40.神城周:スキル No.1
護衛訓練。
状況設定は深夜、野宿をしているときに襲撃者複数名に襲われたというもの。護衛チームは護衛対象(今回は7人の騎士が交代で担当)を守りつつ、襲撃者全員を撃退、または捕縛することが勝利条件。襲撃チームは護衛チームの無力化、または護衛対象への接触が勝利条件となる。
……なお、護衛チームは神城周1名で固定とする。
それが、この合同訓練の内容だった。
「…………」
「いいのか?1人で」
護衛対象となった1人目の騎士と簡単な打ち合わせをした後、武器の手入れをしているときにクロスが話しかけてきた。
「大丈夫です。レイアの護衛を続けるならこれくらい出来なきゃいけないので」
「はっはっは、いい心がけだな。今後も目立つのを避けるために、レイアにはお前以外の護衛は基本つけられない」
護衛でがちがちに守りを固めると、襲撃の危険性はぐっと減る。しかし、その分人件費は嵩むし、国の裏部隊(暗殺部隊や諜報部隊など)といったような人物が動く恐れが高まる。各国のスパイはそういった重要人物の移動には敏感なのだ。
だが、その分少数での移動には注意が向きにくい。王女がまさかたった1人の護衛(仮)と行動しているとは思いもしないだろう。仮に知ったとしても、「そんな馬鹿なことをするはずがない」と大抵はスルーされる。その上、レイアの外出中は「コピードール」という魔道具を使って彼女そっくりの人形を設置するのだ。かなり高精度なもののため、なんとなくの雰囲気や魔力の質もほとんど同じくだし、簡単な受け答えや運動もできる。そして、このことを知っているのは、俺、ラディア、クロス、レオナを含めた極一部の重要人物のみという徹底ぶりだ。
そして、さらに保険をかけるために行われるのが今回の合同訓練。
「わかってるな?万が一、国レベルの部隊に襲撃された場合、守れるのはお前だけということになる」
鋭い目つきで俺を見つめてくるクロスに、わかってると言わんばかりに睨み返してやる。
「……スキルや魔法も好きに使っていい。レオナが結界を張るから多少の攻撃じゃ傷1つつかないし、内部では死なない程度に衝撃が軽減される」
そして、クロスは手入れを終えて立ちあがろうとした俺の背中をバシンッと叩いた。普段は痛みが強いが、今回は期待と鼓舞の感情が伝わってきた気がした。
「頑張れよ、シュウ!!」
「……はいっ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
護衛チーム、襲撃者チーム双方が配置につき、もうまもなく訓練が始まる。
「スゥーーー…………ハァーーー………」
これまでは上昇し続けるステータスや適合率に身体が追いつかず、無理をすると酷い筋肉痛や怪我に繋がった。それを避けるためにオンとオフをはっきりと分け、基本8割ほどの力で対応するようにしていた。
「スゥーーーーーーーー…………ハァーーーーーー………」
徐々に呼吸が長くなり、身体に熱が篭り始める。血が指の先端まで流れる感覚が明確にわかるようになる。
今日からは……その制限を外す……!!
おそらく明日は恐ろしいほどの痛みに襲われるだろうが、その辺はリナなどに事前に話し、手を打ってある。
今回の目標は「自分が出せる全力」を理解し、それをコントロールできるようになることだ。
「準備はいい〜?」
邪魔にならないよう観戦席から審判を務めるレオナが声をかける。双方がこれに頷く。
スタートはレオナの結界が完全に完成したらーーー!!
事前に説明されたルールを思い出しつつ、開始と同時に魔法が使えるよう準備を始める。
それと並行してレオナの発動した結界も円状の訓練場を覆うように展開し始めた。
まるで硝子のような六角形のブロック状の結界が1枚1枚繋がり、徐々にドーム状の形を作り上げていく。
そして、2つの太陽の真下でそれが繋がった瞬間ーーー。
《無属性魔法ーーー天真の羽衣》
《無属性魔法ーーーフルブースト》
俺が最も得意とする身体強化魔法を2つ同時にかける。
相手側も行動を開始し、剣と盾を持った男と槍を持った男2人が俺に向かって駆け出した。その後方では大盾を持った男が女性の魔術師2人を守っている。前3人、後ろ3人のバランスの取れた攻撃スタイルだ。前3人は剣と盾を持った男を中心にV字隊列を組んで俺に向かってくる。
「今だっ!!撃てぇっ!!」
俺との距離が10メートルほどまで縮まったところで剣と盾を持った男が叫んだ。どうやらこの人がリーダー格のようだ。
その声の直後、彼らの後方から炎を纏った槍と水の弾丸が俺目掛けて飛んできた。俺の記憶が正しければこれらは《火魔法ーーーフレイムスピア》と《水魔法ーーーアクアバレット》のはずだ。
そして、これらの魔法を同時に使ってくるということはーーー。
水蒸気爆発狙いか!?
水蒸気爆発とは、非常に高い温度の物質と接触することによって、水が気化されて発生する爆発現象のことだ。
2つの魔法の着弾点はおそらく俺か、俺の目前。魔法の威力を調整すれば、圧倒的破壊力を生み出すことも、視界を塞ぐことだけを目的に使うことも出来るだろう。
させないーーー!!
剣に魔力を纏わせる。滅神竜戦で壊れてしまった銀剣の後継に選ばれたのは、強度、耐久面で上をゆくミスリル素材の剣だ。そして、この武器の特色の1つは魔力を非常によく通すことだ。
そのため、このような使い方ができる。
ボボボボンッ!!
「「「なっ!?」」」
前衛3人のほとんど真上で突如2つの魔法が弾ける。小規模だが水蒸気爆発が起こり、白い煙が視界を遮る。
破壊されたとしても魔法自体の性質はある程度残る。高温の炎と水、魔法の発動中は近くにあっても爆発を起こすことはない(勿論例外はあるが……)。イメージとしては魔法自体が薄い膜に覆われているといった感じだろう。着弾することでその膜が破れ、爆発を起こす。
俺がしたのは、その膜を破壊する魔法だ。
剣に魔力を纏わせ、不可視の斬撃として放つ。
《無属性魔法ーーー飛刃》
ミスリルの刃から滑るように放たれた不可視の斬撃は、先頭の炎の槍と水の弾丸に当たり、爆発。そこから連鎖して後続の魔法も爆発を起こした。
「くそっ、何も見えないぞ!!」
「狼狽えるなっ!ひと塊になれ!後衛が風魔法で払ってくれる!!」
リーダーの声に従って騎士たちが動き、ガチャガチャという金属音が耳に入る。当然だが、この白い水蒸気の煙の中で彼らがどのように動いているのか、俺には全くわからない。
だが、煙の及ばない範囲ならーーー。
煙を避け、一気に後衛の騎士までの距離を詰める。
風魔法の詠唱をしている魔導士2人はまだ俺の接近に気づいていなかったが、2人を守る大盾を持った男の騎士はいち早く気配を感じ取ったようだ。自ら前に飛び出し、重量感のある鎧と盾でどっしりと構える。
いけるーーー!!
防御体制を取る騎士に向かって近づく。剣を持った右腕を引き、前傾姿勢になって加速。さらに魔力を腕と足に纏って威力を強化する。
《無属性魔法ーーーバーストブースト》
《無属性魔法ーーーアクセルブースト》
計4つの補助魔法をかけ、爆発的な勢いで大盾を持った騎士に突進する。
「う……ぉぉぉぁぉおおぉぉっ!!」
雄叫びをあげながら全力で剣を突き出す。剣先が大盾の中央部に突き刺さる。
「う……ぉっ!?」
大盾を持った騎士が小さく悲鳴をあげる。まるで自動車同士がぶつかったかのような炸裂音が轟き、そしてーーー。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「ふぇ?ふぇぇぇぇぇぇぇえ!?」
大盾を持った騎士の身体が宙に浮き、大きく後方へ弾き飛ばされた。魔法詠唱中の魔導士の1人がそれに気づき、絶叫する。
「ちょ!?まっ……!?」
ガシャーンッ!と重量感のある男の身体が悲鳴をあげた魔導士と衝突した。そのすぐ横にいたもう1人の魔道士も、何が起きたのかわからず、混乱して口を開いた状態で佇んでいる。
そんな隙だらけの姿を見逃すわけもなく、俺は地面を力強く蹴った。もう1人の魔道士も咄嗟に短剣を取り出して防御の構えを取る。
だが、もう遅い。
ーーー六葉流剣術 居合!!
胴体に一閃。今出せる限界まで上昇させた身体能力で放った一撃は、まさに神速と言えるものだった。
結局、最後の魔導士は終始何が起きたかを理解する間もなく、意識を手放す結果となった。




