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色なし勇者の戦い方  作者: Momiji.FS
第1章
36/43

35.神城周、魔法を斬る

 あれから更に3日たった。


 限定的だった智風との模擬戦も、次第に実戦形式のものに変わっていった。


 魔法が解禁されてからの智風は、まるで別人のような強さを発揮していた。風魔法を得意とする智風は、風圧で俺の動きを制限したり、風の刃を無数に放ってきたりと俺との近接戦を避けるような立ち回りを見せていた。


「風魔法……疾風の風蛇っ!」


 智風が素早く、正確な詠唱で風を纏った大蛇を生み出す。彼を守るようにどぐろを巻いている大蛇は、対峙する俺を突き刺すような鋭い眼光睨みつける。


「いけっ……!!」


 そして、合図とともに勢いよく襲いかかってきた。回避は間に合わない。咄嗟に木刀でいなして軌道をずらす。しかし、またすぐにずれた体制を立て直すと再び顎を大きく開いて襲いかかってきた。


「……ふぅーーっ!!」


 大きく深呼吸をして2撃目に備える。木刀を下ろし、足幅を広げてどっしりと構える。構えが終わる頃には、風の大蛇はもう俺の目と鼻の先にまで迫っていた。


 《風魔法ーーー疾風の大蛇》は風を具現化し、大蛇として顕現させる魔法だ。比較的高威力かつ高速の攻撃が可能で、消費魔力も智風の総魔力量からしてみれば、かなり燃費がいい。彼の攻撃の主軸となる魔法だ。魔法を受ける側としての体感は、「リーチが十数メートルある槍を高速で何度も投げられている」感じだ。


 だが、これを槍だと思えば対処法も自然と思い浮かぶ。槍というのは「突くこと」に特化した武器だ。長いリーチも相まって正面からの突き合いにはめっぽう強い。しかしーーー。


「せぁっ……!!」


 木刀に魔力を付与する。これで魔法とも少しは撃ち合えるようになる。そして、正面から迫ってきていた風の大蛇を身体を横に逸らして交わし、すれ違いざまに胴体に斬撃を見舞う。


 槍は……横からの衝撃に弱い……!!


 胴体を半分に切断された大蛇は数メートル離れた煉瓦の壁にぶつかり、土埃をあげたのちに消滅した。


 攻めるなら……今っ!!


 防御手段を失った智風の胴体目掛けて、俺は一気に駆け出した。地面を思いっきり踏んで一瞬で加速。今度は俺自身が智風の目と鼻の先にまで迫る。そして、その勢いに任せて木刀を振るう。智風も俺の動きに合わせて後ろに下がりながら木刀を引き抜き、それを受け止めた。


 次の瞬間、上から押しつぶされそうなほど強い風が俺を押さえつけた。やむなく攻撃を中断し、大きく後ろへ跳ぶ。


「詠唱省略か……」


 今のは確か《風魔法ーーーダウンバースト》という魔法だったはずだ。下降気流を起こして相手の動きを制限する、といった効果だったと記憶している。


 魔法の発動方法は大きく3種類ある。


 1つ目は魔法ごとに決まった呪文を詠唱して発動させる方法。これはしっかり呪文を発音することによって、発動が安易になり、効果も安定する。


 2つ目は詠唱を省略して魔法を発動させる方法。これは相手の意表を突くことができるが、成功率が低く、安定もしづらい。安定させるには相当な修練が必要だ。


 3つ目は道具によって魔法を発動させる方法。これは適性のない属性の魔法も使用可能になるが、使える場面が限定的で使用回数に上限がある。


 一般的に戦闘で用いられるのは1つ目と2つ目。3つ目は主に日常生活の補助として使われるのがほとんどだ(ライターや懐中電灯などに使われる)。


 難易度が高い魔法ほど1つ目の方法での発動が推奨される。俺は基本的に発動が安易な無属性魔法しか使えないので、大抵は詠唱省略、漫画などでよく見る無詠唱で発動させている。


 それは智風も同じで、簡単な魔法なら無詠唱でも発動でき、風魔法に至っては中級クラスの魔法もいくつか入ってくる。


 魔法が加わるだけでここまで強くなるとは、正直思っていなかった。


「神城くん!大技……いくよ!」


 わざわざ宣言してくれるあたり、智風の優しさが滲み出ている。訓練とはいえども、実戦を想定したものなのだから、遠慮は不要だというのに……。


 無言で迎撃の構えを取り、承諾の代わりとする。


 流れるように滑らかな詠唱が耳に入る。智風を中心に風の渦ができ始め、徐々にその姿を変えていく。そして、全ての詠唱を終えた彼の周りを守っていたのは、先ほどとは比べ物にならないほど巨大な大蛇だった。それも複数いる。


「いつの間に……!?」


 俺も初めて見る魔法だ。込められた魔力量がその威力を物語っている。間違いなく彼が使える中でも最高威力の魔法だ。ただの攻撃魔法のはずなのに、圧倒的な王者の目の前に立たされているかのような錯覚に陥る。それほどの圧が肌身に伝わっている。


「来いっ!!」


 そう叫ぶと同時に、体内の魔力の流れを全開にして、身体能力を限度ぎりぎりまで上昇させる。身体全体を覆うように魔力を纏い、衝撃に備える。


 《無属性魔法ーーー天真の羽衣》


 俺から溢れ出し、周囲を漂っていた魔力が純白の羽衣となって俺を包み込む。やや半透明の羽衣は、大小2つの太陽からの光を浴びて輝き、よりその神々しさを増す。


 《無属性魔法ーーー天真の羽衣》は俺が生み出した新しい無属性魔法の1つだ。魔力の形状を操作し、羽衣状にして纏うことで体内で行なっている身体強化の効果を跳ね上げることができる。また、ある程度の魔法なら纏っている魔力に沿って受け流すことができる。まぁ、あの魔法に対してはほぼ無力だろうが……。


 今の俺が出せる、全力……!!


 俺が《天真の羽衣》を纏い終わるのとほぼ同時に智風が周囲の大蛇たちに指示を出した。


「風魔法……八岐大蛇っ!!」


 8体の大蛇は四方八方から俺の逃げ場をなくすようにしながら、《疾風の大蛇》のよりも圧倒的に速い速度で向かってくる。


 ーーー六葉流剣術 十八式 連の構え


 大きく息を吸って集中力を限界まで高める。


 ーーー桜花爛漫!!


 正面から1番初めに攻撃してきた大蛇に下段からの斬り上げ、次は中段の1回転斬り、その次は前、その次は後ろ、その次は右、その次は左。肺が潰れそうなほど素早い連撃で俺は動き、木刀を振るい続ける。


 斬られてもすぐに再生して何事もなかったかのように襲いかかってくる大蛇の攻撃が何度か身体をかすめる。身体がどんどん熱くなり、次第に世界がスローモーションで進んでいるかのような感覚に陥る。


 木刀を振る速度が上がる。大蛇たちの攻撃は俺の捉えることすらできなくなる。足運びが軽やかになり、渓流を流れる水のように滑らかに動ける。もはや痛みも辛さも感じない。


 個々での攻撃は不可能と判断した智風が、8体全ての大蛇を一瞬たりとも狂わぬタイミングで同時に向かわせてきた。1体1体が真横を動くときにすら、切り傷ができるほどの突風が吹く。そんなものが8体同時に襲いかかってくれば、それはもう小規模の竜巻クラスになる。その中央にいる俺は、もう逃げ出すことはできない。


 ならば、返り討ちにするまで……!!


 ーーー六葉流 奥義


 銀色の鱗が太陽光を反射して輝く。長く、鋭い2本の大牙を持つ大蛇たちが目の前に迫る。


 ーーー画竜点睛!!


 俺の渾身の横回転斬撃は、暴風の大蛇さえも飲み込む乱風を生み出した。纏わせた魔力がリーチを伸ばし、その身体を再生不能なまでに斬り刻む。俺自身が竜巻になったかのような感じだ。その威力は少し離れたところにいる智風にまで届き、風が収まったときには、訓練場の壁にもたれかかるようにして気絶していた。


ようやく小説のための時間が取れそうです……。

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