8.初めての尋問
「まず、持っているもの全部ここに出して」
ソファーの前にある机を指差しながら彼女は最初の指示を出した。素直にポケットに手を入れ、中身を取り出す。ハンカチ、生徒手帳、シャーペン……彼女が警戒するような変なものは持ち合わせていない、そう頭の中で理解している筈だが俺の喉元には、常に刃渡り80センチほどの両刃剣が添えられている。動きがどうしても鈍くなってしまう。ゆっくりとした動作でズボンの左右のポケット、学ランの右ポケット、そして左ポケットに手を入れた時だった。
「……ん?」
身に覚えのない冷たい感触が指先に伝わる。摘んで取り出してみると、ビー玉ほどの大きさの球体の石であった。海を抜き取ったかのような青色を持つその石はシャンデリアの光を反射してライトブルーの輝きを放っていた。一先ずそれも一緒に置いておく。
「なんですか、それ?」
彼女が俺と同じ疑問を抱く。
「わからない、いつのまにか入ってた」
「ふーん……」
興味があるのか指先で摘まみ取ってまじまじと観察する。それでも剣先はしっかりと喉元を捉えているのだから恐ろしい。石に興味が移っているせいか、剣が少しずつずれているのだ。首を動かして回避する。死んじゃう、死んじゃう。
「なんだろ?これ?…取り敢えずこれは一旦預かりますよ?」
いいですね?と、聞いてきたので勿論了承しておく。彼女がそれをポケットの中に入れる直前まで俺の視線はその石に釘付けだった。どこかで見たような気がしてならなかったのだ。
やり場のない感情に鬱々としたが、どうしようもないことだ、と吹っ切れておく。今はそれどころではない。
「……変な物はないみたいだね」
内ポケットの隅々まで探り尽くしたが石以外に変な物は出てこなかった。つい数時間前まで普通の学生だったのだ。当然といけば当然である。
その後、十数分に渡って尋問は行われた。といっても、回答に困るようなことはなかった。この国と敵対するつもりはあるか、これらの国の内知っているものはあるか、等の「国家関係」についての質問が多かった気がする。そもそも1つとして存知していないので正直に知らない、と答えておいた。それを聞いた時の彼女のどこか安心したような表情がやけに頭にこびり付いた。
「これで尋問はおしまいです。ごめんね、こんな脅しみたいなことして」
武器を鞘に納め、心咎めた顔で俺の私物を返してきた。尋問の経験自体が初めてなのか凄く申し訳なさそうな表情であった。
「いや、決まりなんだろ?だったら仕方ないよ。ただ……」
「ただ?」
「尋問中に視線をずらさないで欲しい。喉元切り裂かないかひやひやするから……」
「あ……ごめんね」
ぶっちゃけ、あれはもう死んだと思った。もう二度と経験したくない。
「まぁ、それはそうと……」
彼女はんっ、と小さな咳払いを一回して場を切り替えた。
「え?まだ何かあるのか?」
「あるよ?といってもあと2つだけだけどね」
「えぇぇ……」
「だけ」ではなく「も」の間違いではないだろうか。あと2つ「も」こんな脅しがあるのか。
「大丈夫だよ。身分証の発行とちょっと偉い人と話してもらうだけだから」
後者の方は全く大丈夫ではない。なにがどうなったらそんなことになるのか。この国の礼儀や作法など知るわけがない。知らず知らずのうちに無礼をはたらいて処刑、などの笑えない結末など迎えたくもない。
「はぁあぁ……」
今日1番の溜息をついて、まだまだ苦労しそうだ、と意気消沈した。