13所変われば常識も変わる
起きるといつも通りの自宅だった。
きちんと前世の記憶について説明することは決めた。いつかは打ち明ける方が良いと思っていたことだ。だが、言った後の二人にどう思われるかが心配だった。恐怖だと言えるくらいには怖い。精神的な年齢は高いはずだが、子どもの姿で子ども扱いをされたせいか幼い考え方をしてしまっているのだろうか。いきなり追い出されてしまう可能性もあるのに本当に言ってしまうのが良いのだろうか。
とはいえ、いつまでも布団の上に転がってもいられない。今日は6歳の誕生日である。自由に過ごしてよい日にされていた。朝食後に話そうとはしたが、タイミングを逃した。
朝を逃すとあとは夕食時しかない。プルと散歩しながら過ごすつもりが、じっと森を見ながら一日を過ごしてしまった。
晩ご飯も上の空に食べる孫に二人は何かを感じていたが、言及まではしなかった。
「じいちゃん、ばあちゃん、大事な話があるから聞いてほしいんだ」
晩ご飯後に最近は一人で魔力の扱いについて取り組むところを話をする時間にすることにした。
牙丸は明日の狩りの準備を、クロエミは食事の片づけや明日の仕込みを終えて休憩に入るところだった。
心当たりもなく、何が孫にあったのかと見合わせた後はクーロイが話し始めるまで待つことにしようと無言で通じ合っていた。
プルはクーロイに抱えられている。
今は牙丸が狩りで仕留めた魔物の魔石をプルに食べさせているが、これからは俺が狩って食べさせてあげたいなとクーロイは考える。
そのためにもまずは二人に今まで隠していたことを打ち明けよう。
気味悪がられたらどうしよう。怒鳴られるのか。追い出されるようなことになるだろうか。プルは一緒に来てくれるだろうか。
秘密を打ち上げるということは勇気が必要だ。逡巡している間も二人は待ち続け、クーロイが気づいたとき覚悟を決めた。
「実は俺…………前世の……記憶があるんだ」
言った瞬間にギュッと目を瞑ってしまった。これでは表情が見えない。前世からの年齢を考えれば、二人の子どもくらい長さは生きてきている。
しかし、種族も違うというのに育ててきてくれた。
何も言われないことを不思議に思い、目を開けた。牙丸は茶をすすり、クロエミは微笑みながらクーロイを見ていた。
「えっと……」(どういうこと?なんで落ち着いてるの?)
「うむ」(気まずい)
「そうですねぇ」(私が言った方が良いのかしら)
暴露話を聞いて落ち着いていられるのはどういうときかに思い当たる。かっと体が熱くなる。静寂を破るのは話題を切り出す自分だともう一度勇気を振り絞る。
「もしかして、知ってたの?」
「あなたがここに来た時からねぇ」
「知らなかったら、あんなに特訓はしないな」
「ちょっと外の空気吸ってくる」
家を出るとまだ太陽が沈む前の半分ほど出ている状態だった。しっかり沈み辺りが暗くなるまでずっとしゃがんで『の』の字を書いた。
「まず神託であなたを牙丸さんが引き取りに行くように言われたのよ」
「あの野郎…」
それなら知っていることを言ってくれても良かったのではないかと神に文句を言いたい。
「そもそも偶にいるのよ。前世の記憶がある人が」
「そうなの!?」
「そうよ。獣人は割と早く話すから、最初は気が付かなかったわ。プルが来たくらいの時に可能性があるなという話をしていたけど」
「確証は無かった。厳しくしたが音を上げないことで更にそうかもしれないと考えたくらいだな」
そのあとはもう一度常識についてすり合わせを行っていくことを確認した。常識とは成人までに身に付けた偏見である、前世で聞いた言葉だ。
これ自体も偏見かもしれないが、しばらくはなにが普通なのかをより知っていく努力をしていくことになった。
他に知っておくことが無いかを聞いた。
「記憶があるものはスキルを多く身に付けられると言われている」
これはクーロイどころか誰も知らない話だが、スキルは魂に定着する。前回の魂を更に鍛えることが出来るのでより身に付けることができる。
クーロイの場合は創造神が魂を補強したことで、普通よりも更に容量がある状態になった。才能のためとも言えるが、努力して身に付けることもより可能となったと言える。
「クーロイは属性魔法を使うのに苦労しそうね。魔力操作が上手になっているのに使えるようにならないのは変わっていると思うわ。前世が関係あるかは分からないけど」
これも魂にスキルが定着することで説明できる。前世に魔力が無い関係上、全く経験が無い。つまりこれから身に付けていく必要がある。
さて、属性に変換するには精霊に関係がある。通常生まれ変わっても精霊から学んだものはそのままだが、クーロイはそこがゼロ。
扱いたい魔法の精霊と契約や加護をもらう必要がある。ま、これからがんばれってことだね。創造神たる僕が説明したんだからがんばれよ。
「なんかすっごいイラっとした」
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
「あとは出来る限り才能に関しては隠しておけ。スキルは努力次第だが才能は神からの贈り物だ」
「私のように鑑定スキルが使えるならともかく、自分で言い出さない限りは周りに知られることは無いわ。人族は10歳までに教会で有無の確認をされるからそのときまでに考えておかないといけないけれど」
「才能持ちだとばれるとどうなるの?」
「貴族に抱えられるな」
「生活は安定するとは思うけれど」
「貴族ってものに良い印象ないから却下だね。いざとなったら逃げることにするよ」
「そうしましょう。…じゃあ最後に」
居住まいを正すクロエミにつられて、男二人も姿勢を正す。
「とはいえクーロイ。あなたがこれからも私たちの孫であることは変わらないわ。いつ旅に行くことになっても良いけどまだしばらくは一緒に暮らしましょうね」
「そういうことだ」
「……ありがとう」
感情の振れ幅は大きかった気もするが、しっかり話が出来て良かった。
お読みいただきありがとうございました。