43.残された者達
気がついたら最終投稿から1ヶ月以上経ってる…。時間が過ぎるのが早いですね…笑笑
『……今回の集団拉致事件。犯人の人物像や犯行手段はどういったのもだとお考えでしょうか?』
テレビの中で、キャスターがゲスト出演者であるいかにも何かに精通していそうな見た目の老人に話しかけている。確か……元刑事とかだったはずだ。
『そうですね……。現段階で最有力候補となるのは、生徒たちと一緒に消えた教員だと私は考えています。しかし、生徒24人を誰にも見つからずに、かつ誰にも逃げられずに拉致するなどという芸当はまず1人ではできないでしょう。協力者がいるはずです』
『ネット上では背後に巨大な犯罪組織がいるのでは、という見解もありますが、その件についてはどうお考えですか?』
キャスターからの連続した質問に老人はひと息吐いてから答えた。
『可能性は0ではないでしょうね。1人2人を拉致するならまだしも、24人ですよ?難易度が天と地ほど違うでしょうし、教室に残された痕跡の件もあります』
老人が話している間に、スタジオ内のモニターに円形の文様が刻み込まれた教室の写真が映る。
『これですね。仮になんらかの組織がこの事件に関わっていたとしたら、この文様はやはり犯行声明と考えられるのでしょうか?』
『そうですね。……しかし、この文様を使用している犯罪組織が全く見つからないんですよ。防犯カメラにも何も映ってないですし、目撃情報も一切ないようですしね』
『それでは……、警察はまだ何も手掛かりを掴めていない、ということでしょうか?』
キャスターの核心をついた質問に老人は少し悩んでからゆっくりと頷いた。
『私の知りうる限りでは、ですけどね。もしかしたら何か掴んでいて、それがまだ未確定だから公開できないだけかもしれませんが……』
『そう信じたいですね。……引き続き最新情報が入り次第、お伝えいたします。それでは、次のニュー……』
と、そこでテレビの電源を切る。ここひと月、このニュースを見ない日はない。
突如姿を消した高校生と教員、総勢24名。付近の防犯カメラには登校時の姿しか映っておらず、それ以降の目撃情報は0。犯人も犯行目的も犯行手段も悉くが不明のこの事件に、ネット上では政府の陰謀論やエイリアン説が飛び出すほどの大騒ぎだった。
私の兄もこの事件によって行方不明になってしまった被害者の1人だ。朝が苦手な私は、兄が家を出る時の玄関の扉の音を、自室のベッドの中でぼんやりとした意識の中で聞いていた。兄が用意してくれていた朝食を食べて、特に何かをするわけでもなくただリビングで寝転がりながら兄の帰りを待っていた。
しかし、兄が帰ってくることはなかった。
昼過ぎには戻る、と書かれていたメモを何度も何度も読み返しながら兄の帰りを待っていたが、兄は帰ってくるどころか連絡ひとつつかなかった。
まめな兄のことである。遅れるなら連絡のひとつくらい寄越すはずだ。それすらないという状況に、私は次第に不安になっていった。
事態が動いたのはそれから3時間後、午後9時頃のことだった。
インターホンの音が部屋中に響き、私のぼんやりとした意識を覚醒させた。
兄さんが帰ってきた!!
そう信じて疑わずに玄関の扉を勢いよく開くと、そこにいたのは見慣れた天然パーマに和やかな表情をした兄ではなく、神妙な面持ちの警官2人だった。
「夜分すいません。千葉県警です。妹さん……かな?お兄さん……神城周くんは帰ってきてるかな?」
そこで私の脳内はもう手のつけようがないほどのパニック状況になった。
事件!?事故!?何かに巻き込まれたの!?兄さんは無事なの!?
不吉な言葉が無数に浮かんでくる。
「あのー……大丈夫ですか?」
固まっている私を心配したのか、もう1人の警官が優しく話しかけてきた。
そこでようやく私は少しだけだが、落ち着くことができた。大きく深呼吸してから警官の質問に答える。
「大丈夫です。すいません、少し……パニックになってました。兄はまだ帰ってきてませんが……」
それを聞いて警官は互いに顔を見合わせて、「ここもか……」と呟いた。
「あの……何かあったんですか?」
兄の無事を祈りつつ、恐る恐る警官に訊ねる。
そこで警官から告げられたのは、兄を含む24人が行方不明になった、という信じ難い、信じたくない事実だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いってきまーす」
それからひと月たった今でもなお、事件は全く進展を見せない。世間ではこの話題で持ちきりだが、それ以外は特に何かが変わったわけでもなく、今は私もこうして普段通りに学校に通っている。
「いってらっしゃい」
玄関の扉を開き切ったところで母が送り出しに来る。普段はアメリカで働いている両親は事件後に飛んで帰ってきた。その後、どちらかが私のケアと情報収集をするために日本に常に滞在する、ということになったらしく、今は母と2人暮らしだ。
「大丈夫?無理しなくてもいいのよ?」
母が心配そうに訊ねてくる。事件直後はショックで学校に通えるような精神状態ではなかった上に、マスコミが連日連夜押し寄せていたということもあり、私は2週間ほど学校を休んでいた。しかし、ただでさえ入院していて授業に遅れているのに、これ以上遅れるのはさすがにまずい、と精神状態もマスコミの襲来も落ち着いた今は元通りの日々を送っている。それでも親心としてはまだまだ不安なのか、こうして毎日のように訊ねてきているのだ。
「大丈夫だよ、お母さん。それにいつまでもくよくよしてても仕方ないしね!」
母の不安を払拭しようと、私はできうる最大の笑顔を作った。それを見た母の表情が少し緩む。
「それもそうね。周は強いから並大抵のことじゃなきゃ大丈夫よね」
「そうだよ!兄さんは強いんだもの。絶対生きてる!」
実際、兄は強い。私の身体の丈夫さをの殆どは、兄に持っていかれてしまったのではないか、と思えるほどだ。そんな兄だからこそ、「確実に生きている」と宣言できる自信があった。
「じゃあ、私そろそろ行くね」
そう言うと、母は笑顔で頷いた。玄関を飛び出し外に出て、ゆっくりと閉じゆく扉の向こう側で手を振る母に向かって手を大きく振り返す。残り蝉の鳴き声がまだ少し煩い。しかし、木々は徐々に秋色に染まりつつある。そんな景色を眺めながら、私は学校へと歩みを進めるのだった。




