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色なし勇者の戦い方  作者: Momiji.FS
第1章
34/43

34.帰還、そして新しい仲間

 日が出ているにもかかわらず少し薄暗い広い廊下を歩く。何人かの召使いや装飾された武具を身につけて巡回する警備兵と軽く挨拶を交わしながら、俺はある部屋を目指していた。


「最近毎日来てる気がするなぁ……」


 目の前の巨大な扉の前で佇みながら小さく呟いた。


 ちなみに、俺が今いるのはラディア、国王の部屋の前ではない。あの部屋の扉もこの部屋同様とてつもない大きなだったのは間違いないが、こちらの扉は比較的装飾が控えめである。扉には右手に杖を、左手に魔導書を持った賢者を彷彿とさせる1人の男が、窓から入り込む少ない光に照らされてどこか神々しい雰囲気を醸しだいている。


 もうなんとかくわかった人もいるのではないだろうか。俺が今いるのは王都1の規模とされる超巨大図書館の前である。多くの歴史書や魔導書が保存されており、最古の物だと保護魔法で何重にも守らなければ保存できない物もある。日光が避けられているのも劣化を防ぐためだ。


 俺が異世界に来てからしばらくこの図書館で籠っていたように、「彼」もまた同様に引きこもっていた。読むのに夢中になり過ぎて食事を忘れてしまい、俺や使用人が運んでやることもしばしばだ。


 そんな「彼」は今日も変わらず、午前と昼食後2時間程度の魔法訓練を終えた後はこの図書館に一直線であった。


 年季のある扉をゆっくりと押して開いて中に入る。青白く光る魔光石が広大な図書館内を薄らと照らしている。その中に唯一、明るく輝く蛍光色の魔光石のランプを見つけ、静かに近づく。


 高く積み上げられた本に囲まれて「彼」こと智風悠真が、まさに「本の虫」となって歴史書やら魔導書やらを読み漁っていた。


「智風、やっぱりここにいたか」


 ある程度近づいたところでそっと智風に声をかける。それでも彼は肩をぴくっとさせてこちらに顔を上げた。


「えっ!?神城くん?いつからそこに?」


「ついさっき入ってきたばっかりだよ。音で気付くかなぁって思ったんだけど……」


「ごめん。また気づかなかったよ……」


 こんなやりとりをここ最近毎日している。智風は1度集中モードに入ってしまうと周囲が見えなくなってしまう。呆れ顔を浮かべつつ、またいつもの質問をする。


「今日は何読んでるんだ?」


「今日は風魔法の魔導書を読んでるよ。面白そうなのがいくつか見つかったから明日試してみようと思ってるんだ」


 そう言って魔導書を持ち上げると、その下には使えそうな魔法をリストアップしたノートがあった。


「見てみる?」と差し出してきたそのノートをパラパラとめくる。風魔法のまとめだけで既に20ページ以上、100近い魔法が書き留められている。基本形の超簡単魔法から発展形の超高難度魔法まで、その効果と発動法、詠唱などが細かく書かれている。


「いいなぁ。智風は適性多くて……」


 智風の魔法適性は火、水、風、土、光、無の6つ、更に特殊魔法の適性が4つあるのだ。無属性しか使えない俺からしてみれば、羨ましいことこの上ない。


「神城くんだって無属性魔法の扱いは最高級じゃないか」


 落ち込む俺を励ますように智風が言う。


「でもさぁ、魔法だぜ?手から火炎放射出したり、指パッチンしたら雷落ちたりとかさぁ。厨二心くすぐられるじゃん?」


 誰もが憧れたことがあるはずだ。魔法が使えたらどれだけ便利な生活が送れるか。凡魔法学校映画のような戦いをする自身を妄想したことがある人も少なくはないだろう。やはり、魔法の定番といえば「手からファイヤー」である。それができる智風を羨ましがりながら、俺は不貞腐れたように頬を膨らませた。


「ははは……。なんかごめんね……」


 苦笑いを浮かべながら謝ってくる智風に「愚痴ってるだけだから気にするな」と伝える。だが、羨ましいのは事実だ。


 しばらくそうして話し込んでいると、図書館の扉を開くときに鳴るギィ〜という音が聞こえ、俺たちは扉に視線を向けた。


「やぁやぁ、やってるねぇ。少年たちよ」


 扉の方から幼い少女が左腕に分厚い魔導書を数冊抱え、空いた右手を振りながらこちらに近寄って来た。見た目と話し方のギャップが凄まじまい。


「あ、先生!こんにちは」


 真っ先に気づいた智風が立ち上がって一礼する。


「先生」と呼ばれた少女は満足げにそれを制しながら、智風が使っている机のまだ空いているスペースに魔導書を置いた。そして、智風の隣に移動して横からノートを覗き込んだ。


「ほーほー、なかなかいい魔法に目をつけてるねぇ、智風くん」


「明日からこの辺の魔法を練習したいんですが……」


「いーよいーよ。ビシバシ鍛えてあげるからねぇ〜」


 そう言いながら上機嫌に智風の背中を叩く少女と、嬉しいような困ったような表情を浮かべる智風を眺めながら、完全に挨拶の機会を失った俺はその場に佇んでいた。


「あのー……レオナさん?」


「あ、シュウくん。いたの〜?全然気がつかなかったよ〜」


「アハハ……」


 彼女の名前はレオナ•フォン•リガード。こんな見た目だが、クロスと並ぶこの国の騎士団長の1人である。身長は130センチを少し超えるほど。国内に数万人といる騎士団員を取りまとめる団長の1人がこんな小さな女の子だとは誰も思わないだろう。体格大きいクロスと並んで立つと、ますますその小ささが際立つ。


 こんな小さな体に合う騎士団用コートは存在しないため、彼女が今着ているのはオーダーメイドの超高級品のものである。デザイン的にはほとんど同じなため、別に問題はないそうだ。


 この国の騎士団は大きく2つに分類される。1つはは近距離戦闘をメインとする剣士隊。もうひとつは中•遠距離戦闘をメインとする魔法隊だ。当然、全ての騎士がこれらの分類にぴったり当てはまるわけではないが、基本的にこの分別法で自分の所属が決まる。


 聖剣騎士団団長•剣士隊大隊長 クロス•ヴォルド

 聖剣騎士団団長•魔法隊大隊長 レオナ•フォン•リガード


 この2人が言わば国防の要なのである。


 そんな聖剣国最強の2人に訓練の相手をしてもらえる俺たちはかなり幸運なのだろう。


「シュウくんも明日おいで〜。対人戦の訓練も智風くんにさせときたいから」


「わかりました。9時からですよね?」


 智風がどれくらい魔法を使いこなせるようになったのか、興味が湧いた俺はすぐさまレオナの誘いを承諾した。


「うん。準備もあるから少し早めに来てね」


 そう言うと、彼女は「またねー」と手を振りながら図書館を出て行った。本当に何度見ても小学生くらいにしか見えない。


「レオナさんの実年齢ってどれくらいなんだろう……」


 智風が見終わった魔導書を閉じながら、ふと思いついたことのように呟いた。俺より一緒にいる時間の長い智風もそれは知らないらしい。


「さぁ?けど、クロスさんはそんなに歳は離れてないって言ってた」


「クロスさん……あぁ、剣士隊大隊長のあの筋肉の人?」


 筋肉の人って……。


 小さく笑いながら首を縦に振る。


「うん。もう1人の団長。あの人は28だって」


「ってことはレオナさんは20代後半くらいってことか……」


 数秒の沈黙。その後に……。


「「見えねー……」」


 俺と智風は同時に言葉をこぼすのだった。





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