第9話 セントリア王国からの救援要請1
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《基本情報》
プレイヤーネーム:蒼龍王
本名:青山裕一郎
性別・年齢:男・17歳
種族:人間
天職:君主
職業:君主 Aランク
《HP・MP》
HP:1000(固定値)+500
MP:1000(固定値)+500
《ステータス・ギア》
type:ヒューマノイド
筋力:100(固定値)+144
素早さ:100(固定値)+55
耐久:100(固定値)+135
魔法攻撃:100(固定値)+192
魔法防御:100(固定値)+191
特殊:100(固定値)+30
《AIコントローラー》
統率:95(MAX100)
武勇:83(MAX100)
内政:77(MAX100)
知略:91(MAX100)
魅力:90(MAX100)
《スキル》
スキル枠:500(Aランク君主固定値)
立憲君主制(10)・官僚制(10)・総大将(20)・ランダムダンジョン(30)・平地面積拡大5,000㎢(100)・竜族研究(50)・製鉄研究(30)・魔法研究(10)・武器開発研究(10)・鉱山開発(20)・温泉開発(15)・識字率100%(35)・地盤安定(70)・現実通信(50)・竜騎士(25)・鼓舞(2)・回復術(10)・炎剣(3)
※( )内の数値はスキル枠の消費数。
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VR世界は現実世界の3倍の速度で時間が進行する。
現実世界の1時間はVR世界で3時間。
単純計算で1日は3日、1ヶ月で3ヶ月進行することになる。
つまり、1年間プレイすれば、VR世界では3年が経過するというわけだ。
ちなみにこの時間経過であるが、プレイヤーがログインしていなければ、時間が経過しないというわけではない。
LOTはプレイヤーがログインせず、NPCだけの状態でも勝手に時間が進行している。
これを俺達は『オートプレイタイム』と呼んでいる。
オートプレイタイム中は左手に付けるグローブギアに自分のスマホをセットし、そのネット回線を通じて自国の様子を確認することができる。
ただし、出来るのはあくまで確認だけ。
神視点で、上空から様子を伺えるに留まる。
ある特殊な条件を揃えておかないと、指示を出すことが出来ず、たとえオートプレイタイム中に他のプレイヤーから攻め込まれた場合であったとしても、配下を信じて、ただ見守ることしかできないのである。
だが、幸いにも俺はその特殊な条件を揃えていた。
俺は前回のログアウト地点であるドラグレイドの都『竜城』内の『王の執務室』へ降り立った。
ログイン・ログアウトは必ず王の執務室で行う。
これは俺のマイルールの一つである。
ログイン・ログアウトの前後で俺の身体に大きな変化はない。
これがSACなら、見た目の補正や種族の変更によって、現実の自分とはまったくの別人にアバターメイクできる。
しかし、LOTはNPCに重点を置いているため、プレイヤーが見た目を変えるためには、そのためのスキルが必要となる。
スキルは普通のRPGで言えば個々の技能なのだが、LOTの場合、例えば俺で言えば立憲君主制や官僚制といった政治システムを始め、各種研究のスキル、領地の面積や地質そのものに大きな影響を与えるスキルなど半永久的かつ国全体に影響を及ぼすものもすべてスキルに含まれており、それらを組み合わせることで、プレイヤーが率いる国の基幹システムを構築している。
なので、イケメンになりたければ、その分、自分の国は他国に後れをとることを覚悟しなければならない。
(だが、見た目も大事なんだよなぁ……)
あまりにも不潔な容姿をしていると、臣下によっては忠誠心が下がってしまう場合があるのだ。
じゃあ、デブはどうしろって?
答えは一つ、頑張ってダイエットしろ。
LOTにしろ、SACにしろ、ログインの度に現実の身体の変化がアバターに自動更新されるため、身長も体重も同じ数値になる。
じゃあ、チビは?
それは俺も聞きたいわ!
まぁ、このように何が、何に影響を及ぼすか読めない所がこれまでのSLGと違う難しさでもあり、面白さでもあった。
しかし、見た目は変わらなくても服装は変わる。
今の俺はログイン直前まで着ていた皇高校の制服が一変し、真紅のアクセントが施された青色基調の重厚な鎧を装備し、濃紺の外套を纏い、まるで騎士としてこれから戦争に赴くかのような格好になっている。
この鎧も、それから腰の剣もすべて現状のドラグレイドで取得および生成できる最高級の素材を使い、これまた現状のドラグレイドにおける最高の技術によって製造されている。
ステータス・ギアの項目に+100以上の数値付与する付加価値の付いた武器防具を製造できるプレイヤーはLOT内数万の国がある中でも、500にも達していないだろう。
この製造できる武器の質からも、ドラグレイドの軍事力の高さを示されており、王としては誇らしい。
「おっ!?」
応接用のソファに腰かけて、何かの書物に集中していた王の秘書官は、俺が戻ったことに気づいたようで、ソファから立ち上がり俺の元へ寄ってくる。
「お帰り~。どうだった。今日の学校は?」
「いつも通りだ」
王の執務室は例え国のナンバー2である宰相であっても、俺の許可なく入ってはならない。
しかし、王専属秘書官に任じているシエルのみ、俺の不在時、入室可能である。
これは不在している間も、俺の決裁を欲しいと尋ねてくる臣下の相手をすべて任せ、ログイン時に即決裁できるように決裁案件の整理をさせるためだ。
これが王専属秘書官の仕事である。
俺がシエルに王専属秘書官を任せているのには理由がある。
まずはコイツのステータスだが。
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《基本情報》
名前:シエル
性別・年齢:女・17歳
種族:悪魔
天職:商人
職業:王専属秘書官、財務大臣、経済産業大臣、外務大臣
《HP・MP》
HP:77
MP:154
《ステータス・ギア》
type:ヒューマノイド
筋力:19(MAX999)
素早さ:54(MAX999)
耐久:25(MAX999)
魔法攻撃:223(MAX999)
魔法防御:216(MAX999)
特殊:104(MAX999)
《AIコントローラー》
統率:31(MAX100)
武勇:27(MAX100)
内政:99(MAX100)
知略:100(MAX100)+20
魅力:85(MAX100)
《スキル》
王佐の才・鑑定・弁舌・百科事典・奴隷契約
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こんな感じ。
俺も最初ステータス見るまで、シエルが女だとは思わなかったが、それはまた別の話だ。
話しを戻し、何故俺がシエルを王専属秘書官としているかと言えば、コイツのスキル『王佐の才』が理由だ。
これと俺の『現実通信』のスキルが連動しており、先ほどの特殊な条件を満たす。
つまり現実にいながら、VR世界と連絡をとり合う事が可能になるというわけだ。
シエルは建国当初からいる配下だ。
見た目はその時からそれほど変わっていない。
日によって色やデザインの異なるものを着用しているが、シルクハットにタキシードと相変わらず手品師のような格好をしている。
出会った時との違いを挙げろと言われれば、指輪とかイヤリングとかの装飾品が少し増えたかなという程度だ。
LOTではゲームスタート時に人型種の配下を1体与えられるのだが、それがシエルだった。
この初期配下は完全にランダムであり、初期から人型種の中で最強である巨人族が当たった人も居たらしい。それが俺の場合はシエルだったというわけだ。
だが、コイツも初期の中では超レアキャラである。
シエルは巨人族などに代表される能力最強型よりも、さらに希少とされる『現実世界の存在を知っている配下NPC』だった。
能力にかける容量をそっちの方へ回したので、シエル個人は強くない。
しかし、現実世界でも連絡をとり合えると言う能力を駆使して、俺は適切なタイミングで、適切な手を何度も打てた。
おまけに現実世界のことも知っているから、日常生活の愚痴も言えた。
VR世界で常に王として振舞う必要がない。
これだけでも精神的助かっている部分は大きい。
「いつも通りってことは……学校行ったら、クラスの誰とも話さず、授業が始まるまで机で寝たふりをして、テキトーに授業受けて、一人寂しくお母さんの作ってくれたお弁当を食べて、授業終わったら速攻で家に帰るっていう、いつもの通りのパターンってことかな?」
大分、嫌味な奴だけどな。
「お前、言い方(笑)。少なくとも、今日は里美や千晶達とは話しているから、誰とも話さずは間違いだ。最近は授業中に寝る事も減ったし、テストも大分、平均点くらいまで上がってきた。あっ、この間の期末試験の世界史なんか学年2位だったぞ」
もっとも、もはや俺の成績なんてクラスの誰も興味ないだろうけど。
テストの点を教えたのも、里美とそのお友達くらいだ。
ああ。あと、洋史には話してやったっけ。
「へぇ、頑張ってるじゃん。凄い。凄い」
珍しく素直に誉めてくれた。
これは、これから雨が降るかもしれん。
頼むで、天変地異イベントだけは起こしてくれるなよ。
地震以外は何も対策用のスキル付けてないんだからな。
「一年生の一時期なんて学年一の落ちこぼれだったのにねぇ(笑)」
やっぱり、一言多い。
「でも、ちょうどこの時期じゃなかった。半年戦争」
「あのクソニート。本当、今でも腹立たしい」
半年戦争はドラグレイド史上、最大の長期戦と今でも国内で語り継がれている伝説の戦争である。
現実の時間で1年生の6月中旬から8月中旬の2ヶ月間。
なので、このVR世界においては6ヶ月、だから半年というわけだ。
その期間、とある国とその同盟、傘下の国を相手におこなった長期戦争が『半年戦争』である。
対戦したとある国を率いていた相手プレイヤーは、現実では親からの寄生プレイをしているニートのおっさんだった。
親から搾り取った金で課金して次々と精鋭を購入しては攻撃を仕掛けてくるうえ、24時間いつでもログイン可能というアドバンテージ。
おまけに同盟、傘下の国を率いて、四方八方から攻めてくる。
こっちは金も時間も限りのある高校生だぞ。
完全にイジメだろ、あれ。
まぁ、最終的には勝ったから良いんだけど、俺の現実には相当なダメージを与えてくれたのは言うまでもない。
この戦争の勝利で戦った連合軍側からは多額の賠償金と、俺の小遣いではとても買えない高価なスキルをいくつも手に入れることが出来たし、現在第4軍団を構成しているオルグ族を始め、多くの兵や優秀な人材を寝返らせて登用することもできた。
まさに現在のドラグレイドを創る礎となった戦争である。
だが、代償に俺のクラスカーストは止めを刺された。
俺からすれば大戦争を指揮して勝ったという話だが、LOTをやっていない人からすればただゲームで遊んでいるだけなのだ。
言うまでもなく、この半年戦争の間は特に熱中し過ぎて、過去に例がないほど成績を落とした。
ゲームをしている時の完全睡眠状態は名称に睡眠と書いてあるだけで、けっして休息のための睡眠ではないのだ。
頭は絶えず起きているし、ログアウト後、VR世界での精神的な疲労感は持続している。
半年戦争の間、勝つために、敗けないために軍事、内政、外交、策略とあらゆる方面に頭を使い、脳味噌くたくたの状態で翌日の授業を受ける。そんな毎日を続けていた。
当然、ちゃんと眠っていない体は、授業中よく寝てしまったし、ただでさえ進学校でスピードが速い皇高校で予習復習もちゃんと出来ていない俺は授業中に上手に答える事も出来ず恥ずかしい思いを何度もした。
当然、1学期の期末試験は学年最下位。
夏休み明けの実力考査も最下位。
これまでの人生、学年最下位なんてなった事がなかった俺はけっこうショックだったが、これは完全に俺が悪い。ゲームに夢中で勉強を疎かにし過ぎた。
いや、それ以上にあの当時は自分を過信し過ぎていた。
勉強と部活を上手く両立出来ていた中学時代のように、ちゃんと文遊両立できるだろうと思った。
しかし、それは間違いだった。俺は決して何の努力をしなくても結果が出せる天才ではないし、自分に甘い部分も普通にもっている。
あの人とは違うのだ。
(まぁ、来年はまた受験生だし、LOTもハマり過ぎは要注意だな)
すでに国はゲーム上、最強ランクであるAランク公式認定されたし、国自体は安定期に入ってほのぼのプレイや温泉巡りを満喫中だ。
2年生では今のところ節度をもった生活が出来ていると、自分は思っている。
中学時代を知る里美からすれば、物足りないだろうけど。
「それで、俺が決裁する必要のあるものはあるか?」
「今のところは何もないよ。宰相や財務大臣の裁量で決裁できる案件だったし、それよりもみんなに相談しないといけない重要案件が一つあるかな」
「ん? みんなと相談? 臨時議会を開く必要がある案件ということか?」
「うん。ドラグレイドに救援要請が来ている」
「また『アクアマリンバ』からか……」
ウチは海洋経済国家アクアマリンバという国と同盟関係を結んでいる。
そこは完全に国として終わっていると言うか、海軍以外の陸・空の軍事力を完全にドラグレイドに依存しきっている。
本来であれば、すぐにでも攻め滅ぼせるのだが、向こうの君主は現実世界で凄くお世話になっているので、同盟という形で助けてやっている。
だが、タダではない。貰う物は、しっかり貰いますよ、生徒会長。
だが、シエルは笑いながら手を振った。
「ああ、違う。違う。アクアマリンバからじゃないよ。今回はセントリア王国ってところからだよ」
「セントリア? 聞かない名だな。ランクの低い国か?」
「ボクもそう思って調べてみたけど、無いんだよね。そんな国。恐らく運営がランダムに発生させる公式イベントの可能性が非常に高い」
「公式イベントッ!?」
俺は飛び掛からん勢いで、シエルの話に食いついてしまった。
LOTにおいて、プレイヤーが自らの国の戦力を行使できる機会は3つある。
一つはオンライン上での『戦争』。
これは他プレイヤーとネット回線を通じてオンラインで対戦相手と国境を繋ぎ、戦うことができる。
そして戦争なので、何でもありだ。巨人とか超巨大な魔物なんかも敵国に送り込めるし、スパイを他国に潜り込ませることも可能である。外交、調略、経済封鎖……どんな手段を用いても自由だ。
もう一つは運営が用意するダンジョンを攻略する『ダンジョン戦』。
これもダンジョン内でプレイヤー同士の交流や交戦が可能だが、『戦争』と違うのはダンジョンに入れる人型種族に限られるという縛りがある。これはソード・アート・クロニクルと同じ仕様のものだ。
ただ、あっちと違い、ダンジョンへ一緒に潜る仲間はオンライン上の友達ではなく、自分の配下であるNPCだが。
そして、もう一つ。
それが今、シエルの言った『公式イベント』である。
運営サイドが一連のシナリオを作って、国を挙げてその完結することを目指すものだ。
達成すると報酬が得られるし、ダンジョン戦と異なり他のプレイヤーが入ってくることもないので、稼ぎが減る心配もない。
何より、ストーリーがあって非常に面白い。
プレイヤーからすると良い事尽くしなのだ。
前言撤回。この公式イベントが終わるまで、受験とか忘れよう。
だって、まだ一年以上あるし。
このイベントが終わって、また平和が訪れたら頑張れば良い。
俺は興奮しながら、シエルに命じた。
「シエル。すぐに議会だ。みんなを招集してくれ」
「そう言うと思って、裕一郎がいない間に、召集はかけておきました。いつでも良いよ」
「相変わらず、段取り良いなぁ」
俺は素直に感心する。
ドラグレイドは立憲君主制。
さすがに国王は君臨すれども統治せずではないが、ある程度は定めた法の下で俺の権限が制限されている。
例えば、今みたいに軍を動かす様な重要案件は、必ず議会を開いてみんなの意見を聞かない限りは動かせないように、法で制限している。
何でこんな統治体制を敷いたかは、ゲーム上それ相応のメリットがあると俺が判断したからである。
「よし。じゃあ、さっそく始めよう。皆にもそう伝えてくれ」
俺はさっそく議会招集を臣下達に周知するようにシエルに指示した。