150ダンジョンボス発生?
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昨晩ヨウキが立てたフラグが成立したらどうしようかとクーロイはどよんとした空気をまとっている。フラグを理解していないためクーロイの不安をイマイチ掴み取れていない他のメンバーは相手にせず最終のチェックを行っている。
「フラグって怖いんだぞ。というよりもいくら何でも白獅子様と戦って勝てるわけないだろ。横にいたときのあの魔力密度を感じてなかったのかよ。確実に瞬殺されるぞ」
「ご主人がなんか言うてますよ、お嬢」
「放っておいても大丈夫ですよ。準備は既に終えられてますし、もし万が一にでも白獅子様と戦うことになったときにどうするかを考えておられるだけですわ」
「あ~なるほど~。白獅子様以上に強いのは出て来んと考えたら、それ以上に困ることは無いんか」
「獣系統でしょうから、対策も無駄になりませんよ。きっと」
「さすがですね。マスターのことをよく理解しておられます」
「ええ。色々と覚悟した上でついて来てますから」
それを見ていたヨウキは指で幸丸を突いて、小声で話しかける。
「なあなあ、お嬢っていくつやったっけ」
「10歳と8カ月ですね」
「ワイが生きてた時にあんな10歳児おらんかったわ」
「我々がマスターに会った時、マスターも10歳でしたよ」
「死後に2人も出会うとはな~…」
会話を聞いていたかのようなタイミングで号令がかかる。ようやく、覚悟の決まったクーロイが手を叩いて注目を集めた。
「悩んでいても無駄だ。やるだけやってやるよ。一応強くはなったんだし。場合によってはまた状態異常解除するから、またヨウキ頼むぞ」
「問題ありませ~ん。テンション上げすぎんといてくださいね」
「わ、分かってるよ」
はしゃぎすぎた自覚があるからか、恥ずかしそうに返事すると再度顔を引き締める。
「最終のダンジョンボスだ。何が出て来るかは一応分からないけれどやるだけやるぞ!覚悟はいいか!?」
「「はい!」」「ガル!」
「よし、行くぞ!」
そしてボスエリアに全員が入ったところで、広場の真ん中が光り出す。通常のボスであれば最初から見えているが、特殊ボスとして出現をお願いしていた時は入場してからボスが出現する。
つまり最初から分かっていたことではあるが、これは特殊ボスが現れることを指す。更に今までよりも違う演出が加わる。光が強く大きくなっていく。
(やっぱり白獅子様が出現するのか!?)
クーロイの言うことを全て信じていなくても、危険に備えて全員が身構える。初撃に放つ攻撃の準備は既に完了し、いつでも放つことが出来る。
今から戦闘だというのに目を瞑るのは悪手ではあるが、目を開けていられないほどに強い光が広がり、徐々に収まってきたことで薄目で確認していたところを現れたものを確認する。
四足歩行の影が見え、やがて白い毛も見えてくる。これはやはり様か、と再度緊張感を持って身構える。
「なんだ、いつもよりも緊張しているな」
「やっぱり白獅子様だよ。責任取れよ、ヨウキ」
「冗談やったのに…」
「これがフラグですか。でも仕方ありませんね。もう出ることも出来ないようですし」
ケイトの言うように後ろの景色は見えているが、空間把握を使うとさっきまであった広がりが感じられない。空間を閉じられてしまったのだ。これで戦うしかなくなる。
神獣と戦うっておかしくないか?ユニコーンを傷つけただけでほぼ処刑、しばらく拷問って目に遭うのに?
「さて、準備も出来ているようだからな。早速ダンジョンボスとして戦わせるとしようか」
「ん…?戦わせるって、だれに…?ごしゅじん…?」
「あ~、よかった。白獅子様じゃないのか。じゃあ何と戦えばいいんだ?」
クーロイと白獅子様の間で交わされる会話について行けないが、白獅子様と戦うことは無いと何となく理解できたことに安心する。
白獅子様が自身の後ろを見るように、目くばせをするが白獅子様が邪魔で見えない。動いても良さそうなので、固まって移動して後ろを見てみると、金色の魔物が9体いた。
鶏、豚、牛、羊、亀、兎、蛇、背丈の低い植物、どっしりとした大木だ。
動物たちは通常よりも小型で、とてもではないが危害を加えるだけの力を持ってはいなさそうだ。感じる魔力自体は非常に強いが、強いわけではないという矛盾を抱えている。
植物に関しては根が足のように動くことが出来るようで、地面に埋まっているわけではない。
「リクエスト通りにうまくいったみたいだね」
「本当に厳しい罰を思いついたものだ。この世界で一番葬るべきはお前なのかもしれないな」
「なぜですか!白獅子様!」
「娘よ。そう敵視するな。敵対するつもりは無い。そのまま害を為すことなく生きてくれれば良い」
「さすがに破天荒でしたかね」
「協力したことに悔いは無いが、くれぐれも頼む。お主が世界の側に立つ限り味方にはなる。しかし、しばらくは様子を見させてもらう。ではな」
それだけを言い残すと白獅子は登場時に比べると少しだけの光を放つと消えてしまっていた。まだ話を飲み込み切れていないメンバーに対してクーロイが説明するよと口火を切った。
「まず、白獅子様を見ての通りケンカになっちゃったんだ。重荷が過ぎるってことでね」
「重荷とは?」
「というかその前にご主人、そいつら倒さなくて良いんですか?」
「倒すのは後で大丈夫だよ。そいつらは設計通りなら攻撃能力は無い魔物だから」
それがダンジョンボスとして成立するのかと首をかしげるが、クーロイが放った一言で固まる。
「その金色の魔物9体は『浄化の鉄槌』だよ。誰がどれか分からないけど」
「はあ!?」
「ここで殺したのはダンジョンに魂を捕らえさせることなんだ。魔力が高いのは、他の魔物や冒険者に感知させやすくするためとドロップアイテムを破格報酬にしているから。金なのも自然環境たっぷりのこのダンジョンでは異物すぎて目立つから」
「そ、そんなことが」
魂でこの世界に来た俺が神様にいじられて転生してきたのだから、この世界に生きるものをいじることも出来ると思ったんだ。予想通りだった。凶悪な思い付きだとは思ったけど。
「俺が転生前に魂だけで存在してたからね。白獅子様に相談して神々経由で叶えてもらったんだ。仕事量がすごいことになるみたいだけどそれは白獅子様も納得してくれたんだけど。魂の存在を知っていた上に神様を利用する俺に白獅子様が少し警戒してしまってさ。しばらくは様子を見させてもらうってなってしまったんだ」
「ご主人に大人しくしてもらいたいのは同意見ですけど…」
「『浄化の鉄槌』は魔物になってしまうのが罰なのですか?」
「そうさ。ドロップが良いから冒険者に狙われる。肉の味が良いから魔物にも狙われる。偶に魂と魔物姿は入れ替わることがあるから、誰がどの動物か分からない。ちなみに言葉も通じないようになってるよ。文字を書くしかないけど難しいよね」
抜け出すための条件は一応設定してある。ユニコーンが元気だったら処理出来ていたはずの瘴気を完済することだ。以前の説明にあったように、自分たちが魔物として殺されて新しく生まれ変わることで瘴気を魔力へと変化させていくことになる。
穴埋めに神々が本来対処出来ていたはずの事案や、失われた時間など諸々の無形の支払いが残っているので一人当たり何百回生まれ変われば良いのか神々も計算をしていない。クーロイのリクエスト通りというか仕様ではあるが、記憶感覚は全て残る。そのままだと発狂しかねないので、それを防ぐために存在を金色の上位種にした。成長すると強くなってしまうので、ステータス異常の最弱化を付けて初期値を守るようになっている。ガッチガチに解けない呪いとなっている。
「そう。幸丸本体に捕らえた奴が参考になるでしょ。頭が狂っている奴ってのは死んでも治らないからさ。俺たちだけに利益があるのも申し訳ないし、ダンジョンに役に立つように考えたんだよ。何度も終わらない生をやり直してもらうってのが罰だよ」
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