111半年後~鍛錬について取材
たまには別の人視点で
半年前からジュコトホで効率的な鍛錬を行っている一団がいるということで、取材を申し込んだ。ダンジョン内で怪しい動きをしながら鍛錬を続けているらしい。領主も許可を出しているし、冒険者ギルドもダンジョン管理組合も特に問題視をしていない。
鍛練は固定されているメンバーもいれば、入れ替わりで行っているメンバーもいるそうだ。3か月程度でも相当に力を上げることが出来るらしく、ダンジョンの到達回数が大幅に伸びているそうだ。ただ、鍛錬を受けるには相当なコネが必要になるらしく、ジュコトホの関係者で鍛錬を受けている者はいない。
何か話を聞くことで、その秘密を暴くことが出来ないかと興味本位で、ほとんどダメ元で取材を申し込んでみたところ、拍子抜けなことにすぐに許可が出た。
半年前からずっと鍛錬を続けている2人から話を聞くことができた。以下はその記録だ。
~体験談その1~
それでは本日はよろしくお願い致します。
「よろしくお願いします」
鍛練はいかがですか?
「非常に充実しています。個人的にはメニューの調節をしていただけるので、体調管理もしやすいです。またなぜメニューが変更されたのかについて考察することで自分の得意不得意を抑えることが出来ます」
詳しくありがとうございます。既に言っていただいたことと重複するかもしれませんが、良い点はどのようなところでしょうか?
「遠慮なく厳しくしてもらえるところでしょうか」
遠慮なくが良いところなのですか?
「ええ。もちろん最低限の線引きはありますよ。相談すれば調節もしてもらえますし。それに、ただ最初からあれしろ、これしろ、と言われないのです。私の場合は敵を倒すことよりも自身と、可能ならば周囲を守ることを念頭に置いています。体が硬直する時間があってはなりません。咄嗟のときに体が動かない、では困るのです」
常に臨戦態勢でいるということでしょうか。
「その通りです。鍛錬が終われば反省会を行い、良い点と改善点を指摘してもらえます。私は少々理屈で考える方ですのでキッチリ理解をさせてもらえます。そうすることでより次に活かせます。純粋に理屈を超えた部分も必要だとも言われます。現在の課題は常に周囲に気を配ることです。普段と違うところはないか、変な魔力の澱みや雰囲気のおかしなところがないか警戒しています。気配が感じられなくても襲撃がある場合もあります。現在は専らその対処を学んでおります」
具体的にはどんな取り組みを行っているのでしょうか。
「探知系のスキルを習得し、常に使用できるだけの集中力・精神力を身に付けます」
なるほど、探知が出来れば先手を打つことが出来る。常にというのはMPが相当量ないといけないのでは?
「そうですね。ですからMPを上げていくための鍛錬も常に行っています。毎日枯渇ギリギリまで消費しています」
すごいですね。
「しかし、探知するだけでは不十分です。防御のための手段も鍛えています。私は水魔法の素養がありますが、防御には適していませんでした。そこで氷魔法を会得することにしました」
そう簡単には身に付かないと言われる上位属性ですね。
「はい。2か月で習得したことで物理・魔法の両面での防御が増しました」
2か月!?過去最高のスピードではないでしょうか?
「いえ、先生は同じ2か月で何種類もの属性魔法を覚えていました。何でも現象に理解があれば最初の手がかりは掴めているそうですよ。学習としても鍛えられました」
それは凄い先生ですね。
「理解さえできれば後は慣れだと言われました。実際に先生の魔法を拝見したり、周囲の者と話し合ってみたり。成長した実感があります」
なるほど。簡単にはもう脅かされる必要は無さそうですね。
「いいえ。私の家柄から考慮しますと、私を害してくる者は相当の手練れが派遣されることでしょう。生き延びるためにはA級冒険者並みの実力は必要です」
A級とは…いささか過剰なようにも感じますが…。
「ふふっ。そうですね。守られるばかりではついて行くことなど出来ませんから」
目標となる方がおられるんですね。
「はい。最近はいつ襲撃してくるか分からず、毎日怯えるばかりです」
ちょっと何を言っているのか分からないのですが。
「先程言っていた襲撃から身を守る特訓のことですね。…!伏せてください!」
はぁっ!!?
「氷壁!!」
なになになに!?
「私が原因ですから、これでお暇致します。また宜しければご連絡くださいね。先生!いきなりは、危険です!」
「いきなりでなければ意味が無いじゃないか!」
どっか行っちゃったけど…。それにあれが先生?少年くらいの身長だったように見えたけど。あ!この壊れた壁どうすんの?私が弁償するのか!?
「ご迷惑をおかけいたしました」
誰!?
「しがない老人でございます。こちらの修復と賠償をしに参りました。ご迷惑をおかけした分の慰謝料も含んでおります。
取材なんでお気になさらず…。あ、行っちゃった…。……壁直ってる!!?
~体験談その2~
そ、それでは本日はよろしくお願い致します。
「よろしく頼んます」
本格的に始める前に、黒いローブに仮面って暑くないんですか?
「え~。これは外さん方がええんで。気にせんとってください」
そうですか。(また何か起こるんじゃないだろうか)では質問です。鍛練はいかがですか?
「地獄です」
じごく…ですか。
「ええ。今日この場があるから久々に休みになりましたけど!まじでこの半年休みなし!ひたすら魔物狩るか、生産するか、MP使いきってぶっ倒れるか。ええ加減にしてほしい!」
この前にお話を聞いた方は考慮されていると言われていましたが。
「そんなんお嬢だけ!ワイは悪い意味で特別扱いですわ。いくら不眠不休で動けるいうても限度あると思うねんけど」
不眠不休ですか?
「あ~、気にせんとって。ギリギリまで何かさせられるんやと思って」
はぁ…、分かりました。では改めまして、良い点はどのようなところでしょうか?
「あるかな~。本気で殺されるんちゃうかって思うことあるくらいやし。まあ強くならんとあかんなと思ってたからそれは効率よくやってくれたかなぁ」
ころ…?いえ、強くなりたいという思いから続けられているということでしょうか。
「せやねぇ。やっぱり出来ることが多いに越したことは無いからね。自分だけお荷物になってるって思ったから、やらなあかんかったねぇ」
どんなことが出来るようになったんですか?
「ん~?詳しくは言われへんけど、いろんな現象を黒染めで利用することが出来るようになったで。ユニーク魔法ちゃうかな」
ユニーク魔法!他に習得している者がいないであろう唯一のスキル保持者ですか!すごい!すごいことですよ!!うわ~、初めてお会いしました。自慢出来ます。
「そう?ホンマに~?いや~あんた、のせるん上手やわ~。まあ、鍛錬で身に付いたというよりも、種族的に使えるようになったんちゃうかって言われたけどな」
そうなんですか!聞いたことの無いユニーク魔法ですが、差し支えなければ何の種族なのでしょうか。
「それはな、リッ……」
リ?
「………リ、リッチマンや。ワイ金持ちやねん」
リッチマンという種族があるのですか?聞いた事のない種族ですね。
「……そ、そうやろ?あ、兄貴、ちょっと待って」
お兄さんが呼んでおられるのですか?白マントとか身に付けておられたりしますか?あれ?後ろには誰もいないようですが…?
「あんたには見えへんような角度にいてはるから気にせんで良いよ。呼ばれたからこれでおしまいでええか?」
かくど?あ~、はい。あ!記念に握手してもらっても良いですか!
「かまへんで」
やった!ありがとうございます!……なんか固いんですね。思ったよりも軽いですし。
「まあ、…ネやし。そ、そんじゃあワイはこれで!またな!」
こちらこそありがとうございました!行っちゃった…。せわしない人だったな。リッチマンか。調べてみよう。
その後、調べてみたがリッチマンという種族は無かった。黒染めということから考えて探ってみると恐ろしいことがわかった。高位のリッチキングに、暗黒属性を操る黒魔法というスキルを発現する個体がいるらしい。炎、水、氷、雷などの様々な属性を黒に染めて操るそうだ。
まさか…、私が握ったのは…ほ、ほ、ほ……。
取材が原稿にまとめられることはなく、楽しみにしていた取材された1名は頬を膨らませた。
もう一人の対象者はしばらく姿を見せることは無かったという。
完全に思い付きです。悪ノリしてすいませんでした。
お読みいただきありがとうございました。