139再度鍛錬開始
感想にてご指摘いただいた点や内容としておかしなところを修正しました。大きな流れに変更はありませんので、ご報告のみさせて頂きます。(2022/7/10 13:25)
翌日は再度ダンジョン準備を行った。昨日の話をしたところでケイトに変化は特にない。俺だけが意識しているのだろうか。
前世の人間関係の記憶は特に早い段階から消えてしまっているので、俺がどんな経験をしているのかが分からない。そうなるとこの状況をどう処理して良いのかも分からない。
「ご主人。一応大人まで生きたワイがアドバイスを致しましょう。流れに身を任せた方が良いですよ。ご主人はこういうのは得意なタイプではないですから」
「なんでヨウキに分かるんだよ」
「腕力魔力は強くても人と関わっていく系は苦手でしょうが。得意ならもう少し友達作らな。村でもあんまり積極的やなかったって兄貴が言うてましたよ」
「ぐっ、痛いところを…!」
なんか踏み込んで仲良くしに行こうと出来なかったんだよな。プルと一緒にいる方が気が楽だったし。あっ、これがダメなのか?
「人族のおらん獣人族の村で育ったとか、じいさんとばあさんに育てられたからとかはあると思いますけど。前世の記憶あるくせに友達少ないとか絶対前世もそうやったはずや!」
「ぐふっ!」
「HP残らなさそうやからこのへんでやめますけど。ワイらとも仲ようしてくれるし、ケイトがええって言うてるんやから少し考えたって下さいよ。まんざらでも無いくせに」
好意を寄せてくれる相手を邪険に扱いきれなかったのは確かだ。貴族としての婚約者紹介のときに俺が相手してしまったのなら責任を果たさなくてはいけないだろう。
どうするかはケイトがもう少し大人になってから判断をさせ直しても良いだろう。苦手なればこそ、問題の先送りだ。
「うん。じゃあそういうことで」
「あかん、たぶん何にも考えてへんわ」
うるせー。
特に準備も多くはないので、すぐに終了。あとは休養だ。ただ、計画だけはしっかりと立てておく。残り時間は半月も無いのだ。それまでに出来ることを考えておかなくてはいけない。
移動にかかる時間がどれくらいで、『浄化の鉄槌』の移動ペースからいつ到着するのかを逆算して、19階層にいられる時間がどのくらいの時間が可能か。
安全を更に気にするなら特に鍛えておきたいスキルがどれか。相手の手の内は教えてもらえたけど、どうも攻撃一辺倒なんだよな。ある一定の基準を超えれば大丈夫なんだが、超えているかは限界まで絞り尽くさせないと分からない。
結局は限界まで鍛えておくしかない、という結論に落ち着く。
これが脳筋の考え方か。まあ、細かいこと考えるのは苦手だしな。奥の手のプルさんもいらっしゃるし。俺はトコトン気の済むようにやらせてもらおう。
そして翌日、兵士さん達がジュコトホを出発する。
『浄化の鉄槌』の予想進路が分かっていたので、かち合わないように幸丸の勧める行路を伝えてある。一つだけ隊を残して、『浄化の鉄槌』が通ってきた進路を逆走するように進み、何かやらかしていた時の救助を行うそうだ。既に通り過ぎたところは別の隊でカバーしていくらしい。まあ今の強さなら余程のことが無い限りは切り抜けることが出来るだろう。
十分に気を付けるようには伝えた。年上であり、かつ大人数の男性を心配するのもおかしい話だが、安全を祈って見送った。
見送ったあとは再度ダンジョンへと向かう。
「優先は全体の戦闘能力の向上だ。ケイト、文句は言うなよ」
「分かりました」
「じゃあ、プル以外はコレクションハウスな」
入ったことを確認すると高速移動の準備を整える。闘魔纏身に疾風の重ね掛け、まだ使えるものはあるかな。移動しながら試すことにしよう。
「丸一日はかかるだろうけどな。今晩は19階層のボスのところで寝るぞ」
目標に向けてスタートを切った。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「何を見栄を張ってるんですか」
「ほんまや。無理したら意味無いでしょうが」
「いい…だろ…、べつに…。ほら、ボス…たおすぞ…」
「マスター、息を整えてからにしましょう」
特に大きな問題も起きずに目標通り19階層のボスエリアに到着した。これで帰りも1日で済むことが証明された。ここで鍛えることでもっと余裕を持って帰れるようになる。まだまだやるべきことはあるけれど、確認できたことを素直に喜ぼう。
まずすべきことの整理だ。以前とボスの出現時間に変化がないなら寝る前に倒しておいた方が良い。それは皆も分かってくれている。これで明日の朝一でもう一回戦うことが出来る。たった1回、されど1回だ。就寝前にがんばっておいて損はない。
ただ、ここに来るまでに移動と戦闘を独り占めしたから疲労もなかなかに溜まっている。体力魔力に余裕はあっても精神的に疲れた。
明確に生きる目的が果たせるんだ。気持ちはあるんだ。休憩だけはさせてほしい。休めばすぐに動けるから。
「じゅ、じゅっぷん、まって」
「いっつもこんなんや」
「10分で無理だったら私たちだけで戦闘してしまいますよ。コウガちゃんもようやく外に出られたんですから」
「ガゥォオオオ!」
叫びながら体を伸ばしている。コレクションハウスも充分動いていたはずなんだけどな。やっぱり何か違うんだろうか。お前の努力次第だからな。変化か人化を出来るようにがんばれ。
体中に酸素や魔力を巡らせるイメージで深呼吸をする。目を閉じていると眠くもなってくるが、寝たら起きれなくなりそうだ。ギリギリのラインを保って回復を試みる。
「よし、いけるぞ!」
「ちっ、たった5分で。無理ばっかりしよって…」
「どうやって舌打ちしたんだ、ヨウキ」
「細かいこと気にせんと。大丈夫なんですね?」
「任しとけ。一戦くらいは余裕だ!」
中に入る前にボスエリアに出現している魔物を確認する。巨大ミノタウロスは相変わらず同じだが、肌の色が赤くなっていた。更に他の取り巻きも変化していた。
「待機中に確認しました。お伝えしてもよろしいですか?」
「頼む。幸丸は見たことのある魔物ばかりか?」
「はい。恐らく間違いないと思います。まずは前よりも一回り大きいですがアイアンゴーレムが1体です。攻撃力は増していると思いますので気を付けてください」
その後も一体ずつ丁寧に説明してくれた。
銀色に輝いているのはゴーレムはシルバーゴーレム。ミスリルだと魔力反応があるが、あれにはその反応がない。シルバーで確定。素材行きだ。魔力をうまく注げば人工ミスリルにすることも出来るが、本体まで持って行かないと出来ないそうだ。
金色のゴーレムはゴールドゴーレム。金策に使えるし、細工として飾るのにも綺麗だ。素材として良いものが作れるだろう。
続いて三つ首のトライヘッドワイバーン。火と雷と氷のようだ。首を支えるために余計に体が大きくなっている。素材が取れれば首に対応した属性を秘めているので、防具に使えば耐性が強化される。
最後に出てくるのはこちらも三つ首だが狼だ。地獄の番犬ケルベロス。ここで出てくるレベルなの?っていうか複数出現する可能性のある魔物なの?
幸丸の説明が終わって作戦タイムだ。
「担当決める?」
「いや~白獅子様たちには悪い思いますけど…」
「全力で終わらせてしまいましょう。クーロイ様もたまには本気の魔法を使ってみては?」
「そうしようか。じゃあ、コウガは全力でブレスを放つ準備な。プルは打ち漏らしが出たとき用に備えててくれ」
開幕の一撃をお見舞いすべく、準備してボスエリアに踏み込んだ。
一時間後。野営の準備を完了させ、今から遅めの夕食を取ろうとした俺たちの前に白獅子様が現れた。
「やりすぎじゃ…」
ボスエリアの地面には大穴がいくつかできている。開幕の一撃で放ったものが魔物だけでなく、地面をもえぐり取っていた。
「修復の手間まで増やしおって、呆れた奴らだ」
「すいません」
謝るしかできない。以前のダンジョンで色々と底上げしていた力を本気で放ってみたら思っていた以上だった。
「今回の相手は知っている。我々も全力の援護を約束をしよう」
「ありがとうございます」
「うむ。じゃから、干し肉を眷属のぶんも頼むぞ」
「……幸丸。お願い」
「承知しました」
返事とほぼ同時に出してくるあたり、幸丸もただもんじゃないよな。
お読みいただきありがとうございました。