24祭りの準備
世界樹の元から帰って十日余りが経った。
井戸に放り込まれた毒に対する解毒剤と、過剰な量の世界樹の樹液を持ち帰ったことで、何とか村人に犠牲者を出さずに済んでいた。
毒は完全に抜けきったと思われるが、体力が完全に戻っていない者がいる。やはり子どもや年配だとその辺りは厳しい。
急な状況でないなら魔法は効き目が強すぎる。ポーションもクーロイが森をさまよっていた間に摂取していたため、自前の体力で取り戻していくことになっていた。
この間に徐々に復帰していくものもいたが、まだ本調子ではない村人も考慮して村全体で手伝いながら回していた。
とはいえ、いつまでもふさぎ込んでしまう雰囲気ではいられない。快復祝いも含めて祭りを行うことになった。
題目としては、世界樹へ感謝を捧げる祭りだ。各家で食事と飲み物を持ち寄り、感謝の歌と踊りを捧げることになった。
クーロイは解毒に貢献したということと、十分な戦闘力を持っているということで食材調達と村の警護を行いながら過ごす期間となった。
祭りまではまだ数日あるので、必要な材料も集めながら当日に向けての試作を作っていた。
「今度のはどうですか?間に挟むハンバーグの割合を変えてみました」
「いや、今回のも十分おいしいよ。クーロイ君は何を目指しているんだい?」
感想を教えてくれたのは、解毒薬を作成するためにわざわざ派遣されてきた薬師のハーゲンだ。一家4人で村まで来ており、奥さんで助手のキサ、二人の息子のアラロと娘のケミィも一緒に食事を取っている。
アラロは10歳でクーロイよりも身長は高く、ケミィは7歳で身長は既にクーロイの方が高い。アラロは父母を目指して薬師を継ぐつもりでついて回っている。ケミィも同じ道に進むかはまだ決め切れていない。
それよりも一番下の妹だったため、数か月とは言え年下のクーロイには年下扱いをしたい。が、中身は父母と同年代のため希望通りの反応が得られないことが悔しいようだ。
しかも見たこともない料理を振舞われて、衝撃が止まらなくなっている。
「前のものよりもあっさりしているから、私は食べやすくなったと思うわ。クロエミさんはいかがですか?」
「そうねぇ。獣人は肉がたっぷりの方が良いから、味はこれで構わないからハンバーグを大きくしても良いかしら」
「間に挟む野菜と合わせることで美味いと感じたのは初めてだ」
「いや、クーロイ君凄いよ。こんなにおいしいのを毎日食べられるなんて、ここに来て良かったと思うよ。僕よりも年下なのにこんなことが出来るなんて。既にあるものを組み合わせるだけでこんな発明になるなんて…」
「アラロ。ブツブツ言うのは食べ終わってからにするんだ。ケミィもおいしかったらおいしいと言うんだよ」
「思うけど…。こんなの作られたらどうしたら良いのよ」
食べやすいと褒めてくれたのはキサ、ハンバーグの大きさに注文を付けたのはクロエミ、間に挟んだレタスに感動しているのが牙丸。食事中にも考え込んだのがアラロ。アラロに注意したのがハーゲン。違う意味で考え込んだのがケミィだ。
ケミィは恋愛感情ではなくお姉ちゃん風を吹かす方法で悩んでいること、無言のために何気にプルが一番食べていることを追記しておく。
「分かった。これでハンバーガーの調整については出来たと思うので、ハンバーガー試食会は今日で終わりにしたいと思います」
「次に食べられるのは祭りの日かい?」
「そうですね。今村ではカレーに始まった香辛料を色々使った料理が流行っているので、違ったアプローチがしたかったんです。でもこれだけではなく、用意してますからハーゲンさんももう一つ期待してもらって良いですよ。間に合えばもう一品いきたいところだけど準備が無理そうなのでそれはまた今度にします」
「そりゃあ楽しみだ。薬師としても成長出来て、毎日の食事もおいしい。本気の移住を考えてしまいますよ」
「ご家族でちゃんと相談してくださいね」
クーロイは祭りの食事提供にハンバーガーを考えていた。多少なら冷えても食べられるし、堅苦しくなくて良い。
あとはまだ完治していない者はカレーなどが禁止になったため、違ったメニューを用意しようと思ったのだ。何を挟むかでまた違った楽しみが出来るため、村の名物に出来るかもしれないとも狙っている。
カレーが食べたい子どもは大人しくして少しでも治そうとするものもいれば、クーロイの新メニューを期待して遊ぼうとするものもいる。親に捕まって大説教されたものもいる。
以前と変わりない雰囲気が村に戻ってきたことに、クーロイは喜びを感じていた。創造神に言われた幸せとはこんなときに感じるものなのだろうと思う。
あとは美味しいものをみんなで無事を祝いながら楽しむことが出来たら最高だ。食べることで幸せを感じる人間だったのだろう。
ただ、食べ物が全体的に美味しく感じる気がすると思っていた。前世との違いは一言で魔力。魔力に何か秘密があるのかもしれない。知っていそうなものに会ったら聞いておこう。
そう考えたときに1つ思い出したことがある。
「明日祭りに向けてもう一度世界樹へ行ってきます」
「ご神体として何か村の集会場に頂戴する分神体のことだね」
「そうですね。くれぐれも内密にお願いしますね」
「当たり前だよ。下手に村の外にばらしてこの村に不利益を起こすようなことはしないと神に誓うよ。学術的に興味はあるが、下手すると他国が攻めてくるような話を漏らすわけにはいかないからね」
世界樹の樹液を持って帰って来た時点で一家には村の本来の役割はバレている。
ならば内部の人間として取り込んでしまおうと考え、一家は全員一致で了承した。
領主にも具体的な話を聞きたければ直接出向くか、こちらから行くまでは手紙ですら書けないと既に返答している。あちらの対応待ちだ。
「話を戻すと、前回行ったときに次は早く到達できると言われています。ただ、どれだけ早く辿りつくのか分かりません。万が一間に合わない場合は諸々お願いします」
「今回の一番の功労者はクーロイなのだから、戻ってこれるようにがんばるんですよ」
「わかってるよ、ばーちゃん。超特急で行って来るから」
「チョウトッキュウ?」
その場にいる全員が聞き覚えの無い言葉に首を傾げたり、疑問を浮かべていた。
「えーっと、めちゃくちゃ急ぐってこと」
「急げよ」
一人だけ疑問を浮かべることの無かった牙丸が一言で全員の気持ちを代弁した。
「任せといて!」
☆ ★ ☆ ★ ☆
翌日、早速世界樹を目標に森に入った。前回の帰り道からそうだったが、魔物が現れないために非常に進むのが早い。
2時間ほど進んだところで、目の前で森が途切れて視界が明るくなり、十数日ぶりに世界樹、ルウネの元へと戻ってきた。
「ルウネ~!約束通りにきたぞ~!」
叫んでしばらく待つつもりだったが、すぐに現れた。
「待っておったぞ!本当にすぐに来てくれたのだな。礼を言うぞ」
十数日がすぐという時間感覚の違いは感じたが、気にせずに流すことにした。
「まあね。ひとつ提案したいことが出来たんだ。」
「提案か?」
「今回の一件の終息を理由に祭りをすることになったんだけど、祭りに見に来てみない?」
「祭りか!参加するのは難しいが、こっそり見に行く分には良いだろう」
目線を外して少し遠くを見た。何となく声をかけにくい雰囲気を感じる。こういうときって昔を懐かしんでいるのが多いはず。これも気にしないでおこう。
「今日の用事はそれだけか?」
「ほとんどそうだね。色々と教わったりするのは、落ち着いてからにしようと思っているから」
「どんなことから学びたいのだ?」
やはり久しぶりの会話が楽しいのか、教える側の方が楽しみにしているかのようだ。
「まずは魔法だね。属性魔法は基本の地水火風からだと思ってたから、生命と植物なんていきなりすぎて何が出来るか分からないよ。植物魔法で栽培とか捗ったりする?」
「可能だぞ。スキルレベルが上がれば指定の植物を生み出すことも可能だ。ただ、必ず土が必要だし、魔力の接続を一度切ると気候に定着しない場合は枯れるがな」
制約はあるが便利だ。村の特産品として提供できるように育つものを見つけるのも良いだろう。魔法一つ使えるようになるだけで出来ることが増えすぎではないだろうか。
「対価となる魔力は多いぞ。無から有を生み出すのだからな。普通の魔力では足りないぞ。」
「今は五百くらいあるけど足りない?」
「足りないな。二千くらいは欲しいところだ。土、水、風が使えれば少しは役に立つのだが」
「それって魔法合成に関係ある?」
「そうじゃ。基礎は知っているのだな。合成は人族ではなかなか至れない境地だがクーロイなら可能だろう。まあ数年では無理だからあきらめるでないぞ」
全部気の長い話をされてる気がする。簡単に教わることをお願いしたが、時間間隔の違いがすごいぞ。数か月かかることでもすぐって感覚で教えてきそうだ。まだ旅立ちまで3年はあるから良いか。
「まあ次回からでお願いするよ。生命魔法についてもね。とりあえず祭りが4日後なんだ。迎えに来たら良いかな?」
「そうだな。この枝を預けておく。クーロイが魔力を注げば目印になるからそこに行くことにするよ。」
「あ、助かる。ご神体として祀らせてもらっても良いかな」
良い提案をしたつもりが、イヤそうな表情に変わってしまった。
「あまり目立つのは勘弁だぞ。村に行くためだけに渡すのだ」
「でも村に祀ってあれば、いつでも村で会話できるよ」
「ぐっ」
もう一押しだな
「村に来てもらえれば、話し相手が誰もいないなんてことも無いよ。今回の祭りでばーちゃんと会わせるつもりだったし、ばーちゃんは神託スキル持ってるって言ってたよ」
「そうか。神託を持っている者がいるのなら話しかけてやらなくてはいかんだろう。ならば祀っても良いぞ。ただ、私がどこにいるかとか誰彼構わず話しかけることは無いからな。そこはよく言っておくんだぞ」
何お前、めっちゃ嬉しそうに笑ってるじゃん。普通に可愛いじゃないか。
「分かったよ」
ぶっきらぼうに返事する俺に気づかずに、ルウネは返事を返す時には持って帰る枝を準備していた。話し相手に飢えていることだけはよくわかった。
お読みいただきありがとうございました。




