33乱獲
翌日の朝、冒険者ギルドから連絡が来るかと思っていたけど来なかった。
今日は実際にクエストを受けることは晩ご飯を作りながら話していたので、朝からお礼と激励を言われてパーティハウスを出た。
初めて受ける冒険者は採取が良いそうだが、出身の村でイヤというほど既に経験している。変わったクエストか狩猟・討伐クエストを受けるつもりで冒険者ギルドの入り口を通った。
良いクエストを取るつもりも今日は特にないので、E級のクエストと常設のクエストを見て、素材募集も確認していく。D級はいろんな意味で初回からはやめておこう。
村の周りにいなかったE級の魔物を狩ることにした。その名もリバークラブ、山中の川に生息する大きな蟹だ。子どもが抱えるなら1匹、大人でも両脇に抱えて2匹くらいしか持てないサイズだ。
攻撃を躱すのは容易だが、殻が固く防御を崩すのが難しいらしい。足の節を狙って動けなくして安全を確保した後、殻を割らない程度に胴体に衝撃を与えて倒すことが推奨されている。下手に甲殻を割ると、その部位の買取価格が下がるし通好みの味を誇るミソが傷んでしまう。
しかし、山の中というのが良い。隠れて行動したい人にはピッタリだ。都合が良いともいう。
まあ以上で分かるように、納品分以外にも狩っておいて自分の食べる分も欲しい。蟹料理なんて前世でも作ったことないけど。持てる材料は持っておいて損は無い。
野菜や肉は確保してきたが、川や海のものはあまり食べる機会が無かった。刺身食べたくなってきた。王都に行く途中に海に行こうかな。ルートも再確認しよう。
依頼が書いてある貼り紙横の5と番号が書いてある木札を取って受付に行く。E級のクエストはほとんど常設だが、常設依頼は紙をイチイチ破るものではない。
何人もの冒険者が毎日行く場合もあるので、再利用可能な木札で代用しているそうだ。ここでは5番の木札はリバークラブの狩りということだ。
受付まで持っていくと、登録してくれた受付嬢さんがいた。他の人の手続きを行っているが、そのような状況で俺に来いとサインを送ってきた。
仕方ないので列に並ぶ。どの受付も並んでいるので顔見知りなだけ良いと思うことにする。
「おはようございます。今日受けられるクエストを確認いたします。冒険者証も提出をお願い致します」
「はい。お願いします」
「リバークラブですね。場所はご存知でしょうか」
「地図見て来たんで大丈夫です」
「失礼しました。手続き完了しました。リバークラブを1体お持ちくだされば依頼は完了です」
ここまで言うと雰囲気が変わった。受付嬢から心配するお姉さんに変わったと言えば分かるだろうか。
「この前は自己紹介が忘れていたわ。私の名前はフィリルよ。受付を主に担当しているわ。クーロイ君、あなたが強いのは分かっているけど油断はしないでね」
「何か気を付けることがあるんですか?」
「クエストで外に出るということは目当ての魔物以外にも当たることがあるわ。もっと上級の冒険者が間引きはしているけれど…今は少し手が足りないから」
「まあ余程のことが無い限りが大丈夫だと思いますので。お気遣いありがとうございます」
さっさと行くに限る。まだ後ろに並んでる人もいるし。素材を持ち帰る用の背負い篭を借りると建物から退散した。街を出るときに冒険者証を確認された。また魔力を感じた。
まずは川を目指して歩き30分も歩けば山の麓に着いた。ここからもう少し踏み入れば生息域だと依頼書には書いてあった。
川には魚も泳いでいた。あんまり取りすぎると生態系を崩すことにならないかと以前ルウネに聞いたら、そのバランスを保つのも神や精霊の管轄なのだそうだ。
自動プログラムみたいなもので勝手に処理できるらしい。どんどんやって良いそうなので、絶滅とかは気にしないで良い。
スペースの関係上、一日の発生量には限界があるので、周りに見られないように狩っていこうと思う。
最初の一匹目、ではなく五匹の群れが見えた。
さて、やるか。
☆ ★ ☆ ★ ☆
十を超えたあたりで数えるのを止めたが、お昼を過ぎたので昼食にした。コレクションブックを確認すると三十二匹ほど狩っていたようだ。
魔力玉をいきなり当てると甲殻が爆散してしまった。悲しかった。見ただけでは固さが分からないので素手で叩いて何匹か確認した後は、魔力弾の威力を調節しながら仕留めていった。
改良した素材のコレクションルームには生きてると入らないから加減しすぎた場合は少しずつ強くした。見ただけでは分からないな。ちょうど良い状態に加減するのは難しかった。
昼食は昨日の夕食の残りだ。唐揚げバーガーと揚げポテト。炭酸飲料は無いので果汁を絞ったジュースを飲む。ちゃんとカバンから取り出すふりをした。
今日はステータスは見ない。今はとにかく休憩だ。この状態でもスキルの練習にはなっている。プルにも魔石をあげた。旅の最中だとプルはあまり自分から戦おうとはしない。
俺自身で戦うのを見守ってくれているようだ。観察されている気もするが、俺の戦い方から対策でも考えているのだろうか。手の内を見せてるから勝ち越せないのかな。こいつ思ったより頭良いかもしれない。
食事休憩も取ったところで、何もないから昼の再開をしようとしたときに周りの気配が動いた。
「最後の食事は堪能できたか」
「恥の上塗りでもしに来たの?」
「口の減らないガキだな」
「自分と相手の力量差が分からないマヌケが大人ぶってるよりもマシだと思うよ。あ、分かってるから子ども一人に8人か。でも、プライド無いの?恥ずかしいね♪」
「殺す」
ニコニコと笑顔で煽った。こういうのは調子に乗らせておいて急降下させた方が後の躾がしやすい。
この前のオッサンだ。目が血走っている。やたら切れているが、酔っていてもいなくても行動は変わらないんだな。非常にがっかりである。
今度は手下も引き連れて来たみたいだ。既にそれぞれの獲物を手に準備している。見えているのは4人だけど全部で8人か。見えないように奥で魔法を準備しているのが3人、弓を準備しているのが1人か。
冒険者ギルドに到着する前から悪意感知で黒い靄が見えているんだもの。人気の少ないところを選んで、わざわざ手の内も少し見せたのに引かないらしい。
「ディースさん、殺すまでしなくて良いだろう。こいつのマジックバッグを手に入れるだけなんだろう?」
「それだけで済ますわけがねぇだろうが。ガキの持ってるカバンの中身なんぞ安物しかねぇよ。勝手に死ぬならその程度だろうが!」
「中身を出させて所有権放棄、これは譲れないぞ」
「なら手足切り落とすだけでまずは勘弁してやるよ。首は俺がやるからな。お前らは逃げないように囲んでろ。逆らうんじゃねぇよ」
あのオッサンはディースって名前か。話してたもう一人はこの中の副リーダーかな。一応この中での強い二人だもんな。
最初は俺を殺す気だったけどマジックバッグと勘違いして周りは奪ってからにしろと。結局殺すのは止めてないな。じゃあ同罪だな。
周りの3人は俺たちしかいませんよって感じで包囲するが、きちんと隙間から狙えるようになっている。
「初犯じゃないよね。なんでこれで冒険者として活動できてるの?冒険者ギルドにも共犯者がいるのかな」
「何を言っていやがる。黙って後悔しろ」
動揺は一瞬で抑えて、強気で押してくる。面倒だからいっか。
「じゃあはやく始めようよ。8人も持って帰るの大変だから、7人は捨てていっても良いよね」
バレていたことが分かると特に後ろの連中が動揺している。
「やれ!!」
オッサンの掛け声とともに火の玉、氷の槍、目には見えない刃?は風魔法かな。それと一緒に矢も飛んでくる。一気に来ると知ってないと防げないね。…?
当たらないように調整されているのは疑問点だな。少し手加減してあげるか。
「魔力弾」
いつものように10個出現する。相殺させるように6つを飛んでくる4種の攻撃に合わせる。風魔法らしきものは念のため3つ向かわせる。見えないと防御範囲が広くなるから仕方ないね。
残りの4つを4人の後衛の胴体を狙って放つ。速く飛ぶように指で狙いを付ける。
ドドドン! ドン!
魔法使いは3人とも命中、矢の人には初撃は躱された。でも矢の迎撃だけでは消えなかった1つを顔面に飛ばして沈黙させた。
後衛の攻撃の様子を見てから前衛は攻めるつもりだったらしく、固まってしまっている。
「来ないの?」
わざとらしく首をかしげて聞いてみた。
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