6.二人三脚
「うおっ!」
「きゃ!」
木の根に躓き、何度目かわからない転倒をする。当然、支えていた彼女もつられて転んでしまう。
あの後、場所を変えるべく移動を開始した俺たちであったが20分ほど歩いてもほとんど進めていなかった。体感的には数百メートルくらいだ。彼女治療のおかげで痛みは引いたものの、完治したわけではないので折れてしまった腕や足は上手く動かせないのだ。彼女の言った通り、痛み止めの効果しかないようだ。肩を支えてもらいながらここまで進んできたが、バランスの取れない俺は何度も転倒してしまい、その度に彼女も巻き込んでしまっていた。彼女の服のあちこちに汚れがついてしまっている。
「……何度もごめん」
「大丈夫、気にしないで。まだ歩ける?」
「……なんとか」
彼女曰く、あと数キロで森を抜けられるとのことなので、既に限界を迎えている足を気合いで動かす。
「少し聞きたいんだけど……」
更に数百メートル移動したところで無言の気まずさに耐えかねた俺が口を開いた。
「どうして見ず知らずの俺にここまでしてくれるんだ?その……自分で言うのもなんだけど、君の中での俺の立ち位置って……不審者だろ?」
すると彼女はくすりと笑った。至って真面目な質問ををしたつもりだったのだが……。
「もしあなたが本当に変な人だったらあの熊と一緒に殺してたよ?」
ふふっ、と微笑む彼女のを横目に眺めながら変な人じゃなくてよかったと心底思う。あの熊のようには……死んでもなりたくない。考えただけでもぞっとするようなことを暴露した彼女が続けて口を開く。
「私ね、人の本質を見抜くスキルを持ってるんだ。100パーセント正確か、って聞かれたらそうじゃないけど……。あなたは大丈夫。断言できるよ」
「スキル」……ビジネススキルとかそういったものがパッと頭をよぎるが、それとはまた少し意味合いが異なるものだろう。彼女の言う「スキル」は、俺からしてみればゲームでよく聞くそれに近い気がする。
「どうして断言できるの?」
俺の質問に対して、彼女は少しだけ考えてから答えた。
「勘……かな」
彼女は小さくドヤ顔を浮かべ、なんのためらいもなくそう断言した。勘で人を信用する彼女の将来を心配すべきか、問題ない安心できる人と判断されたことを喜ぶべきなのか。呆れた表情をしているとそれに気づいた彼女が慌てて付け加えた。
「言っとくけどいつもこうしてるわけじゃないからね?」
「……なんだ、それなら良かった」
小さく安堵のため息を吐く。ほんの少しだけ、彼女との距離感を近づけられた気がした。
「この辺なら……いけるかな?」
しばらく歩いた後に立ち止まった彼女が呟く。ここに辿り着くまで約30分。もうそろそろ彼女が言った距離に差しあたるころだった。しかし、広がるのは先程となんら変わらない巨木の数々であり、出口など見当たらない。それどころかますます深い地点に潜り込んでしまった気もする。ただでさえ大きい周囲の木が更に巨大化していた。
「……うん。いけるね」
「えっ?いけるって、どうゆ……」
「じゃ、いくよ?」
俺の口よりも彼女の口の方が早く動いた。また何かをボソリと呟いたと思った束の間、彼女の周りにライトイエローの円形の紋様が現れた。
やっぱり、ここは……。
2つの太陽、瞬間的な治癒、「スキル」というワード、そしてこの紋様。俺の中で渦巻いていた疑問の種がほんの僅かに発芽した。ような気がした。