表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして唐揚げはなくなった  作者: 冲田


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

2 そしてやっぱりふられた

 島津さんの口から、どんな言葉がとびだすかと心臓をバクバクとさせていると、彼女はおもむろに立ち上がって、その指輪をぽいっと、机に乗る程度の大きさの機械の中に入れた。


「え?」


 何をやってるんだろうと思っているうちに、島津さんは機械に(つな)がっているパソコンをカチャカチャと操作して、スタートボタンを押す。


「ええ! ちょっと待ってよ! 何してんですか⁉︎  溶けたり爆発したりしないの⁉︎」


 僕は、電子レンジに金属を入れてしまったときのスパークを思い浮かべながら、大慌てで言った。機械の(ふた)? 扉? は、完全にロックされていて、当然開かないし、中も見えない。


「大丈夫よ。非破壊分析(ひはかいぶんせき)だから」


「ひはかいぶんせき……? いや、そもそも、大丈夫とかって話じゃなくてですね!」


 一応、渾身(こんしん)のプロポーズだったんですけど! 無視ですか⁉︎


 そんなことをしている間に、装置は止まったようだ。パソコンには、あまり馴染(なじ)みのない形をしたグラフが表示されている。縦軸(たてじく)横軸(よこじく)が何かはよくわからないけど、下の方で横ばいになっている線をベースに、低かったり高かったりする(はり)のように(するど)い山がいくつか(えが)き出されていた。一番高い山の付近にはAgと書いてある。


「うーん、プラチナリングを用意できないお子様には興味ないなぁ?」


 島津さんがニコニコとしながら、僕の心をえぐる一言を放つ。


 岩城さんが無遠慮(ぶえんりょ)にパソコンの画面を(のぞ)きにきた。


「シルバーでもいいじゃないですか。親のカネ使ってプラチナ買ってくるより、好感もてないっすか?」



 ──つまりこういうことだ。


 島津さんのいる、この寒いくらいに涼しい部屋、このチームは分析(ぶんせき)(にな)部署(ぶしょ)だ。自社の研究開発や不良品の解析、製品が有害物質を含んでいないかを調べたりやら、なんちゃらかんちゃら……。

 ここに置いてある大小様々な機械は全て分析装置。それぞれの装置が何を分析しているのか、インターネット検索をしてみたって僕にはさっぱりわからないけど。

 正しい分析結果を出すためには、その室温を(たも)たなければいけないのが、この部屋だけいつも涼しい秘密の正体だ。


 ちなみに、僕がまず足を踏み入れた部屋のほうは、まるで学校の理科室みたいなところだ。棚の中には、ビーカーやフラスコといった理科の実験で見たことがあったりなかったりするガラス器具が置いてあって、鍵がかかっている棚の中には色々な化学薬品が入っている。こちらの部屋では、分析したいモノを装置に入れる前の、前処理(まえしょり)とやらをしたりするらしい。


 島津さんが指輪を入れた装置は、蛍光(けいこう)X線(エックスせん)分析装置といって、この装置に入れたモノが何で出来てるか、などが分かる。例えばアクセサリーなら、純金製なのか、金メッキなのか、一目瞭然(いちもくりょうぜん)に分析できてしまう。

 そういうわけで、僕の指輪はシルバー製であることがわざわざ分析によって(あば)かれて、そんな安物しか買えないガキは(ねが)()げだと()られたわけだ。


 ──ふられたわけだ……。


 岩城さんの解説を聞きながら、僕はがっくしと肩を落とした。


「まあ、問題は指輪の素材じゃなくて、物事の順序じゃない? “結婚してください”の前に“付き合ってください”だろ?」


「だって、女の子はアクセサリーをプレゼントすればイチコロで、告白はまわりくどいことしないほうがいいって……」


「ドコ情報だ? それ?」


 岩城さんは声を出して大笑いして、他のメンバーは完全に、おじさんおばさんが(おい)っ子を見るような、ほほえましいといった目だ。島津さんも控えめにだけど、ひとごとのように笑っている。

 僕は恥ずかしさに小さくなるしかない。

 島津さんは無傷の指輪を小箱に戻すと、僕に差し出した。


滝崎(たきざき)くん、気持ちはありがとうね。でも、これはもらえない。ごめんね」


 これを受け取っちゃったら、失恋を受け入れないといけないと思うと、手が伸びなかった。僕が子供だからダメだというなら、あと何年か後なら受け入れてくれるんだろうか。大人って、どうすればなれる?

 僕がなかなか小箱を受け取らないのをみかねて、島津さんは僕の手をとって、小箱を無理やり握らせた。手を取られて僕はドキドキしてるけど、彼女はきっと、なぁんとも思ってないんだろうな。


「ところで、岩城さん」


 と、島津さんのこの一言で、この告白劇は完全に終了する。


「うちの排水(はいすい)分析の結果、また良くないんだよね。pH(ペーハー)とか金属イオンとか、あとここらへんは全部大丈夫だけど、ノルマルヘキサンが今日もアウト。今回は残渣(ざんさ)も多いな。ちゃんと綺麗なところ()った?」


 島津さんが完全にお仕事モードで、プリントを岩城さんに見せながら僕には理解ができない話をし始めた。

 と、いうより、就業時間中に仕事の邪魔をしたのは僕だ。すごすごとその場を離れて、フリースペースになっているデスクに宿題を広げた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ