで劣化はしていない。
晩には領主邸にて晩餐に参加させてもらった。美食の奇跡への配慮か堅苦しいものではなくビュッフェ形式のものだった。座って食べるところも用意してあるが、自由に食事して良いとのこと。
サラダ、肉、魚、デザートがそれぞれ複数種類あることを考えるとコース料理の予定だったようにも思える。マナーなんて詳しくないのでこの形式で良かった。
領主様には改めて友好的に今後もよろしくと言われた。味方してくれたのもあるので、今後もよろしくお願いします、とは伝えている。
ただ、冒険者という立場である以上は直接関わることは少ないと思うのでユーシル村と友好的な関係を結んでもらうことでお願いした。
それで喜んでくれたので良い返事だったようだ。3年前は直接の謝罪や交流が持てずに、心苦しかったそうだ。利益を睨んでということはあるだろうが、この人に悪意害意の類を感じないので、良い人ではあるのだろう。にこやかに握手をしておいた。
一緒に晩餐に連れて行った美食の奇跡だが、最初こそ緊張していたが食事を取り、シェフの方々と料理担当の魔法使いが打ち解けたのをきっかけに緊張はかなり和らいだ。
酒は完全に断っていることから一線は引いているが、美食を逃すのは損であると考えたのだろう。
ガチの料理談義しているのを他のメンバーはほくほくと眺めている。目の前の美食を楽しみつつ、これから食べられる美味い飯にも期待しているそうだ。顔から幸せがにじみ出ているよ。元の顔が違うのに食べてる時の満足顔は同じってどういうことだよ。パーティ組んでることに納得するしかないよ。
惜しまれつつもその日の晩餐は終了となった。サンドバ家のことは改めて、翌日と約束した。
その日の宿も『馬鹿果報』のパーティハウスだ。少し滞在が伸びそうなので宿屋に移動することを伝えたが、子どもが気にするなと延長を快諾された。
食事も無しで良いとのことだった。宿代も受け取ってもらえなかったので、領主様との繋がりを説明した上でより贔屓してもらえるように伝えると言ったら小突かれた。生意気だそうだ。
冒険者の流儀として、恩は別人に返せとのことだ。2人の間の助け合いで終わらせるのではなく、周りを助けていく。冒険者ギルドが出来たときの理念だそうだ。そうすると約束した。
翌日は早速領主邸にサンドバ家のことを聞きに行った。
冒険者ギルドの応接室よりも内装が豪華な部屋に通された。同じ応接室でもランクが違うのが何となく分かる。無駄にキラキラしているわけではないがとても落ち着く感じだ。
部屋にメイドさんが控えているので歩き回るのに気が引けてしまい、目だけをきょろきょろと動かして待っていた。スッと紅茶を出された。
「ミルクは入れても差し支えないですか?」
「お、お願いします」
貴族の家の客ってこういう扱いになるのかと緊張したが、ミルクティーは美味しかった。酪農か。やってみたかったが、牛は難しい。いつかやってみたいものだが。
余計なことを考えていると、領主様が来た。
「待たせてすまなかったね」
正面のソファに座る。メイドさんは何も言われずとも紅茶を注いだ。何も聞かずとも領主様の好みを把握しているのか、先程と同じように紅茶を出した後は退室した。プロの仕事って凄いと妙な感動を覚えた。
「では、この部屋には誰もいない。サンドバ家に関して伝えよう」
「ありがとうございます」
まずサンドバ家は貴族ではないが、それに近い力を持つ家。始まりは商家だったが、現在の当主が貴族相手の貸金業を始めたあたりから後ろ暗い噂も回り始めるようになった。名前はそのままでもサンドバ家に有利な話を通す家が増えていった。それが20年前。
直系の子も血のつながりの無い義理の子も何人かおり、非常に警戒されている。ディースみたいな動きをしているのが何人かいるそうだ。
しかし、サンドバ家に逆らうことは財力としても権力としても子爵でも難しくなっているそうだ。王家と仲良くない貴族と結びついてしまったらしい。
ネイスはその貴族と関係していると白状した。ガンドは冒険者の仕事にちょっとした書類仕事だけで実際はネイスに全部任せていた。
サンドバ家が好き勝手できるようにホーグラッドの冒険者ギルドが乗っ取られかけていたのだ。毅然と証言した受付嬢がいたそうだ。フィリルさんっぽいな。領主様は名前まで把握していなかった。
これに気づかなかったのは領主としても落ち度があると改めて謝罪された。
そして、ディースが大事に持っていた荷物の中身だが、隷属の首輪という呪いの道具だった。無理矢理奴隷にするために使われるものだ。人質を取ってユーシル村に害をもたらすことが目的だった。
大きな利益を生み出す村を手に入れることが目的なのだろう。その先遣として準備がネイス、実働がディースだと考えられる。もしかすると3年前の事件にも関与している可能性がある。出発を理由に処分するんじゃなかった。もうまともに話も出来なかったけど。
簡単に把握できているが、命の危機にあることを自覚させて話を促したそうだ。しかし、トカゲの尻尾切りでサンドバ家には白を切られ、冒険者ギルド内でのことでしか裁けないだろうとのこと
以前の事件から簡単に切れるやつしか使っていないみたいだ。以前に背後関係を探らなかったのが悔やまれる。ディースも恐らくサンドバ家の中から除外されている可能性が高い。勝手に名前を使った不届き者扱いになるのだろう。
サンドバ家に打撃を与えるには直接乗り込んで、何かしらの尻尾を掴むしかないだろうとの話だった。
確定だね。
ふと気が付くと領主様が青い顔をしていた。プルが魔力を抑えろと言ってきた。怒りで制御が出来ていなかったみたいだ。慌てて引っ込める。
「申し訳ありません!」
「い、いや。問題ない。私としてもクーロイ君の実力をほんの少しでも体験できた。改めて伝えておくが、私は絶対に敵対しないと誓おう」
「ありがとうございます」
握手した手はものすごく強く握られた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
領主邸から『馬鹿果報』のパーティハウスへ帰った。昼ご飯を領主邸でご馳走になり、今からクエストを受ける時間でもなくなった。言われなかったけど晩ご飯を作るのを立候補しようと考えていた。
「客が来てるよ」
「俺にですか?」
パーティハウスの管理人から声をかけられた。客を通したという談話室に行ってみるとそこにいたのは『美食の奇跡』だった。
「クーロイ君と一緒に王都までの旅に同行させてほしい」
「今回の件は自分たちにも落ち度があったとはいえ、一矢報いたい」
「君が行けば解決しそうな気もするけどな」
「ということで同行をお願いに来たんだ。俺たちに同行するのではなく、君に俺たちがついて行く」
全員が同じ意見のようだ。口々にお願いの言葉が出てきた。
大人数の旅は常識がない俺にはありがたい経験だ。腹に据えかねるものがあるのも同じ。出会いは散々だが信用は出来る。
「分かりました。こちらこそお願いします」
「礼を言うのはこちらだ。宜しく頼む」
ボクジさんの言葉をきっかけにお礼と挨拶の言葉を言われる。
「そこで一つ相談がある」
「何でしょう」
そういうことは先に言えとは思うが、聞こう。
「少しホーグラッドで待っていてほしい。俺たちの奴隷契約はユーシル村に着いたときに解除される。奴らの狙いとしてはそこから犯罪者として巻き込むことだったんだろうが、幸いにも犯罪に手を染めずに済んだ」
「奴隷契約を解除しておこうということですね」
「いつまでも奴隷のままでは困るのでな。清算をしてからにさせてほしい。どれだけ急いでも10日はかかってしまうが待機をお願いできるだろうか」
「そういうことなら良い話があるぜ!」
そちらを見ると実は今までパーティハウスにいなかった人がいた。『馬鹿果報』のリーダー、馬の獣人のシェートさんだった。
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