15魔力操作
魔力操作でどんなことが出来るのか、見せてもらうために森に移動した。
クーロイの横にクロエミ、後ろにプルを抱えた牙丸がいる。
森に3人と1匹が揃ってやってくるのは珍しい。初めてのことではないだろうか。
周りに誰もいないところまでやってくると、いよいよ開始だ。
「魔力操作でできているのはどんなことかしら」
「体内で溜めることと体の表面で留めることかな。球状にして放つってこともできる」
やってみるように促され、手の平に拳と同じ大きさの魔力を作り出す。10メートルほど離れた木に向かって放つ。
幹に当たるとパン!と音がしてはじけた。木が揺れたおかげで葉がはらはらと舞い落ちた。威力としてはそこまで力を込めていないが、評価を求めてクロエミの方を見て固まってしまった。
クロエミが同じように魔力を球状にして発生させていた。クーロイが作った球に比べて大きさは半分もない。卓球のピンポン玉くらいの大きさだなとクーロイは思ったが、固まった理由はその魔力の密度ではなくその数だ。数十個ほどだろうか、正直数が多すぎて分からない。
「これくらい出来るようになりなさい」
クロエミが手を打ち合わせると魔球の半分が舞い落ちる葉を一枚残らず撃ち落とす。一発で複数枚を落としているようで、軌道は複雑に動いていた。
呆然と見ていると、残って浮いていた魔球のいくつかはクーロイの周りとくるくると回っていた。
複数個が合体した大きさのものもあれば、より小さくなり数が大きくなったものもある。球状ではなく、刃、矢、棒、槍、円形、四角形のものがある。
「四角形のものはすごく固くしているわよ。触ってみなさい」
言われて通り叩いてみると、コンコンと音がした。下手に叩くと手の方を痛めてしまいそうだ。
「魔力操作そのものは上手とは思うけれど、流す量が多くなっているだけで使い道があまり考えられていないわね。極端なことを言えば属性があった方が旅はしやすいけど、魔力そのままでも狩りは出来るわ。魔力で作った壁を用意してあげるからそれに向かって練習するのも良いわね。もしくは形状を変えるだけでも攻撃に使えるわ。そういった工夫もしてみなさい。」
「……うん。ありがとう」
魔力の使い道を身体強化以上に考えていなかったのはある。大っぴらに特訓する場所がなかったことも理由に挙げられるが、一気に操作の極致みたいなものを見せられると自分の努力の甘さを突き付けられたような気になる。
森で魔力弾を打ちすぎると荒らしてしまうのが懸念材料だった。壁に当てるか、ただ操作するだけでも経験になることが分かった。見せてもらって良かった。
しかし、クーロイが気になったのは
「なんでそういう変化を思い出せなかったんだろう」
「え?」
「いや、前世では魔力はなかったけど、物語では魔力を不思議な力として色々と想像されていたんだ。その中で今見せてもらったような使い方をしていたんだ。見るまで全く思い出せなかった。記憶が不完全なのは分かっていたけど、見れば思い出せるし自分でも工夫していけそうだ」
「じゃあ尚更のことを、世界を見て回る方がクーロイには良いのでしょうね」
「そう…なるのか」
不意打ちに自分の旅立ちを言われてしまい、言葉が詰まる。決めたことなので覚悟はこれからも固めていこうと考えた。
「じゃあ、何から始めていけばいいかな」
「1つ目は同時に操作できる数を増やすこと。これは単純な話だから意識して練習しておきなさい。数が多くて損することはないわ。
2つ目は性質を変えること、具体的には固くすることですね。性質を変化させることの延長していくと属性魔法があります。属性魔法はまだ使えなくても今のうちに練習しておいて損は無いでしょう。
3つ目は形状の変えること。先ほど色々な形を見せましたね。遠くに飛ばすなら自分が遠くに飛ぶイメージがあるものにするのが良いわ。私は石や矢を見て遠くに飛ぶイメージがあったから、クーロイもまずは身近なものから練習するのが良いと思うわ」
さすが幼馴染というべきか獣人の共通認識か、午前中の牙丸と同じようなことを言っている。クロエミは少し前に出ると右手を前に出した。
「最終的にはある程度修練をおさめることで意識しなくても性質や形状を固定することができます。例えば『水の矢』」
言葉通りの水の矢が出来、その場に5本ほど浮いている。クロエミが手を押し出すように動かすと20メートルほど進んで、互いにぶつかり合って消滅した。
「自らの言葉とイメージを繋ぎ固めておくといつでもその通りの効果が発現できます。とっさの防御に魔力壁が作れなければ守れませんし、反撃にも転じることも出来ません。無意識下の制御こそが魔力操作の極意だと私は思っています」
「自分で魔法は作っていけるんだね。夢が広がるよ!まだ子どものうちに経験談を聞けて良かった。どれくらい時間がかかるのか見当もつかないなぁ」
魔力を対価に様々な現象を引き起こす。それが魔法。靄が晴れたかのように色々と試してみたいことが浮かんできた。ただ、今のままではまだ実現できない。魔法だけではなく、武術にしても、スキルにしてもやってみたいことはまだまだある。
「クーロイの場合は一人で私たち二人分の経験を身に付けようとしてますからね。ここにいる間に全てを身に付ける必要はありませんよ。私の場合は一緒にいる人の無茶に付き合っていたら自然と身に付きましたけどね」
「それ詳しく!じいちゃんって昔はやんちゃだったの?」
「そこまでにしておけ」
慌てて牙丸が割って入る。孫に昔の自覚あるやんちゃを知られるのは恥ずかしいものらしい。クーロイを持ち上げ、物理的にクロエミからの距離を取った。
「魔力も体と同じで使えば感覚が研ぎ澄まされるそうだ。毎日の中で同じように使うようにしておけ」
「わかったよ。まだ全然敵わないと思うけどじいちゃんもこれから俺の相手をしてね。でないと……」
にやりと笑いながら祖父と視線を合わせる。弱みを握られた牙丸の返答はイエスしか残されていなかった。
「ちなみにいつから魔物狩りに行っても良いの?」
「もう行っても構わない。ただし、しばらくは付いていくぞ。見本と念のためだ」
「わかった。よろしくお願いします!」
お読みいただきありがとうございました。