146悪事をはたらくやつにも理由はある。なお納得するかは別問題
(え?どうしよう。これは聞かないといけないやつかな)
グラントがなぜか話し出している。クーロイとしては聞くつもりで口走ったわけではない。ただの疑問を口にしただけだ。わざわざ聞くだけの義理があるわけでもないし。
どうしようかと思案していると、ちょいちょいと肩を突かれた。この状況でそんなことをしてくるのはヨウキしかいない。返事をしつつ、ヨウキを見ると魔力を放出していることに気づいた。
「いや、一応聞いたってもエエんちゃいます?黒魔法の中に思考にぶくするのがあるんで使いました。言うこと聞きますよ」
「あ、そうなの。なんか便利なものがあったんだね」
「戦闘ばっかり鍛えさせる人がいたんで、覚える暇なかったんですわ。黒魔法ってなんか悪いイメージのある魔法は大概使えるみたいなんで、めっちゃ汎用性ありますよ。ホンマならもっと早くに使えたはずですけど」
「あ、じゃあ話してくれるなら聞くわ」
ヨウキの話が長くなりそうだったので、切り上げさせてもらった。クーロイが話を聞く姿勢になる前にグラントの話が既に進んでいた。
「……だから俺は『浄化の鉄槌』を立ち上げたんだ」
「今までの話が既に終わってんだけど」」
「じゃあ、もう一回最初から。リスタートで、ポチッとな」
「その言葉合ってる!?」
「まず俺が故郷の村を魔物に滅ぼされたことから始まる」
話が始まってしまったので、ツッコミ無しで聞く。間違っても、一言一句そのままで言い直すんじゃない!とは言わない。
☆ ★ ☆ ★ ☆
【グラントの話】
俺は買い出しで村を出ていたので助かった。戻ったときには誰の体も残っていなかった。柵や家に残っていた爪痕から魔熊だと判断された。そんな魔物が自然発生するはずがなかった。
だが、原因は明らかだ。俺は復讐のために冒険者になった。冒険者になってみると同じ経験をしているようなやつは少なかったがたまにいた。俺がまだ若造だった時だ。国がちょうど不安定だったときで、そんな被害にあう村はいくつかあった。
そんなことを何とかしたいと思った。メンバーが賛同してくれた。だから俺は『浄化の鉄槌』を立ち上げたんだ。
しばらくは順調だった。まだ国も戦力が不足しているからと正規の部隊ではないが、パーティの援助を受けることになった。国のお墨付きが付けば動きも大きくなる。同じ理念を持つ同士を加えながら少しずつ活動範囲が広がっていた。
そんなとき、師匠と再会した。俺が冒険者として旅立ったあとに、戦闘技術や冒険者としての知識の基礎を叩き込んでくれた人物だった。
師匠も俺のパーティに入ってくれた。しかし、年齢が年齢だったために後進育成の役割を担ってもらうことになった。1~2年はその体制で動くことが出来た頃だった。
あの忌々しい事件が起きた。
獣人を含んだパーティが師匠に引き連れられて鍛え上げに行った時に、師匠がダンジョンの中で殺された。亡骸も何も残らなかった。辛うじて身に付けていた武器だけは形見だと言って渡してくれたそうだ。それはまだ手元に残してある。
そのときの生き残りが、同行しているメンバーのうち、ラゲズとミゲン(槍術使い)だ。二人の証言に俺は頭を殴られたかのようだった。
獣人が予定を無視して、先の階層に進むことを主張した。しかし、師匠が反対したが獣人が単独強行した。ボスエリア前で捕まえることが出来たが、いきなり階層に不似合いな魔物が出現した。
まず獣人が犠牲になり、師匠が何とか相打ちになることで二人の命は助かった。
獣人が無理なことを主張しなければ、ダンジョンでイレギュラーなことが起こらなければ、もっと言うならば、やはり魔物が原因なのだ。おれはその考えを強く持った。
それからは全ての魔物を積極的に狩っていく方針をパーティ全体の方針とした。どこにいようと魔物は全て殺してまわった。しばらくすればクランとして成立するほど加入者が多くなっていた。そして念願のダンジョン制覇を達成した。
ダンジョン制覇をしたパーティは残らずそれまでとは一線を画す強さを手に入れている。挑むときには皆A級だった者たちが、A級を超えた強さであるS級の強さを手に入れていた。
やっと俺たちもその力を手に入れることが出来ると思っていた。S級へ上がった者たちはより魔物が強いとされる場所へと向かって行った。俺もそれに続きたかった。
しかし、ダンジョンボスを倒した後に光の中から出てきたのは角の生えた馬だった。ユニコーンと呼ばれる魔物だ。目の前が赤くなった。真っ先に反応したのはタイジョンだった。当時からスピードを活かした戦闘をしていただけに咄嗟の動きが速かった。
今でも悔やまれるがすぐにユニコーンは逃げてしまった。そして、S級の強さを手に入れることは出来なかった。恐らく倒せなかったからだ。悔しさを感じながら再度ダンジョンに挑んだ時におかしなことが起こった。最下層付近の魔物が俺たちの前に現れるようになった。
出現数は明らかにおかしく、俺たちを標的にしていた。やむなく逃げ出した。何度挑んでも同じだった。別のダンジョンに行っても同じだった。俺たちが入るとダンジョンがおかしくなるから冒険者ギルドからダンジョンに入らないように要請された。
地上ではクラン運営するにあたって金が足りない。やむなく闇依頼にも手を出した。何もかもうまくいかない現状に、テイマーの連れている魔物を殺すことに何も感じなくなった。
一体なぜこんなことになったのか分からなかったが、単独行動をしているときにおかしなガキを見つけた。長年の勘だ。こいつは魔物を連れているような気がする。何かそんな魔力を感じる。名前を確認したがとぼけられた。
パーティに合流して調べると確信した。やつはスライムを連れているところを王都で見せていた。スライムとはいえ油断はしない。ただ、これをこの国最後の活動にしよう。
もうすぐ故郷のある国へ戻ることになっている。一度墓参りをしてもいいかもしれない。俺が頼めば司教を派遣してもらうことも出来るだろう。なんせ俺の故郷は聖教国なのだから。
☆ ★ ☆ ★ ☆
話が終わったようだった。クーロイもヨウキもグラントとは違い、同じ方向を見ている。同時に顔を見合わせて溜息を吐く。
「どう思う?」
「どう思うも何も。全部アウトでしょ。こいつどうします?」
「生まれも切っ掛けも不幸だとは思うけどね。罪を重ね過ぎだよ。それに神様達の判断がアウトだからね。俺はそれに従うよ」
「ま、そうですね。ワイもその判断で良いと思います。下手に動けたら殺されそうやったわけやし」
「そういうこと、じゃあ、もう一つ話を聞かないといけないみたいだから、こっちに持ってきてよ」
「了解しゃ~した~」
「なんで下っ端風の返事…?」
いきなり小ボケを入れてきて放置してくるヨウキにまだうまく対処できない。ずっと付き合っていくうちに慣れるものなのだろうか。何よりも継続してそれを行うメンタルが強すぎる。何でも継続していれば大事を成せることもある。無理矢理納得して、自分のやるべきことを済ませておく。
どれか分からなかったヨウキはちゃんと本人確認をして連れてきた。では、目の前の2人に話を聞くことにしよう。
「先に言っておくけど、嘘はお勧めしない。嘘を見破ることができる」
それ自体はプルが出来ることだけど、わざわざ説明してやることではない。
「沈黙もお勧めしない。さっきのグラントを見ていただろう?勝手に話が出来るようにさせることも出来る。あと、俺は死なせないことが出来るから無理矢理にでも口を割らせることも出来る。どれが一番良いか、選んでほしい」
目の前に倒れている男は先程話にあがった『浄化の鉄槌』参謀(笑)のラゲズと槍術使いのミゲンだ。笑えるくらいにめちゃくちゃ怯えている。
「ダンジョンで階層に不似合いの魔物が現れたって話、あれ嘘だろ。何を隠してる?」
お読みいただきありがとうございました。