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19一致団結

「あなたの察しの通り、井戸の水には毒が入れられているわ」


ここまでは根負けしたから言うと心中で言い訳をして再度向かい合うために力を込めてクーロイを見つめ直す。


「だからと言って、まだあなたに踏み込める話ではないでしょう。あなたの手が必要ならちゃんと言うから…」

「じゃあ言ってよ。ばあちゃんがただの薬師だと思ってないよ。回復薬くらいしか家から持ち込んだものは一切使ってないんでしょ?」


図星だった。なぜそれを知っているのか。


「プルに見てもらってたんだ。集会場で何かあったら困るけど、今は皆に余裕がないからね。護衛に専念してもらうのにはスペースも取らないし。最適でしょ」


焦って全く気を配れていなかったことは確かである。でもスライムが気配隠蔽するなんて聞いたことがない。クーロイも大概規格外だが、それは相棒にも言えることだったようだ。


「ずっとばあちゃんも見てもらってたんだ。不足があればすぐに調達できるようにって。村長が前に村一番の薬師って言ってたでしょ。そのばあちゃんが解決できないなら誰にも出来ない。

だとしても、あきらめるなんて選択肢は誰も持たない。取れる選択肢で言えば近隣の町に助けを呼ぶ。近くではなくてもっと遠いところだね。ミルズの町にいる管理者、貴族かな、そのあたりが犯人でしょ。助けを求めても無理だ」


孫が、違う生き物に見えた。いつもは温かい魔力であるというのに、熱いような冷たいような魔力が刺さってくる。


「かといって、こんなところに獣人だけの村が出来ているのなら、それを推奨した味方の貴族がいるはずだ。そっちに助けを求める。ただ、それには時間がかかる。強い毒みたいだよね。都合よく解毒剤があるなんてこともないだろうし。

でも、ばあちゃんはまだあきらめてない。何か方法があるんでしょ。貴族の方に行くのと同じくらい可能性は低いかもけど助けられる方法が」


かわいい孫だと思っていたが、認めるしかない。成人と比較しても差し支えない思考が出来る。


「この森かな。こんなところにわざわざ村を作る理由が何かなって思っていたんだ。じいちゃんが指示する狩りはいつも入ってはいけない場所があった。南の奥の方だよね。

そこに何かあるんでしょ。たぶん俺は手に入りにくいものでも手に入れられる可能性高いよ。この黒い石って賢者の石でしょ。簡単に手に入ってるなんていうおかしな奇跡起こしてるよ」


何をすべきか、誰が行くのが最善なのかまで考えられていた。ここで許可を出さなくても自分で勝手に行ってしまうだろう。ならば持ち帰ってくる可能性を上げておく方が良い。


「この村の名前は覚えてる?」

「ユーシル村だよね。最近知ったけど」

「村としか言わないからね。この名前はあるものを由来としています」


何かに思いついたような顔をした。この子の前世とやらはどんな世界なのだろう、この状況が落ち着いたらゆっくりと聞いてみたいと思う。


「世界樹ユグドルシルがあると言われています」

「知ってるのとちょっとだけ違う!」


惜しい!と膝を叩いた。しかし、甲羅を叩いた右手を痛がっているのを見て、少し気が落ち着いたのを感じる。わざとやってくれたのかしらと口に微笑みが戻るのを感じる。


「ただし、あると言われているだけで私ですら見たことがありません。というより村で見たことがあるものもいません。森を管理する名目で誘われてここに村を作ることになりました。

私たちがここに村を作る前に世界樹が枯れている可能性もありますし、元々存在していない可能性すらあります。ただ……」


村の人間の命を背負わせることになるのは心苦しいが、牙丸が行かせていないのにも理由がある。全てを話してわかった上で行かせるのだとすべてを言い切る。


「毒は私も見たことの無いものです。解毒剤がないのなら毒そのものを浄化するしかありません。それには世界樹の樹液が最適です。仮に手助けしてくれそうな街へ助けを求めたとしても解毒剤がある可能性もまた低い。両方低ければ両方の手を打つのが一番と言えるでしょう。

また、牙丸が行かせなかったのは危険だからです。」

「そうだ。植物系の魔物が最近活発に発生している。やつらは動物系と違って呼吸が小さい。気配も読みづらい。奇襲をかけられやすいということは死ぬ可能性が高いということだ。お前はそれでも行くのか」


いつの間にか2人の話を聞いていた牙丸だった。牙丸の後ろには一緒に町へ行った狩人や遊び回った友達、アカヅメもいた。目には涙が浮かんでいる。なんでお前が泣いているんだ。

プルが面倒を見ていた赤ん坊の母親もいた。目元が赤い。あの家は東側だけど、上の女の子は友達の家が西側で遊びに行ったときに水をもらったらしく、今は高熱にうなされている。


苦しんでいる人を見ているのは悔しい。何か出来ることが無いかと模索する。この村みたいに全員が顔見知りみたいな場合は特にそうだろう。

だから仲間を守ることに誇りを持つし、憧れを持つ。何とかする方法が見えたときに命をかけたくなる。俺の自己満足だろうか。


「じいちゃん。獣人の男は村を守るために戦う、みたいなことを言ってたよね。……それって今でしょ?」


イタズラがばれたときのような悪ガキの気軽さでクーロイは言い切った。


「………わかった」

「牙丸さん!いくらあんたの孫でも!危険だ!」

「クーロイとプルの二人で戦ったら俺でも苦戦する。負けないがどう転んでも勝てない。強さにも色々ある。こいつらなら行って帰ることができるだろう」


狩人の男たちも身を案じての言葉だったが、牙丸の一言で押し黙った。

パン!と手拍子が響く。その方向を見ると村長だった。


「さあ!可能性は少しでも高める方が良い!クーロイの出発も町への救護願いも明日の朝一番で動くぞ。今から準備だ。」


いつもは目立たない村長が声を張り上げた。誰だよって顔つきに子どもたちは驚いている。


「今回の件は明確にこの村への攻撃だ。夜番も立てて、警戒するんだ。その上で打開策を打っていくぞ。すぐに動くんだ!」

「「「はい!」」」「「「「おう!」」」」


やっぱりこの村から旅立つのは寂しいなとクーロイは思った。

お読みいただきありがとうございました。

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