104鍛練の日々を迎える前に
話をまとめるために文字数が少し多くなりました。
その後の数日は今までのサイクルで過ごした。やはりAランク魔物を倒したのがステータス上昇のカギを握っていたようだ。上昇の幅が狭い。
地上でそんなレベルの魔物は滅多に出会えない。人里近くで出ようものなら全力で討伐される。そういう意味で森林虎が驚かれるのは当然のことだった。
とりあえず数日の間に処分が下りた。オスバも含めた一行の罪状は、エスロンさんとサイラさんへの攻撃と誘拐。魔法具屋のおじさんへの攻撃と店内の窃盗。ジュコトホ都市内での混乱については、ギルド職員は巻き込まれたものの未遂と判断された。
魅了の魔導具である針は、落とし物で手に入れたそうだ。死んだ魔法使いが分析し、エスロンさんとサイラさんに使用し、魔法道具屋で窃盗ついでに使用した。
そして、俺が色々と連れているのを見てAランク魔物に使用することを思いついたそうだ。だから俺もがんばる必要があると思ったのは間違いではなかったようだ。
針は猿が全て使ったとの証言をしていた。もう既に持ってはいなかったし、やつらの出入りしていたところを捜索しても見つからなかった。
ギルドマスターは怪しんでいたし、不安もあったことだと思う。白獅子様にダンジョン内の安全確認のためとお願いして確認して『無い』と言ってもらっている。
不安を取り除くための嘘を吐いた。ダンジョン内には見つからなかった、俺も立ち去る前に確認している、状況が状況だったので言うのを忘れていたと伝えている。たぶん大丈夫だろう。
やつらの処分は、一旦ギルド資格は剥奪され、ギルド直属の救助要員として働くことを罪の清算とすることになった。ギルドの中でも危険度の高い仕事だ。誰も殺していないので俺も許そうと思う。
オスバは森林虎をフォーリンと名付けた。名前の由来はあるんだろうけど聞くつもりは無い。フォーリンのいた17階層にいつでも行けるくらい強くなれるように、一からやり直すそうだ。
ギルドの仕事に関しても、希望するならそのまま務めることも出来るらしい。フォーリンといる限りは良いのではないだろうか。あとの二人は知らない。
罰に関しては主な被害者3人がそれで納得したし、都市内でもあまり大事にしたくないというのが領主の本音だそうだ。立て続けに事件が起きたことが公にされたら対外的に痛手だ。お前も足並みを揃えてほしいと言われた。
ジュコトホの評判が下がって悪いことをしたわけでもない一般人が困るのは本意ではない。同意した。
ただ、国やギルドの上層部に嘘を報告するわけにもいかないので、報告が必要になる。
よって俺が上記内容を公爵家と王都ギルドに手紙と共に伝えるというクエストを押し付けられた。
「お前の言うことなら信用されるから、手間が省ける。時間と金の節約だ」
との証言を得た。それも王都でぶちまけてやろうかとも思ったが、苦労して落としどころを考えたみたいなので何も言わずに引き受けることにした。
帰る日を迎えたが、ここには鍛錬に最適なダンジョンがあるのですぐに戻ってくるつもりだ。
エルンハート家にもケイトにも悪いが偶に帰るからと言ってまたすぐにこちらに住むくらいのつもりでいる。
見送りもなしにしてもらったし、昨日までにしばらく王都に行くがまたすぐに戻ってくると伝えてある。挨拶を各所にして、王都へと走りだした。
全力で走っていたら、あと少しで到着というところで王都を目指していた馬車隊に追いついたのが笑えた。最後は馬車に乗せてもらって帰った。馬車内で先に説明をしておきたかったのと、分裂プルで搬送していたモノの確認をしたかったからだ。
「クーロイ君は本当に色々なトラブルに巻き込まれるね」
「誰も悲しまないような結果になるなら巻き込まれるのは構わないですけどね」
「そういう意味ではないんだけどね」
翌日、約1か月ぶりの王都へと帰ってきた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「え?もう魔法陣出来たの?」
「はい!がんばりました!」
王都ギルドへの報告終了し、公爵家の報告は次期当主の方々と手分けして終了させて、王都での挨拶を済ませている最中だった。
マキシ様から、ケイトの鍛錬をしっかりと聞いてほしいと言われた。魔法陣の開発を投げたままほぼ放置していた自覚はあったため言われた通りにした。肩までしっかり掴まれたから何かあるとは思っていた。
それで言われたのが魔法陣の完成だった。
「えっと、状態異常を防ぐやつだよね?」
「そうですね。防ぐことは難しかったので、即座に治癒することにしました。私の回復魔法ですとその方が簡単でしたので。毒に侵されているときに体力が奪われてしまうことを防ぎたかったので、回復と治癒がかかるように設定してあります。複雑なのでコツを掴んだ私にしか描けませんが…」
「十分凄いんだけどね。効果は毒だけ?」
「治癒可能なレベルであれば防ぐことは理論上は可能です。まだどこまで効果があるか確かめようと思うと私自身が経験を積み、高レベルの回復と治癒が出来るようになっていく必要があるかと!」
将来的にはケイト自身が疑似的な状態異常無効を生み出せることになるわけか。人材的に破格の価値を持ったことになるなぁ。一つ下だから9歳だよな?頼んでからそんなに時間経ってないぞ。すごくないか?
「下兄様にも手伝っていただきました。私が作成した魔法陣の分析をしてもらいました。効果があるところと無いところを確認したかったので、色々と作成し、一気に見てもらいました」
「そういう使い方も出来るのか…」
魔法陣の開発に時間がかかる理由が、何がどう作用しているのか分からないことだ。適当に書いても少しは発動するので、それを手探りで何度も描き直してほしい効果を探り当てていくのだ。根気だけが必要である。
方向性が決まっていれば何となく分かるのだが、効果を高めるところまでは中々辿りつかない。
公爵家の次男さんは名前を聞いたかどうか覚えていないが、分析官の才能を持っているはずだ。確か貴族学校に通って今1年目の12歳のはず。彼の価値も一緒に上がっていることだろう。
「ということで先生」
「ん?ごめん、考え事をしてた」
「いえ、構いません。私は経験を積みたいと思っております」
「そうなるね。効果の高いものを作るならその方が良いね」
めっちゃ正面から見据えてこられているぞ。すごく嫌な予感がする。
「きちんと許可を得てから行動する方が良いと私は約半年前の出来事で学んでおります」
「まだ9歳だからね」
「あと十日ほどで誕生日を迎えて10歳になります」
「そうなのか。おめでとう」
ダンジョンに行くのはそれからにした方が良さそうだ。属性魔法の練習なんてどこでも出来るから構わないけれど。プレゼントって俺も渡す必要あるかな。
「当日に言ってください。女性の扱いがなっておりませんわ」
「年下の令嬢に言わせるとは申し訳ない」
「それで、お父様に誕生日プレゼントを頼みました。先生にも関係ある話です」
「うわ~…、すごく聞きたくない…」
「失礼な物言いはこの際気にしません。先生の許可も頂きたく思います」
俺が許可しなければ引き下がってくれるのだろうか。
「一応聞くけど何?」
「貴族学校に入るまでの約1年半を先生について、ダンジョンで鍛えたく思います」
当たってたけど期間に関しては予想外。ほぼ直前までついて来る気か。
「本気か?」
「この技術を身に付けたことはまだ家の者しか知りません。私自身が自分で身を守らねば危険に巻き込まれたときに対処できません」
確かにそうだろう。護衛がついたところで、自分で対処できる方が安全度は上がる。
「だからといって全員が自衛のためにダンジョンに潜るまではしないだろう?
「私が必要だと判断しています。より怪我などで苦しんでいる人たちの近くにいる方がエルンハート家の一員としての経験も積むことが出来ます」
「じゃあ貴族学校に入る前にしておくべき勉強とかはないのか?」
「必要な分はダンジョンに行かない日に行います。それに私も公爵家の娘、ある程度の教育は既に学び終えております。先生に鍛えて頂いてから基礎体力も上がりましたので、学習時間も伸びましたので!」
「徹夜で勉強してたのか?」
「そういう細かいことは聞いてはいけません!ダンジョンは3日に1日行かない日があるのでしょう?そのペースとしてもあと一年もしないうちに終了します!」
なんで日数の話を知っているんだ。俺の周りに情報を漏らすやつがいたのか?
「社交の場で顔つなぎとか必要じゃないの?」
「貴族学校が始まってからで十分です。顔つなぎの切り札の魔法陣がありますし。私から行わなくても周囲から寄ってきます」
「言い方に問題はあるけど分かった」
他に断る理由がないかを必死に考える。頭をひねって考えるが…もう理由が思いつかない。
「危険だぞ?」
「先生は守ってくれないのですか?それではプルさんに頼みます。生産の友としてヨウキさんと話もしていますし、ぬいぐるみ作成につてを持つ幸丸さんとも交流を深めたいとも思いますので」
いつの間にか味方がいなくなっていたようだ。周りにいなくても気にしていなかったが、なんて奴らだ。あ、お前らが日数の話をばらしたのか!
「分かった。細かい話はマキシ様と詰める。まだ了承したと思うなよ」
「はい♪」
「安全は確保するが、基礎体術や技術まで身に付けるなら俺が助けるのはギリギリになってからだ。対人戦闘は明日から付ける。優しいだけだと思うなよ」
「心得ていますので。では明日に備えて先に出来ることをしておきますね」
こんなに周りからの詰め方が上手いとは思わなかった。効率を考えれば俺を巻き込むのは一番だろうな。厳しさが理解できれば他の方法に切り替えるだろうし。
マキシ様のところに言って話を聞いたが、自衛手段を身に付けさせることは最優先だそうだ。貴族学校が無ければ、次男のカミール様も連れて行ってほしいくらいだと言われてしまった。
生活費用はこちら持ちだと言ってもらった。生活を整えるために人材の派遣とジュコトホでの募集を始めるそうだ。
どうしてこうなった…。
お読みいただきありがとうございました。
そろそろ制限かけるのも面倒になってきたので少々強くなってもらおうかと思います。次から新章です。