151次の旅は西へ
【クーロイ視点】
ジュコトホのダンジョンを制覇してから4カ月が経過した。最後の兵士さん達の鍛え上げも終了したので、エルンハート家の安全も確保できるだろう。
ダンジョンクリア直後のことを思い出す。
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最下層のボスを倒したことでもう一度白獅子様が現れ、ステータスを大幅に補強してくれた。また、スキルレベルの9以上に上げる資格ももらえた。8以上には努力だけでは上がらなかったそうだ。
初めてのダンジョン攻略をする前に8まで上げるやつは極稀だったらしい。それはまあ俺が鍛えすぎていたってことで。
あと、追加で手紙をくれた。正しくはコレクションブックを開けというメッセージを届けてくれた。ステータスを見る時以外は開いていなかったが開いてみて驚いた。
『メッセージBOX』という新しい項目が出来ており、神託がここに溜まっていくように設計されていた。初めてのメッセージは創造神様からで、俺の魔力についてだった。
転生前に魔力なんて存在していなかった世界から来た俺は本来魔力は持っていなかった。ただ、それではこの世界では生きにくいと考えた創造神様は自らの魔力を俺に分け与えた。
そこは魂に固着しているので自らが生み出しているものなのだが、成長スピードがとんでもなくはやいらしい。MPだけやたらと伸びる理由が分かった。
あとは魔法をかけるならともかく魔力のまま他の生命体に分け与えてしまうと影響を受ける可能性があるので、このメッセージを見た以降は気を付けるように、とのことだった。
それは言うのが遅い!パーティメンバー全員に何らかの形で俺の魔力に触れさせてしまったことがある。ケイトは循環させるくらいだが、コウガなんて思いっきり魔力を分けている。
強くなるってこういう意味かと納得した。納得したからこそ俺は一つどうすべきかを考えてなくてはならない。
ある意味この世界に転生した意味のうち大きな1つを達成したと言える。しかし15歳が成人と見なされるのに、俺はまだ11歳だ。12歳まであと5か月もある。
はっきり言って生き急ぎ過ぎだ。今まで周囲に言われていたことだが、自分でもはっきりと自覚した。よって戦闘系の鍛錬以外にももっと積極的にこなすことにした。
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そして、この4カ月の間に戦闘をこなさなくなった代わりに他の工作スキルを伸ばすことにしていた。
工作スキルを伸ばすと聞くと若干既に引退生活に入っていたように感じられるかもしれないが、鍛練の指導は真面目に行っていた。
何が原因かは分からないが、黒鬼は隠れて言われてしまったので、厳しかったようだ。
そんな鍛錬も突破してもらい、兵士さん達は既に王都へと出発している。前の隊とは違うルートも少し入れつつ、前回気になったルートのチェックも行いながら帰っていく。
自信と実力をしっかりと身に付けた人たちを見送るのは何か感慨深かった。何も心配事がないということもあったかもしれない。
俺たちは別で帰る。兵士さん達のスピードに合わせていたら俺たちには遅いし、帰るまでが兵士さん達にとっては鍛錬である。がんばってもらいたい。
兵士さん達を見送った俺たちは明日ジュコトホを出発する。ジュコトホでの最後の夕食だ。冒険者としての活動もしていたので、最後の挨拶がてらのお別れ会も兼ねている。
お店を貸し切り、幸丸も俺も作った料理を提供させてもらった。お店の方にレシピを渡して布教も忘れずに行った。地道に行っておくことでこれ以降のレシピの提供もしやすくなるだろう。
今後のレシピの方がインパクトがあるぞ。なぜならついに行くからだ。
そう。兵士さん達を見送ったここからは違うのだ。王都に寄った後でいよいよ米探しの旅に出る。目標は西だ。聖教国は通らないルートを既に選定している。
最大で8カ月まで延長が可能だが、一応半年くらいを目途に戻ってくる予定だ。ケイトの入学がそのあたりで1年後に迫ってくることになる。さすがに公爵家の娘が醜態をさらすわけにはいかないのでもう一度学習内容の確認で1年を過ごすことになるそうだ。
「1年も必要ありませんが、はやく終わらせればまた自由時間を確保できます。相手の言うことを聞いてからこちらの主張を通すのも良いでしょう」
筋を通してから自分の話を聞いてもらうとはケイトらしい。
「クーロイ様がそこまで楽しみにしている米料理は私も楽しみです」
「ワイのひとまずの目標は料理食べれるようにすることやな~。無くなったはずの食欲がうずく気がするから急いだ方が良い気がするなぁ」
「がんばれ、ヨウキおっちゃん」
「ありがとうな、コウガ。おっちゃんがんばるわ」
この4カ月の間にコウガは話が出来るようになった。体の大きさも調節できるようになったので俺やケイトのローブの中に隠れていれば見つかることはない。プルも隠れるのをカバーしているので街中でも今のところ問題はない。
背中に俺とケイトが乗れるようになったので、走るのではなく空を飛んでの移動が可能になった。詳しい場所が分からずとも、しらみつぶしに飛んでいれば見つけることは可能だろう。方角は幸丸がいれば補足可能だし。
移動で言うなら次は幸丸本体での移動だ。今度は資材集めをがんばらなくてはならない。魔力はあと10年もあれば完全に充填できるようだ。良い魔力源を手に入れられたのが嬉しい。
その関連で思い出した。ジュコトホのダンジョンには新しい名物が出来た。金色に光るボーナス魔物だ。弱いくせにドロップは価値のある魔物素材か、高級食材で狩れたら儲けが大きい。
ただ、完全にランダムで出現するので狙って狩れるものではないと噂されている。貧しい冒険者が装備一式を整えることが出来るくらいには儲けがあるし、そういった話が多く出てしまい、実力不足なのに無茶をする者が出てきてしまった。
2階層へ進む前に冒険者ギルドから安全指導員が立つようになった。資格を持たないものは通れない。指導員がいなくなる夜の時間に通る命知らずまでは助けるつもりはない、との発表も行われた。自分の行動は自分で責任を取らないといけないなと思わされる。
そんなことを考えていると、仲良くなった冒険者たちに絡まれた。まあ楽しく食事を取るのが優先されるよね。細かいことは移動しながら考えよう。
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そしてコウガの背中に乗って数時間もしないころ、王都が見えてきた。上空から見えるくらいなので、そろそろ降りて地上を行こう。十分に日暮れまでに到着できる。
着陸態勢に入ったので地上の確認を全員で行いながら待っていると、懐かしい魔力を感じた。『美食の奇跡』だ。着地して近づいてみると、向こうも気が付いてくれた。
話を聞くと、ニケンさんが少し記憶を思い出したらしい。名前すら覚えていなかったから、ボクジさんが剣を2本使うからと適当に決めた名前を使っていた。
今から俺たちが向かう西へと向かうそうだ。記憶が戻ったときに『東へ行け!』と言われた記憶を思い出したからだ。逆に西へ行けば何かあるのかもしれないと考えた。
実は『美食の奇跡』を抜けて行くつもりだったらしく、一人でこそこそ行こうとしたところを取り押さえたらしい。それから話し合い、全員で行くことになった。
「よけいなことをしてくれるんだよ。こいつらが」
「そういう時は、ありがとう、って言えと言っただろうが」
「いや~、その時は水魔法が暴走しちまってニケンがびしょびしょになってたわ」
みんながなぜ笑っているのか分からないでいると、こっそりとウォルさんが教えてくれた。
「ニケンが男泣きしてしまってな。誤魔化すためのときのことを言っているのだ」
移動速度については問題があるかと思ったが、この人たちならばらしても良いので、コウガのこと、乗る部分は幸丸とヨウキで作成することで話が付いた。
そして、王都に帰ってきた俺には問題がある。ケイトの誕生日が明日だ。準備は出来ているので、包むものを探しにプルと行動中だ。
「まだまだ世界を旅するからさ。これからもよろしくな、プル」
相棒はいつも通りに応えてくれた。笑顔が増えるように俺も笑わないといけないな~。
一旦これで一度完結とさせていただきます。お読みいただいた通り、まだ冒険のネタはあるのですが、強くし過ぎたのと苛烈な行動させ過ぎてそっちのネタが付きました。
まだ冒険させてはあげたいのでどこかでもう一度書くかもしれません。そのときはまた更新します。
別の話のアイディアとかもあるので、また何か書いていこうと思います。
それでは、この小説を読んでいただき、誠にありがとうございました。