100雪辱を果たす、そして…
「狙いは俺たちみたいだな」
「子どもにスライムのどっちが最有力ですかね」
「そこにリッチは入らないのか?」
「魔力だけでいうたら、完全に負けてるので無いでしょう」
「ま、そうだろうね」
4人組も目的は同じだったのかもしれない。実際に森林虎を配下に加えることに成功していたし、短い時間で槍男の命令も聞くようにしていたことからも共用にするつもりだったみたいだが。
それを見て学んだわけだ。必要な道具から使い方まで全部奪われて尻拭いは俺か。しかし、この魔物を配下に加えるというやり方は…。俺が尻拭いをしなくてはいけないのも、納得しないといけないかも。
「じゃあ、針が何本あったかなんて俺も知らないし、何が出てくるかもはや予測不可能だ。とにかく目の前にある奴をすべて蹴散らすってことでやるぞ」
「ヨウキはどうする?前ほど危険は無いような気もするし、コレクションハウスに入るか?」
「ワイはせめてピアスにしときますわ。安全なところはないでしょうけど、状況が分かれば何かの役に立つこともあるでしょう」
「マスター。私はせめて限界まで偵察機を有効活用します」
「そうしてくれるならありがたい。例え弱くても邪魔されたくないし」
プルはフォローしてくれたら嬉しいけど、気にせずに思いっきり暴れてくれて良いよ。後始末もここなら気にしなくて良いし。
そう伝えて、動き出す時にヨウキから進言あり。
「ご主人!白猫様、白獅子様か?助けを呼ぶのは?」
「ダメだよ。前回もあと一撃で死ぬってところまで何もしてくれてない。あっちは神獣だ。本来ならほいほいと頼みごとをして聞いてくれるような存在じゃないよ」
そりゃあ、ねこじゃらし機だったり、魚の刺身だったりを差し入れにすると見ていて恥ずかしくなるくらいにはなるけど、距離感ってものは大事なんだ。
「魔物は大量に発生させてもろてるのに!?」
「それはそれ、魔物退治は両方にプラスがあるから良いの。とにかく、借りばっかり作ったらダメなの!いくよ!」
闘魔纏身になると、全力で周りの軍隊猿を切りまくる。どこかに森林虎がいるといっても以前と違ってさほど消耗もしていないので、全力で戦える。減らせるうちに雑魚は減らしておくに限る。
「これで15!」
「私はまだ4です」
プルが23と自慢してくる。くっ!あのスライム、マジでスライムか!?
撃破数を競う大会になりかけたところで、何かの気配を感じたような気がして後ろに振り向く。来るのか?俺に来るかプルに来るかは分からないのだ。
単純に強さなら(悔しいけど)プルが上、となると先に襲ってくるのは、
「俺だよね!」
また先程よりも速く大きな音が迫ってくる。全身の力を使って必死に前に飛び転がることで避ける。
なるほど、周りがごちゃごちゃしている状態で不意打ちすることを目的にしているわけだ。
「ヨウキ、見えた?」
「全く!」
「ははっ。困ったね」
口ではそう言いつつも、口元がどうしても緩んでしまう。試したいと思っていたことが早くも出来てしまうのだ。自分で言うのもなんだけど頭がおかしいのかもしれない。
「では、早速新技を」
「うげっ!」
ヨウキの若干の悲鳴を聞きつつ、準備を開始する。準備といっても魔力を練り込むだけだ。よって闘魔纏身も解除されてしまう。一撃食らえばかなりのダメージだ。食らえば。
解除した瞬間、俺にも風の動きでどこから来るかが分かる。分かったならもうこっちの勝ちだ。まだ真正面から勝てるだけのスキルもステータスも身に付いていない。少なくともダンジョン生活を1年以上はやらないと無理だ。
だったら弄するのは小細工だ。俺が使えるようになった属性魔法は関係あるのかどうか分からないけれど、風魔法だ。まだレベルは2。普通で言うなら風の玉を打ち出すくらい。本当に弱い魔物くらいにしか効果は無い。
ただ、俺はスキルの同時発動というか一つに纏めることが出来る。
今回俺が使うのは風魔法・魔力集中・闘気集中・魔力変化だ。まだレベルが低い風魔法を集中の2種類で超強化し、魔力変化で形の変形を助長する。
「風環円刃!!」
風で出来たフープが俺の目の前に一つ現れる。腰で回して遊ぶあのフープだ。同じように環を操作して頭を通して胸の位置で止める。更にイメージを進める。
狙う形は刀の切っ先のような刃が環から出来る限り多く生み出されるイメージだ。刃が形成できたことを確認すると徐々に回転させていく。想定としては風で速く回転することで単純な殺傷力を底上げしている。
木だろうが、軍隊猿だろうが切り裂くスピードだ。実際、後ろから飛び掛かってきた軍隊猿が一匹勝手に切り裂いている。内側に入り込まれるようなスキマは無いが思ったよりも消耗がキツイ。長時間の戦いになると厳しいので、要改善だ。
森林虎にも当たれば勝負はつくはずだが、ただ待っているだけでは近寄ってきてはくれないようだ。
範囲を広げるだけの余裕は無いなので、幸丸に指示された地点へと走る。目指す先にいるのは軍隊猿の司令官のはずだ。潰せば統率された動きも無くなるのでこちらに有利だ。
走り出して10歩もしないうちに、こちらの狙いを察したのだろう。森林虎が姿を現して、こちら目掛けて体当たりをぶちかまそうと突進してくる。これであっちの防御を崩せれば俺の勝ち、逆なら負け。どうだ!?
ギャリィィィ!!!
盛大に火花が散っている。それだけの速度で回転しているなんて、レベルが低い割には殺傷力は思ったよりも高い。妙な興奮を感じつつ、Aランクの怖さ、いや森林虎の怖さを再確認する。
片方が生物では響かないはずの音がしている時点で恐怖だ。あの毛皮はどんだけ丈夫なんだ!?
向こうの防御を突き崩せるほどの威力ではないようだ。まだ足りないようだ。回転速度を落としているつもりも無いが、遅くなっていることが分かる。このまま長引いた場合どうなる?
答えは簡単。発動した魔法を止められてしまい、無防備の俺が一撃を食らって終わりだ。
ならば、もう1つ発動するしかない。まだ身を削らないとAランクの魔物を倒すまでには至らないか!
「風の針」
こっちの魔法は発動してすぐは、風魔法と魔力操作だけだ。もう一段階上の発動のためには風環円刃を解除しなくてはならない。同時に扱うことが出来るほど俺の能力はまだ高くない。
準備段階で既に頭が焼き切れそうだ。生命魔法を自分にかけるほどの余裕もないため、HPが減るのも致し方ない状況になる。何か唇に熱い液体を感じて、舐めて見ると血だった。これは、鼻血が出ているんだな。
仕込みには時間が必要だが、割と順調に進む。森林虎はその引き裂くための牙や爪を使って何とかこちらに傷を負わせようと攻撃してくる。
これが魅了されていなかったとしたら、俺への違和感から攻め方を変えただろう。しかし、やつは今軍隊猿司令官に指示された行動しかできない。おまけに俺の姿は見えていないから行動を変化させようにも状況が確認できていない。
装甲しているうちに準備完了。風環円刃を解除し、魔力弾丸を周囲にもばら撒き、バックステップで距離を取る。
数瞬の後、何も起こらないことに安心したのか森林虎が襲い掛かってこようとするが、一歩踏み出したところで異変を感じる。初見の魔法耐性が低い生物ならこれで殺れるほどのエグイ攻撃方法だ。
「ガボッ!!」
変な叫び声と共に血を大量に吐く。風の針の使い方は色々あるが、今回は飲ませた。昔話の一寸法師よろしく、大型生物の中に入ることなく針を飲ませたと思ってくれれば良い。
どれだけ体表面が丈夫な毛皮で覆われていても、体内からの攻撃に備えている生物はいない。魔力について防御手段を持っていれば防がれるが、動物系の魔物は魔力を扱うのが不得意なものが多い。
おまけに外側から様子を見ながら太さや長さ、形の変化と操作が可能だ。
森林虎が勝つには俺に解除させるしかない。が、遠距離攻撃の方法がないから出来ない。司令官も状況が掴めていないようだしな。
更に大量の追加を送り込み、体の内部から攻撃を続ける。やがて、体を動かせなくなった森林虎は大きな地響きを立てて倒れ込む。
結局は綱渡りの勝利だ。やっぱり地力がまだ足りない。安心したのか、悔しいのか思わず溜息を吐く。横たわる相手に剣を振りかざす。
「悪いな」
恨みは無いが、一応の勝者として糧にさせてもらう。この場での最強は抑えたので、あとは逃がさないだけ。再度追跡の体勢を取ろうとしたとき、
「マスター!危険です!」
慌てて、魔法を解除し探知に頭を切り替える。これが間違いだった。
思ったよりも近い位置に軍隊猿の中でも高い魔力を感知する。
後ろに回られていたので振り返ると、吹き矢を構える猿と目が合う。既に息の吸い込みが終わっているようだ。にやっと笑うと吹き出した。
思っていたよりも魔力の消費が激しく、回避にも防御にも間に合わない。
ブスッ!!
刺さったのは、俺を突き飛ばした幸丸に刺さっていた。
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