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第5話 異世界国家ドラグレイド2

 シエルの後ろについて歩いていると、周りの様子からやはりお城の中に自分達がいることが分かった。

 里美が珍しい物ばかりの城内に目を奪われていると、ふいに背中をトントンと優しく叩かれる。


「里美」


 里美に話しかけてきたのは、友人のおおとり千晶ちあきだった。

 千晶とは入学式の日に知り合って以来、友達として学校にいる時間のほとんどを一緒に過ごしている。

 肩口で切り揃えられたセミロングヘアと切れ長の怜悧で深慮な瞳が印象的な美少女である。

 身長は157センチ。スレンダーな体型をしており、基本ポーカーフェイスのためか、クールな印象を受ける。

 

 実際、彼女は非常に頭が良かった。

 

 皇高校ではH組という普通科よりも偏差値が3~4点ほど高い特進科で構成されたクラスがあるが、模試や定期試験においては特進科の生徒さえも圧倒しており、実際、学年でも1、2を争う学力を有している。

もちろん、クラスでは財前を押さえて首席である。


「なんか、凄いことになってきたね」


「そうね。これからわたし達どうなるんだろう」


 言葉の割に、里美の表情は普段通りだった。


「あれ? なんか余裕そうじゃん」


「いや、いや、いや。余裕じゃないって。全然」


 里美は照れ笑いする。

 でも確かに、自分でも不思議なほど大きな不安は感じていなかった。

 恐らく、その理由は……


「少なくとも、あのシエルって子はわたし達の味方だって思うから、かな。そこだけは安心して良いような気がする」


 もっとも、それは里美の『直感』でしかなく、何の根拠もないが。


「でも、わたしの第六感ってけっこう当たるから、信頼してくれて良いよ」


「確かに里美って直感で選ぶと高い確率で正解引き当てるもんね。困った時はもう神様、仏様、里美様って感じ。でも、今回に関して、私はまだ安心していない」


「やっぱり、会ったばかりだから?」


 そりゃ、そうだ。

 日本では知らない人についていくなで教わっている。


「まぁ、それもあるのだけど。なんて言うのか、向こうは私達の全員と言わないまでも、ある程度の情報を持っているのは先程からの様子を見ている限り間違いないと思う。しかも、本来、あの子にとって異世界であるはずの日本の事にも通じている様だ。おまけに日本語で意思疎通出来ている事も不思議だ」


「そうなのよね。そこがわたしも疑問で?」


「私が危惧しているのは向こうは幾つかのカードを持っているけど、私達は何も持っていないという点だ。主導権を握られて物事が進んでいるところが、なんとも……」


「確かに……」


「まぁ、だからどうするって事もないけどね」


 現状、何もできないと千晶は判断した。

 だから主張はせず、これ以上のカードを相手に与えず、慎重に物事を見定め考えよう。


 そういうところは、さすがと言うべきか。


 里美はその逆で考えるよりも、まず感情と行動が先にくるタイプだった。


「でも、さっきはさすが里美だったね」


「えっ? さすが、って?」


「石田さんのアレ、里美が指摘したからじゃないの。さっき余計な人員確認を挟んだのは」


「あのさ、千晶だから聞くんだけどさ。わたしって石田さんに何か悪い事したかしら? なんとなく壁があるというか……なんというか……」


 すると、千晶は静かに笑った。


「それは逆に私が聞きたいな。何か思い当たる事は?」


 千晶に逆に聞かれて、里美は額に手を当てる。

 石田と知り合ったのは千晶と同じで高校に入ってからだ。

 それから今日までの間、何かあっただろうか。


 いや、無い。


 むしろ、仲良くおしゃべりした記憶もなかった。


「ダメ。思い当たること、ゼロ」


「だろうね。恐らく、ただの嫉妬だと思うから気にしない方が良いよ」


「うん。そうだよね。ありがとう」


「出来る女は辛いね」


 千晶は笑いながら、肘で里美を突いた。

 学年首席様から出来る女なんて褒められても、ねぇ。


「そうそう。石田さんの続きで、また話を変えるけど、シエルって、あの子。石田いしだ三成みつなりを知ってるんだね」


 千晶はその点に関心していた。


「石田三成って、関ヶ原で家康に敗けた石田三成のこと?」


「うん。三成の官職は治部少輔じぶしょうゆう。だから、大河ドラマなんかで三成を呼ぶ時に『石田治部いしだじぶ』という呼称がよくセリフの中に出てくるから、元の世界に戻れたら聞いてごらんよ」


「へぇ、さすが千晶。物知りだね」


「で、石田さんも三成みたいに真面目で優秀だけど、凄く融通が利かない所があるというか、変に堅いところがあるでしょ。だから、青山君が前、私といる時によく彼女の事を『石田治部』てあだ名で呼んでいたのが、印象に残っていてね。上手いこと付けたなって。まぁ、さすがに、本人には面と向かって言えないけどね」


「へぇ。裕一郎とねぇ」


 釣り針に引っ掛かったとばかりに、千晶はニヤっとする。


「そうだよ。私も歴史は好きだし。青山君も歴史好きでよく話しているよ。里美がいない所で、二人きりでね」


「へ、へぇ。そうだったんだ……」


 面白いほど、里美は顔に現れる。

 顔に出なければ、今みたいに声に出てくる。


「妬いた?」


 すると、今度は顔に出た。

 真っ赤になって、否定する。


「妬いてない。妬いてないっ! 前から何度も言っているけど、わたし達はただの腐れ縁の幼馴染! 千晶が思っているような関係じゃないんだからね!」


 すると、クラスの視線が里美に飛ぶ。

 その様子を、シエルはクスクスと肩を震わせながら、眺めていた。


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