10久々の休日
6歳まであと一か月ほどと迫ったとき、久々に丸一日の休息日をもらえることになった。祖父祖母ともに急ぎの仕事が入ったため特訓が休みになったのだ。
ちょうど良いから、とゴザルの武器術鍛錬も休みにしてもらい、久々に自分の好きにしようと朝から出かけることにした。
「今日は曇りか~。せっかくなら晴れてほしいもんだよな」
特訓もなく焦らずに過ごせる日なら青空を見たかったと不満を漏らすが、肩から抗議を受ける。
プルプル!
「そうだな。気持ちの良い青だったらいつもお前がいたな。悪かったよ。ごめんって」
プルップル。
「はい。すいませんでした。言葉には十分気を付けることを誓います」
両手を挙げて謝罪をすると機嫌を直したプルは許すことにした。
「さ~て、散歩も良いけど、何をしようかな。久々に友達に会いに行こうかな」
ゴザルの道場の行き帰りに会って話はしたものの偶然に会っただけ。クーロイの特訓の都合でゆっくりと話す時間も取れていなかった。
誰か一人くらいは捕まえることができるだろうとかつて狩人ごっこでメンバーを管理しているアカヅメの家に向かうことにした。
歩きつつ、ステータスを確認しておく。
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名前:クーロイ 年齢:5
種族:人族 性別:男
才能:気ままなコレクター
HP :15/15
MP :408/408
STR:6
VIT:11
AGI:9
DEX:9
MAG:32
MND:28
LUC:6
スキル
平常心(2)ストレス耐性(2)教導(2)話術(1)魔力感知(3)魔力操作(4)魔力放出(4)体術(3)魔力集中(2)気配察知(2)採取(1)視力強化(2)剣術(2)
称号
御人好し 【元】不幸体質 我慢バカ 転生者
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「よっ。アカヅメ!元気か?」
「お~、久しぶりだな。クーロイ!お前から来るなんて珍しい。今日は地獄の特訓はないのか?」
獣人から見てもやっぱり地獄なのかよと顔が引きつるのを覚える。
「今日は完全に休みだよ。狩りも採集もいつも並行してプルがやってくれているからね」
「さすがはプルだな~。俺にもプルみたいなやつがいてくれたらな~」
最初は当然魔物だからと敬遠されていた。プルは村の人間からの人気は高くなった。見かけからしてきれいな青色でなおかつ面倒見も良い。
だが、クーロイと一緒に遊びを通して村の男の子たちが、色や感触から村の女の子たちが落ちた。
牙丸が狩りに連れて行って狩人組が、クロエミが買い出しに連れて行って奥様組をそれぞれ落としていった。
2年近く暮らして受け入れられていた。今や赤子の世話をしているときもある。クーロイも頼まれたことは無い。
魔物を狩る実力も持っていることから子どもだけで完全に遊ぶことに集中できる環境の出来上がりだ。
こんなこともあった。ある子どもが家でもらった小さい魔石をあげようとした。ジェスチャーでお礼をきちんと伝えたときから、エサをあげることを目的に近づいてくる子もいる。
プルと村の中にいるとき、気が付くとプルが女の子の相手をしていることもあった。相棒が受け入れられていることは嬉しいことだが、軽く嫉妬を覚えた。転生者でなければ拗ねていたのは間違いない。
「じゃあ今日の狩人ごっこにはクーロイも参加だな!」
「もちろんだ!鍛えた俺は前とは違うところを見せてやるよ!」
「「ははははは」」
火花を散らすかのように目線を交わして笑いあう。こんな穏やかな日も有りだなと思わされる。
約束を交わした後に少し話をしたら、昼過ぎにいつもの広場で落ち合うことを約束してアカヅメの家を出る。
「さ~て、次は何をしようかな」
昼過ぎを迎えるまでにはまだ時間がある。友達と遊ぶでなければうまく時間も潰せそうにない。
「だったら、喜ばせる方向で時間を使おうかな」
プルプル?
「何するかって?いつもお世話になっている人たちにおいしいものをごちそうするんだよ」
プルプル♪
「子どもらしくないのは分かってるけどさ。食べ物以外に娯楽が思いつかないのもあるからさ」
直接的に感謝を表すことをするなら、美味しいものが一番だとクーロイは思っている。食べているときが一番の幸せ。
「ってことで森に行って赤色の奇跡を取りに行こうぜ!プルも好きだし良いだろ?」
プルプルプル!
「決まり!」
☆ ★ ☆ ★ ☆
夜明け前の特訓で使用している森にやってきた。暗い森ではあるが、太陽が出ている時間に来ているだけ視界が効く分進むのは非常にスムーズだ。
採集の場所は牙丸から教えてもらっている。
「ばあちゃんが好きなものだからって自分で取りに来るんだぜ、あのじいちゃんが。最高すぎないか?うちの祖父母」
クックックと笑いながら向かっている。取りすぎには気を付けるように言われている。家族4人分として4個も取れれば良いだろう。
軽快に走っているときに目の端に良いものがうつった。
「あれ?割と質の良い薬草とか生えてるじゃん」
普段の鍛錬なら真っ暗闇で気づかなかったが、見えるようになったことでの発見があった。
分かるのは薬草や毒消し草くらいだが、他にも家で見た草が多く生えている。
「これもばあちゃんは喜ぶな。どっちが良いだろ」
多少悩むが、情報として持ち帰って、初志貫徹することにしようと思い直した。目当ての果実が生る木まで再出発する
「赤色の奇跡なら、ばあちゃんが喜ぶ、それを見てじいちゃんも喜ぶ。プルも好きで喜ぶ。プレゼントする甲斐は今日はこっちの方があるな」
目当ての木に食べごろの実が3個しかなく、プルと一緒に食べることにして3個ほど取って帰ることにした。
帰る途中にも薬草地帯の場所を確認して帰宅した。
今日は家に二人ともいないので昼ご飯は自分一人で済ませた。サプライズにしたいが、生ものなので食べ物の保管場所に置いておく。
昼過きからは久々の狩人ごっこだ。体を動かすことに関しては互角以上だったが、察知という点ではまだまだだった。とはいえ、
「うちの弟と同い年でなんで俺と同じ速さで走れるんだ?」
「人族の5歳でなんでそこまで動けるんだ!?」
「気づくのがすごく早くなってないか!?」
「おれももっと鍛錬し直す…!」
クーロイに捕まえられたか、あるいは度肝を抜かれた子どもたちは今のままではヤバイと焦らされている。
鍛錬の成果が出たことに驚く反面、種族やステータスの差は簡単には埋まらないことも分かった。
約2年の訓練で最大で3歳差と種族差を相手の得意な部分で追いついたことは成果の結実と言えた。
「じゃあな~」「バイバ~イ」「また今度な~」
分かれ道で挨拶をすまし、再度帰宅した。
いつもなら既に家に二人ともいるはずの時間だったが、まだ帰ってきていなかった。
「せっかくだし、夕ごはんも俺が作ってみるか…?」
簡単なものなら作れるし、挑戦しよう。手の込んだものが良いかなと記憶から思い出しつつ作る。
調味料もなければ材料もない。あるものを使うならば…。
「ジャガイモをがんばって揚げよう」
本当はポテトという名前だが、一人でいるときにわざわざ慣れない言葉を使うのも面倒だ。
作るのは大きめに切る方のフライドポテトだ。前世と同じ名前なのはご愛敬ってことで。
5歳児でも出来そうなものがこれくらいしかない。揚げるのは意外と器用なスライム、プルに任せる。
試しに揚げて感覚を掴み、塩をかけて味見する。
「ん!バッチリだ!」
あとは揚げるだけの状態で置いておく。もう一品としてはスープだが、ここで牙丸とクロエミが帰宅する。
「ただいま。あら。夕ご飯を作ってくれていたの?」
「そうだよ!あ。おかえり。スープも作ろうと思ってたんだけど」
「肉を焼いてもらってきたから量は足りると思うわ。今日はそれでいいですよ」
「よかった~。スープはばあちゃんみたいに出来ないと思ってたから助かったよ。ちょっと珍しい料理するから待ってて」
と言ってポテトを揚げていく。途中からクロエミが代わりに揚げて夕ごはんを食べた。
クーロイはこのままこの村で暮らしていくのでも構わないなと思い始めていた。
お読みいただきありがとうございました。