プロローグ
高校生活初の夏季休暇も終わり程よく涼しくなって来た頃。俺達は学校の行事で登山に向かっているバスに揺られていた。ここはいろは坂かよ、と思うほどの曲がりくねった道をバスの運転手が手際よくハンドルを切っているのだろう、かなり速いスピードでバスは進んでいるのが分かった。
所でなぜこの時期に登山に行くのかというと勿論、紅葉が目当てという事もあるだろう、だが実際は夏季休暇でだらけた精神を鍛え直すだとかそういう理由という事だ・・・・本当に迷惑の話である。
「お、おい!勇気」
俺の事を勇気と呼ぶのは幼馴染の三樹 久音だ。幼稚園からなぜか同じクラスになることが多い、まぁ腐れ縁というやつだろう。だがどうしたのどうか?先ほどまで奴はくねくね曲がる道に目を回してグロッキーだったはずなのだ。だが大地震が起きたかのように俺を揺らしてきた。
「勇気!!まじでやばいって!運転手が死んでる。」
???そんな事あるのか?そう思いながらも下り坂のためなのかいつの間にさらに速度が上がっているバスで前の椅子に手を掛けてゆっくり立ち上がる。
・・・まぁ、確かに運転手がもたれ掛かるハンドルを担任の山崎が必死に動かしていた。だが俺にはあった、そう俺はここで死なないと俺のカンが言っているのだ。だから隣で世界の終わりという顔をしている九音に言ってやることにした。
「安心しろよ。運転手どかしてブレーキ踏むだけだろ?まぁとりあえずシートベルトだな。」
「わ、わかった。そうだよな??。」
だが、そんな軽口を叩いたせいなのか、それとも運命だったのか、はたまた担任の山崎の運転技術が稚拙だったからなのか俺たちの乗ったバスは曲がり角のガードレールを突き破り外側へとダイブした。
初めのうちは滑るように動いていたがバスが横倒しになるとバスは転がり始め、その内側は地獄絵図へと変貌する。悲鳴があふれかえり、荷物や人が天井や床に転がるようにぶつかっているのが見えた。なぜだろうか、こんな絶望的な状況にいたっても俺は自分が死なないという絶対的な確信が俺を冷静にさせ『グシャ』。
・・・
う、うーーん。頭の中に『キーーーーン』と甲高い音が響く、シートベルトのおかげで助かったのか手や足の先を動かしながら痛みがないと確認しながらゆっくりと目を開けた。
「!!!。なんだこれ?」
俺たちがいた場所はバスの中ではなく、レンガの様な石でくみ上げられた大部屋の床にきれいに並べて寝かされていた。そしてその周りを兵士と思われる人間たちが槍こちらに向けているのだ。俺が起きたのは3人目だったようでクラスメイトの宮内と井上がガタガタと震えながら体育座りをしているのが見えた。
もしかしてここは地獄の入口で俺たちは全員死んでしまって閻魔様の審判を待っているのだろうか?もしそうなら今すぐに逃げて現世に帰らなければならない・・・だけど部屋のからの出口は1つしか見当たらなかった、向けられた槍を掻い潜って向こう側へ行くことは難しいだろう。それにもし成功したとしても残したクラスメイトたちを置いていくなんてことをしても大丈夫なのだろうか?
結局のところ俺は動くことができずに先に起きていた2人と同じ体育座りをして顔を伏せた。
それから10分くらいたったころだろうか?ひそひそ話が多くなったことで分かったのはクラスの仲間たちは既にかなりの数が目を覚ませているようだ。そのひそひそ話の中でクラスの誰が言ったのかはわからなかったがこの状況に一番しっくりきそうな単語が俺の耳に入る。
「異世界転移だ。」