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23悪人に人権は無い

茂みを分けて出てきた男だがクーロイには全く見覚えが無い。ニコニコと笑いを浮かべている。

特に特徴もない顔だ。ダークブラウンの髪に糸目、狩人とも冒険者とも言えるような服装をしていた。付近には他に誰もいないようだ。


「ここにいたのか。心配したぞ。村の人に言われて探しに来たんだよ」

「おかしいな。期限は5日だから、まだ余裕があるはずだよ」

「何とか解毒が間に合ったから探す必要がなくなったんだよ。だからもう帰ってきても大丈夫と伝えて連れ戻すように言われたんだ」


理由を説明しながらクーロイとの距離を詰めていく。クーロイは警戒して剣の柄に手をかけると、男の足が止まる。


「物騒だな。やめろやめろ」

「というかおじさん誰?」

「俺か?俺はたまたまこの村に来たんだよ。獣人だけの村があるという話を聞いてな。一度来てみたんだ。そうしたら村の中がかなり切羽詰まっていてな。ただ、たまたま俺が持っていた薬が解毒剤として効いてな。それが昨日のことだからもうみんな元気になっていると思うぞ」

「本当に?良かった!」


心底ほっとした表情を浮かべたクーロイに対して更に男は近づく。


「とりあえず急ごう。帰ってみんなを安心させることが優先だろう」


それでも警戒を解かないクーロイは一言呟く。


「魔力弾」


今回は目の前に10個ほど出現させた。さすがに無視して近づくわけにはいかないため、足を止める。


「おいおい。なんてことをするつもりなんだ。危険だろう。俺は本当にお前の味方だぞ。どうしたら信じてくれるんだ」


緑色に光る石を取り出して男に見せた。


「この森に入るにはね。ある決まりがあるんだ」

「決まりだと」


男の表情が歪む。そんなことは聞いていないし、言っていなかったはずだと思い返す。こんなことで頼まれたことを遂行できないのは困る。


「ここには森林に敬意を表して、緑色のものを持ち込むんだ。あなたは人族で用意してなかっただろうから村長から渡されてるでしょ?お互いにそれを見せ合って確認しようよ」

「あ、あ~。そのことか。ちょっと待ってくれよ。無くさないようにカバンの中に入れたからこちらに来て確認してくれないか」

「じゃあちゃんと持ってきてるんだね」

「もちろんじゃないか。これで信用してくれたか。じゃあこちらに来て確認してくれるか」


背負っていたカバンを下ろす。約束したものを見せようとカバンの口を開けて中を探す。


「行くわけないじゃん」

「は…?」


男が違和感を感じてクーロイの方を見たときには、鞘から剣を抜き放ったクーロイがいた。続けてクーロイは体全体に身体強化を施す。


「毒の元凶にわざわざ近づくようなバカはいないよ」


言葉の後に全力で魔力弾を放つ。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


避けられないように面制圧が可能なように打ち出している。一発でも当たればありがたい。よく考えたら解毒剤まで壊してないだろうか。

次の魔力弾を用意して土煙が晴れるのを待った。


そもそもだね。数日で解毒剤をたまたま持っているような奴が現れるなら最初から奇跡を狙ってない。というかクロエミばーちゃんが常備してるわ。

悪趣味な芝居に面倒ながら付き合ったのは確実に先制を取るため。それ以上に意味は無し。緑色の石は昔集めたきれいな石なだけだよ。


そんなことを考えながら待っていると、先程の表情とは違い怒りをたっぷり浮かべた顔で睨んでいた。

魔力弾は4発当たってるのかな。装備にも結構ダメージを当たられたみたい。世界樹の指輪のおかげでスキルもステータスも上がったからかなり優位みたいだ。ラッキー♪


「もうそんなに余裕無いの?おっさん雑魚すぎない?」

「このクソガキが!ふざけたことをぬかしてるんじゃねぇ!」


大声で怒鳴られても、先に仕掛けたのはそっちだ。

村の中に潜んでいるのに仕掛けてこないからわざわざ襲いやすいように一人で行動した。

世界樹の樹液という取れれば治癒、釣り餌としても最上級になりそうなものを用意した。それなのに、仕掛けてこずにダラダラと無駄に3日間もついてくるだけ。

しかもこいつがついてこなかったら、もっと早くルウネのところに着いていたはずだ。それっぽいことを言っていたし。

こちらも一つだけ確認しておこう。


「村の井戸に毒を入れたのは本当にお前か?」


俺の気配の切り替わりに男は怒りを引っ込めて、警戒を押し出して返答する。


「……そんなことはお前に言う必要はない」

「ふ~ん。だったら解毒剤持ってない?もしくは持ってる奴はどこか近くにいないの?」

「…………」


今更無言もないだろう。裏稼業っぽいのに感情を出してる時点で二流以下。子どもだからと最初に侮ってる時点で失格だと思う。


「世界樹の樹液は俺が持っているよ。欲しければ力づくできなよ。相手の持ち物が欲しいけど素直に出してもらえない同士、勝ったら総取りってことで勝負にしてみない?」

「お前、何者だ?」

「わざわざ説明するのめんどい」

「ッ……!」


散々煽った甲斐もあり、仕掛けてきてくれた。鉄の千本を両手の指に挟んで投げてきた。準備していた魔力弾5発で迎撃する。

針と魔力弾が打ち合うのを横に短剣2本持って攻めてくる。残りの5発を時間差で放ちながらこちらの体勢を整える。


キン、キン、キン、ッギィン!


剣での勝負はお互いの技量はあまり変わらないようだ。何度か切り結んだり、鍔迫り合いで止まったりと打ち合いが続いた。

その時点で向こうは動揺が隠せない。訓練の成果をこんなところで感じてしまう。力はこちらが有利、速さは男が有利。

ある程度予想はしていたので何も思わないが、男はここでも意外だったらしい。だから顔に出してる時点でダメだって。


力で弾けるところには力を籠め、速さで出し抜かれそうなところが魔力壁で弾いた。攻守の隠していた手の数が違っていたようだ。

戦いに自信があるやつだったら毒みたいな搦手を使ってはこないか。


男は動揺した分、動きが硬くなっていき、片手の短剣をはじいた。出来た隙を突いてもう片方の短剣も弾き飛ばす。

表情には焦りしか浮かんでいない。距離を取って、もう一度針を投げてくる。魔力壁で防ぐ。

攻めの手を潰しすぎてしまったかもしれない。撤退を考えてそうだ。覚えたての植物魔法で男の足元の草を全力で操作して足を絡めとる。

男が気づいたときにはがっちり固まった。懐に飛び込んで腹に左手で魔力満載の一撃を加える。


ッゴオォンン……!!


重低音が響くと共に一気に男の体勢を崩して吹っ飛ばした。おまけで魔力弾を50発ほど出して、念入りに打ち込む。悲鳴すら搔き消す勢いだ。こんなもので終わりと思われては困る。


自分の置かれた状況か、魔力弾の威力か。どちらか知らないが驚愕と怯えと怒りの混ざった表情を浮かべて仰向けになっている。顔は避けたが、体中血まみれで横たわっている。回復魔法を使えたとしてもこれは治るのに時間がかかりそうだなぁ。

人型と命の取り合いするのは初めてだけど、特に問題なく動くことが出来たな。自分の成果を確認していると、小さな喚き声が聞こえた。


「…ゲホッ、こ、こんな…ことをしてもいいと…思ってるのか。ハァハァ…俺の依頼人が…黙って…いないぞ…」

「今更命乞いとかやめてよ」


まだ脅しが効くと思っていたのだろうか、更に強張る。…本当に面倒になってきた。


「あんたさ、ここにいるってことは少なくとも毒で弱ってる村人を見てたわけでしょ。それで助けてない時点で敵対勢力。今この場でも近づくだけで嘘ついて攻撃加えてきたよね。なんでそんな奴に情けをかけないといけないわけ?」

「げ、解毒薬なら…ある。このかば…んの中に入ってる!」


不利を悟って下手に出てくる。が、もうかばんはこちらの手の中に入ってるのを見せる。打ち合いの間にプルに肩掛けの紐をちぎって奪ってもらっていた。


「そもそも解毒剤は勝負の景品。勝った時点で俺のものでしょ。それで取引するならもっと別のものを差し出さないと交渉になってないよ。解毒剤がなくなったら困るから先に確保させてもらったけどさ」

「俺の…握っている…情報も話す…!」

「ミルズの町の領主か商人でしょ。そっちはそっちで考えてるから大丈夫だよ。……うん。あんたのその表情で裏が取れたよ。ありがとうね」


もう何も言葉を発することが出来ずに真っ青になる。


「そもそも、俺がこの森に来たのはお前のようなクズなら世界樹の樹液に食いつくと思ったからだよ。来ないなら来ないで良し。来たからこうなってるのさ。解毒剤があれば助かる可能性が上がるよね。本当に助かったよ。ありがとう」


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


男の荷物や服の中に仕込んでいたものを全て回収して、村に急いで帰った。

ルウネが言っていたように帰りは2時間程度で戻ることが出来た。無駄な時間を過ごすことになったが、まだ有意義な扱いをする予定なので楽しみにしていよう。

男はこの後登場の予定は無い予定でしたが、少しだけ登場します。


お読みいただきありがとうございました。

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