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27運送専門パーティ『馬鹿果報』

10歳になり、待ちに待った村を出るときがきた。今やばあちゃんの弟子として知識を身に付けたハーゲンさんがかつて住んでいた街のホーグラッドを一旦目指すことにしている。

別れの挨拶は既に済ませている。お別れ会は3人とプルだけと考えていたら、ハーゲンさん一家が怒り、村のみんなも怒った。


「勝手に行こうとしてんじゃない!!見送りぐらいはする!」


怒られたが、すごく嬉しかった。ルウネもこっそりと挨拶に来てくれていた。まあ、その出発前日の夜の話は恥ずかしいのでまたいずれということで。


とにかく最終的な目的地は王都にした。ルウネのところで鍛えすぎた。登録はホーグラッドでも出来るが、昇級試験が随時行われている王都へ早めに行く方が良いだろうと言われた。

今の自分がどれくらいの強さなのかは分からないが、魔法のごり押しをしないと相変わらずじいちゃんには勝てなかったので、現役で強い人はたくさんいるのだと思う。

獣人は狩りが主体なので、騎士の戦い方や魔法メインの人の戦い方には興味がある。ギルドには鍛錬場も付いているらしいので見学して学ばせてもらおう。


街への移動は我が村から2年前に設立されたギルドに頼むことになった。その名も『馬鹿果報』だ。人にしても荷物にしても運ぶことを請け負うことを生業にしている。

井戸毒事件のときにホーグラッドまで走った馬と鹿のコンビである。馬の獣人の名前はシェート、鹿の獣人の名前はバラガ。さすがに二人で回していくのは無理があったようで、事務を行ってくれる人をメンバーに入れたそうだ。

パーティ名はその時に変えたそうだ。二人の種族を表していると共に良い縁起がもらえそうということで結成の理由と共に商人に仕事を回してもらえているそうだ。

二人でなくてもパーティに入ったことで体力が底上げされるそうで、運送業界で一押しらしい。目下の目標はマジックバッグを購入することで、積載量アップで移動速度は他とは段違いを売りにしてやっていくらしい。


今回は人を運ぶにあたり、新型の車を開発したそうだ。ハーゲンさん一家が村に来るときに乗っていたものを改良したそうだ。バラガさんが曳いてくれるそうで長時間乗った乗り心地を教えてほしいそうだ。

実際の移動時間も計測して、ユーシル村とホーグラッドの街の間の定期便を考えているそうだ。村が栄えることに関しては賛成だし、移動にもなるので乗せてもらうことにした。

念のためこっそりとクッションを用意しておいた。自分で作ってみたが、ルウネ監修のもとで行ったので素材は良かった。結局はばあちゃんに手伝ってもらった。長期休みの宿題感があふれてしまった。


実際の乗り心地は期間があいていたことで特に気にはならなかった。これくらいは揺れるよねというくらいだった。前世のように道が舗装されているわけではないので及第点だろう。

乗るのがしんどいなと思う頃には本日の野営地に着いていた。今まで見送りはしてきたが見送られるのは当然初めてだ。こんなに鼻が痛くなったのは初めてだったとぼんやり思い出しながら野営地での準備を手伝いを申し出た。


「バラガさん、野営のお手伝いさせてもらえませんか?」

「ん?今日はお客さんだから気にしなくて良いんだぞ?」

「いえ『普通の』野営を見ておきたいんです」

「普通も何も、本当にただの野営だぞ。まあ手伝ってもらえるならお願いするよ」


これが結構重要だったりする。この世界で生きてきただけに何が普通じゃないのは分かっているつもりだが、10歳の子どもが野営の仕方も教わらずに村を出るわけがない。

今までは生きられるから気にされていなかったが、出来る限り多くの『普通』を知っておかなくては何か因縁を吹っかけられるかもしれない。

簡単に便利だけを求めるのは自分の身が守れるようになってからにするつもりだ。

今までに使われていた形跡のある場所だったので準備は比較的楽だったように思う。定期便が出来ればここにも宿場町が出来るのかもしれない。


そんな想像をしながら焚火の作り方や処理の仕方、野営の食事、見張りの分担は明日の移動にも関わるので無理矢理分担をもぎ取った。安全を確保するスキルもあるそうで、危険察知というものを持っているそうだ。獣人の勘も合わさって寝ていても魔物が近寄ってくると気が付くそうだ。

プルにも手伝ってもらったし、移動中は座っているだけになるので夜の間に起きるのもさせてもらった。バラガさんは最初こそ寝たふりだったけど、信じてくれたのか寝てくれた。俺は朝まで寝ずにキッチリ役割を果たした。


「一日だけだったが、どうだった?」

「結構睡眠の確保って大変なんですね」

「そうだな。今回はクーロイにプルもいるから、俺一人で来たんだ。馬鹿果報を組んでからというもの毎日熟睡する必要がないからな。冒険者も可能な限り日帰りで仕事をするぞ。泊りの仕事は4人以上のパーティを組んでからだな」

「体力温存も含めるとそうなりますよね。馬鹿果報に入りたい人は多いんではないですか?」

「それが全員がそうなるわけではないんだ。主に草食獣の獣人だな。他の奴らではパーティに入っても変化しないんだ。実感して抜けていくやつもいるし、裏方で残る人族もいるな」


走りながらこれだけ普通に話せるのだから相当の余裕があるのだと思う。効果があるなら俺も入れてもらおうを考えていたくらいだ。そんな都合の良い話はなかった。


「今日の夕方前には到着するからな。着いたらまずは冒険者の登録をしてこい。今までは狭い村と町だったから良いけど、これからはいろんな街に行くなら身分証として持っていた方が良いからな」

「わかりました。街の入り口近くですかね」

「さすがクーロイだな。入ってすぐだ。まあ連れて行ってやるよ。お前外見で舐められそうだしな」

「バラガさんの角大きいですもんね」

「褒めても飯くらいしかおごってやらんぞ」

「めちゃめちゃ効果あるじゃないですか!」


狩りを頻繁にするようになってから素材の引き渡しで何度も会っているので、割と気安い会話ができる。どうやら今日の晩ご飯まで奢ってくれるらしい。好意はありがたく受け取り、返せない恩は周囲に返すことを心に決めている。

会ったばかりでもおなかをすかせている人がいればご飯を奢ることを誓う。偽善かな。偽善でも喜んでくれる人がいるならそれで良い。


そんな会話をしているうちに到着した。街の入り口は特に混雑も無かった。まだ空いている時間に到着したらしい。初めて来るものは特にしっかりと確認をするので良い時間だそうだ。新参は住民と顔見知りであっても検査は確実にされる。例外は無い。

検査といってもバラガさんの紹介と簡単な受け答えで済んだ。ユーシル村のネームバリューと子どもということで簡単だったのだろうか。魔力の動きがあったので何かされたようだが悪意は全く感じなかったので気にしないことにする。

とりあえずは冒険者ギルドの場所の確認だけして、バラガさんの任務完了の報告に付いていった。少しだけ待ってろと言われたのでパーティハウスの前で待っていた。


いきなり家の中に入れるのもまずいのだろうと周りの様子を眺めながら待つ。

ここは街の入り口に近い。今いる場所から入り口の門も冒険者ギルドも見える。家賃が高そうと思うくらいには大きい家だ。荷馬車を停めるスペースもあるからかなり改築してそうだ。そういう意味では創立2年のパーティでもうまく回っているのだと思う。


じゃあ街の雰囲気はというと、交易が盛んと聞いたことに間違いなかった。大きな荷物を運んでいる人やキッチリ装備を整えた冒険者も通る。ガラの良い人ばかりでもないが。

商店の並ぶところもはやく行ってみたいが、それはバラガさんが晩ご飯の前に見せてくれるそうなので後でのお楽しみだ。

整備もしっかりとされているのだろう。この世界で文化的なものにはあまり触れてこなかったので、想像以上のものに出会えるのが楽しみだ。

村を出て、旅をしているのだなという実感が湧いてくる。正直売り物だけなら正直馬鹿みたいな量をため込んでいる。正直冒険者をしなくても良いと言えば良いのだが、まあ異世界の礼儀ということで冒険者になるつもりだ。


待つことしばし、微弱の魔力弾でお手玉遊びをプルとしていたら、バラガさんが出てきた。


「すまないな。待たせ…って何してるんだ!?」

「イヤ、軽くやってたら目立ってきて大道芸だと思われたみたいなんだ」


面白そうに見ていた人たちの中から、カイゼル髭のおじさんが話しかけてきた。


「見事なもんだったよ。もう終わりか?」

「待ち時間の暇つぶしみたいなもんだったからね」

「良いもの見させてもらったから、チップだ。容れ物はないのか?」

「そんなつもりなかったから別に良いよ」


お金があって悪いことはないが、稼ぐつもりもなかった。楽しんでもらったのならそれだけで良いので断った。それはお気に召さないらしい。


「それはいかん。子どもなのにそれだけの芸を、スライムと出来るのはかなり練習をしていたのだろう。技術に評価はされるべきだ。ぜひ受け取ってほしい」

「クーロイ、受け取っておきな。お前にとっては遊びでも楽しませた証だ。もらうのが筋だよ」

「バラガさんがそう言うなら。受け取らせていただきます。ありがとうございます」


ちょうど良い袋などないので手で受け取った。銅貨を2枚渡された。


「受け取ったな」

「へ?」


おじさんがにやりと笑うと、見物していた人たちがみんな銅貨を見せてくれた。


「袋用意してくるから待ってな。ちなみにそのオッサンはうちのパーティのお得意さんだ」


バラガさんがパーティハウスに袋を取りに行ってくれた。その間に話をされたが、商人のおじさんたちは子どもが路銀を稼ぐために出来る芸をしていたと思ったようだ。

袋におひねりを入れてもらっていると、そのうち凄腕の冒険者になるだろうから名前だけでも憶えておけとバラガさんが宣伝していた。


こんなことで目立つつもりはなかったので、周りに人がいないときだけにしようと思った。

お読みいただきありがとうございました。

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