1気が付けば白い塊
初投稿です。よろしくお願いします。
「目を覚ますと知らない天井があった。言ってみたかったセリフが言えたなぁ…」
「意外と落ち着いているね。気分はどう?」
声をかけたのは気の良い顔をした少年だった。読んでいた本を閉じて、ニコニコと笑顔を向けている。目を覚ましたばかりで呆然とした様子の『もの』を気遣う。布団の上にいるのはヒト型をしているものの、ただの白い塊だからだ。本人はまだ気づいていない。そんな状態で何を考えているかといえば。
(田舎のばあちゃん家と似ているな。この子も部屋の雰囲気と合わせた着物だし、俺は倒れていたんだろうか。
起きるまで様子を見てくれていたのだ。お礼を言っておくべきか)
意外と暢気ではあるが、体を起こして例を言う。
「看病してくれていたんだね。ありがとう。俺の名前は・・・あれ?」
「そうだろうね。まずはそのあたりから説明するよ」
☆ ★ ☆ ★ ☆
「では話をまとめると。キミは創造神で、元居た世界から連れられて、異世界への移動したせいで魂が損傷した。肉体もなくして記憶も穴だらけ。こちらの世界に落とされた時点でキミが察知して保護された、ということで良いのかな?でもって今は白い塊」
「概ねその通り。肉体が無いから魂そのものだよ。仮にでも体が見えてないと精神的に負担かなと思ってのサービスさ。今までのことを理解してもらえたのなら、神を代表しての謝罪をこれから説明させてもらいたいな」
「…いまいち納得はできないけど、どうにもならないことだけは理解たよ。もっと詳しく聞いておきたいこともあるけど」
この状況で前向きに検討できるようなやつは普通はいないはずだろうとため息が止まらない。
「すべてに納得がいくことなんてありえないからね。特に質の悪い神にあたってしまったことについては僕からの補償で勘弁してもらいたいな」
「見かけによらないことを言うんだな」
「見かけ通りの年齢ではないからね。何歳かなんて数えるのも飽きたよ。ここまでひどい尻拭いをするのも初めてだけどね」
記憶にある今までの人生でも理不尽なんて数えきれないほどあった。その部分が消えてくれれば良かったのに、まだ残っていることもある。
落ち込んだ時の癖で俯いて手を見ようとしたが、白い塊で輪郭すらぼやけている自分の体に笑いがこみ上げる。
「欠けた記憶を戻すことは僕にも出来ないけど、残っている記憶を見るだけでもあまり良い扱いは受けていなかったんだろう?楽しい人生を送るためにも開き直る方が良いよ。立ち止まるよりも動いている方が気持ちも変わるだろうからさ」
「神らしい助言か?」
「落ち込んでいる人間にかける言葉は神も人間も変わらないと思うけどね」
そうだ。白い塊のままでいても仕方ない。開き直るしかないのだ。
「では、俺はこれからどうなる?というか年上に対する口調じゃないのは直した方が良い?」
「口調は別に良いよ。リラックスしてもらうための姿だし。気を張りたくないの僕も同じだからね。
で、どうなるかの話だけど、こちらの世界に転生してもらうよ。ちょっと良い才能も付けてあげるよ」
創造神も同じく話してみたかったのだ、バカどもの暴走で巻き込んでしまった青年と。現在の話した感じは悪くない。過度に巻き込むのは本意ではないが、違う世界から来た魂が自分の世界にどんな影響をもたらしてくれるのかには興味がある。
(キミの記憶を覗かせてもらった感じ、状況さえ整えばお人好しそうな感じだし…案外良い拾い物をしたかもしれないしね)
「ニヤニヤした顔を見せられても困るんだが…」
「あはは。ごめんね。では、事前説明を始めるよ」
肉体が無いから赤ちゃんから始めてもらうよ。才能を駆使して好きに生きて。自分で出来そうなことをしてよ。ただ、僕たちにも実施途中の計画があってね。事情を知る協力者が増えるのは大歓迎なのさ。まともに生きる人間が一人でも多くなるだけでも良いんだけどね。
無理して生き急いでほしくないから、詳しくは言わないよ。強いて言うなら魔物退治とダンジョン攻略さ」
「ということは…なんかゲームの世界って感じか?」
「キミの記憶の中の言葉を使うならその通り。でも気を付けてね。『命は一つ』だよ。やり直しなんかもう無いし、一人で百の兵士に打ち勝つことも出来るから気を付けてね」
(笑顔で言うことじゃない…!)
「ものの例えだからね。そんなに引かないでよ。魔物がいる世界だよ?油断したらすぐに死ぬし、魔法もあるんだから自衛に関しては元の世界の時と同じと考えてはいけないよ。せっかく説明したのにすぐに死なれてしまってはもったいないし」
「わかった。気をつけるよ」
「大丈夫かなぁ。あ、そうそう。キミにあげる才能は『気ままなコレクター』だよ。詳しい使い方は現地で慣れていっておくれよ。使い方は僕でも説明できないようになっているんだ。自分で見つけていくものだからね」
教えてくれても良いと思うが、出来ないと言っているのだから聞いてはいけないだろうとそこには触れないでおく。イチイチ発言のたびに動きがあることもツッコまない方が良いのだろう。世界が変われば常識が違うもの。
「才能があると分かっているだけありがたいよ。じゃあ才能って何?」
「キミの世界には無いんだったね。魂に定着している技術を言語化できるほど強いものに名がつけられるのさ。全ての生命に才能があるわけではないけど、キミに付けてあげないのは礼を失するというものだろう。才能がなくても魔力を操ったり、スキルは身に付けられるから生き延びる手段が増えたと思ってくれたら良いよ」
「その才能は、創造神様がくれたのか?」
「う~ん、正直言うと最後の後押しをしたくらいさ。コレクター気質がキミにはあるけど、ガチガチでもなかったからね。緩い感じにしたんだ。気質に関しては心当たりがあるだろう?」
「何となくは」
ゲームの取り組み方のことだろう。図鑑みたいなものはコンプは当たり前、装備は完璧に整えるのが礼儀だと思っている。アイテムも可能な限り取るが、もったいなくて使わずに残していた。むしろクリアしてから2週目からが本番だろう。製作者が作りこんだところまでやり込んでこそ、楽しんだと言えるのだ。個○値、努○値とか懐かしいな。
でもボスがレアドロップでしか落とさないとかはやらなかったな。一桁パーセントのドロップはがんばれなかった。そのあたりに、気ままが付けられた理由なのだと思われる。
回想して思い当たった。
「手探りで生きていく方が楽しいとか思ってないか?」
「当たり前だよ。悪いと思っているから才能はあげたけど、詳しい説明までしてしまっては人生楽しくないよ!」
「確かに。ゲームと混同してはいけないな」
「違うよ、人生を楽しいものとして生きてほしいだけさ。」
言われてハッとした。『人生は楽しい』ものだそうだ。こいつは良い奴のようだ。
「じゃあ転生してがんばっておくれよ。ちなみに物心つくまではとぶと思っておくれよ。死産となるところにキミの魂を定着させて生まれてくることになるよ。乗っ取るわけではないから気を使わなくてオッケー!」
グッと親指を立ててサムズアップを送ってくる。白い塊でなくなるときのようだ。徐々に発光していく。…少し感極まる。
「発光しなくても良いんだけど、そこは演出さ!」
「台無しだよ!でもありがとうよ!」
「ふふ。がんばるんだよ」
そして転生する。
お読みいただきありがとうございました。