148だからといって許すわけではない
「聖教国が自分の国にある村を滅ぼすってどういうことだ?」
「いろいろときな臭いこと噂されとるんですわ。才能持ちを無理矢理に召し上げるとか聞きますからそれとちゃいますか?」
「なるほど。何かでバレて、手元に置くためにそんなことをしたのか。ラゲズ、合ってる?」
「ち、違う!」
プル先生、お願いします。判定は。はい、ウソ~~!思わずビッ!と両手の人差し指でプルを指差してしまうクーロイ。
「嘘だって。ってことはその後の流れも全部聖教国のお膳立てだね。S級の強さを得た人たちが国にまで秘密にしているみたいだし、聖教国も知らなかったんだろうな」
「示唆するくらいはしてたんでしょうけどね」
「実際には神託スキルも誰も持ってないみたいだし、仕方ないよね」
「な、なぜそんなことが言える!聖教国の首都におられる大神官様たちはどなたも声を聞いた事があると仰られている!」
「口裏併せてるんじゃないの」
ラゲズが声を荒げて反論してくるので、クーロイはあっさりと返す。
「そもそも聞こえてるなら神獣を狩ろうとしてそのまま、なんてことは絶対ないんだよ。実際に今自分たちが置かれてる状況からおかしいと思わないかな。本気で神獣の遣いが怒ってるでしょ。俺が魔物を操れるとしてこんな嘘を吐くメリットって何?」
世界の仕組みを支える神と神獣、その支えに害そうとした『浄化の鉄槌』、もし神託が聞こえていたのなら?すぐに謝罪の祈りを捧げるに違いない。何か矛盾点がないかをラゲズは必死に探す。
「か、神がそのことについて神託を下ろされなかっただけじゃないのか!」
「じゃあ国ごと見放されてるんじゃない?国名変えた方が良いと思うよ。あと、師匠さんの装備って言ってたけど、グラントは武器だけって言ってたよ。誤魔化してるよね」
「…っ!」
痛いところを突いたら黙ってくれるらしい。あと何か言ってないことはあったかな。
「あとは、師匠さんを殺したのも指示されたこととか、最初から獣人を差別するつもりで招き入れたとかかな。見返りはラゲズはおいしい思いをさせてもらえるのかな」
このころになると、プルを見なくとも、全員が分かっていた。『浄化の鉄槌』というクランは聖教国の都合の良いように作られたもので、グラントを始めメンバー全員がその掌で踊らされた哀れな男だということだ。
もう確認することはないか確認をしたクーロイは殊更明るい声を心掛けて話しかける。
「ありがとう。聖教国について詳しく知ることが出来たよ。これでフォースート王国のお偉いさんたちに伝えておくから国交断絶でもしてもらうよ。で、そのことと、君たちの罪は別だよね」
ほぼ全員が、ラゲズを睨んでいた。この事実を引きずり出した少年に敬意を払って見ていた者もいるくらいだった。
だが、クーロイからすれば正気を疑う。さっき全力で自分を殺そうとしてきたじゃないかと。全てが元々の国が指示してきたからということで許すわけがない。いつの間にか自分たちに都合の良い記憶改竄でもしているのかと疑ってしまう。
「仮に俺が許すとしてもさ。ユニコーンを傷つけた罪と神様を怒らせた罪は払ってもらわないといけないんだよね。そこまで庇う義理も無いし」
ラゲズへの侮蔑の表情を浮かべていた者たちが、唖然とした表情になっている。
「そもそもさ。あんたたちもテイマーが連れていた魔物を問答無用で殺したんだよな?俺に対するやり方から考えたらそれを止めようとした、その主たちも殺したことあるな?俺は一緒にいるこいつらのことを自分の家族だと思ってるよ」
罰を受けている最中も存分に苦しむようにすべての思いを込めて言葉を発する。
「お前ら全員、魔物に家族・友人・仲間を殺されたんだよな。同じことしてたな。その罪は聖教国の罪か?お前ら自身の罪だよな」
指示されたことに何も考えずに動いたとして、それは罪にならないのか?ならない方がおかしい。自分の行動の責任は取ってもらわないと。
「人族の形をしてるから余計に最悪だよ。殺された魔物やその主たちも無念だったろうな。ただな、お前らを殺したところで何の役にも立たないし、魔物にも劣るんだよ。だから―――」
せめて、思い出してもらうなら良い笑顔も残るように笑顔で伝える。
「俺が考えた罰なんだ。冒険者がダンジョンでがんばろうって思えるからぜひ期待しててよ」
全員の意識をその言葉をきっかけに刈り取った。
☆ ★ ☆ ★ ☆
移動して場所はジュコトホダンジョンの1階層だ。昨日から冒険者を立ち入り禁止になっている。少し前から長期間で潜っていた者が間違って1階層に入らないように、2階層への通路でも門番が立っている。
「時間がかかりましたね、クーロイ様」
「そうなんだよ。詳しくは後で話すからまた今度にしてくれない?」
「ええ。私だけが話を聞くつもりではありませんから。全員で話を聞かせていただきますので」
「はい…」
ケイトからも責められた後、幸丸で代わりに癒されそうとするが、あっさりと拒否されてしまう。寂しい思いをしているクーロイだが、プルの言葉で再稼働する。
「ここで今から行うことは『浄化の鉄槌』の罪状を確認し、神への反逆者として罰を下すものです」
国の代表としてジスメダイヤ公爵様ご本人が来られている。宰相自らがなぜ短時間でここまで来れているのかと聞きたいことはるがいるから仕方ない。しかもすごく良い表情でこちらに視線を送っている。あまり絡みたくないクーロイとしては気づいていないふりをした。
あとはジュコトホから領主様、冒険者ギルド代表としてギルドマスター、その他色々と他の町や国へも顔が効くと宰相様が自ら面談して許可した者たちが場に居合わせている。
ここでは特にクーロイたちがすることは無い。通常でいえば国の広場で行う処刑をダンジョンで行っているだけに過ぎない。
罪状の確認をしていくが、先程聞き出した事実も報告しているので本当にすることが無い。
罪状が積み上げられていき、内容をそれぞれのメンバーが認めていく。ラゲズは聖教国の指示を受けてクランを操作していたことを認め、他にも同じように他国へと影響があることも行っていると発言した。
自白させるスキル持ちでもいるのだろう、口だけが勝手に動いているようだった。驚愕の表情と言葉が噛み合っていないのが面白い。さっきの苦労はなんだったのかと思わなくはないが、使いどころを考えるとこれから生きる道が本当に拷問官になりそうだったのでやめておこうと考えた。
そして、吐く情報が無くなったことで、速やかに刑が執行されていく。
全員が終わったところで、これで表向きにはやることは終了である。解散していく皆さんに捕まらないうちに急いで入口へと戻り、15階層へと転送する。
「宰相様には話ついてるんだよな?」
「そこは済ませてあります。昨日のうちにお伝えしてあります」
「わかった。ありがとう。じゃあ行こうか」
「了解です。終了してからマスターの言い訳をお伺い致します」
「うぅ…」
そう言って、全員がコレクションハウスに入ったことを確認する。正式に話をするまでは腹を貫かれた件について、忘れていないぞというアピールを散々とされてしまうことになっている。
溜息を吐きたくなるが自業自得だから禁止を言い渡されているためそれすらも出来ない。代わりに走る前の呼吸を整えるために肺に空気を目一杯吸い込み、一気に吐き出す。
気を取り直して、また走り出した。今回の目標は20階層だ。目的は2つ。ダンジョンを正式にクリアしてしまうことと『浄化の鉄槌』への罰だ。
前にもクーロイが言った言葉だが、一度死んだだけで許されるなどと思うんじゃない。この言葉が再度実現されることになる。
長かった。思った以上に説明が長くなり過ぎました。もう少しで章が終わりそうです。
お読みいただきありがとうございました。