30.「古龍と光の勇者」
昔々。
まだ、竜たちが地上を支配していた時代。
人類は地下や洞窟に住み、竜たちの目から逃げるようにして暮らしていた。
洞窟内に羊や牛を飼い、魔法を使って野菜を育て、極力外に出ないようにしていた。
そんな生活を人々は当たり前だと思っていたし、疑問にも思わなかった。
絶対的な力を持つ竜たち。特に”古龍”と呼ばれる生物に、人間は敵わない、と誰もが信じて疑わなかった。古龍は通常の竜よりも圧倒的に大きく、それぞれが異彩な能力を持ち合わせていた。翼がないのに空を飛ぶもの、天候を操るもの、近づくだけで命を奪うものなど様々だ。
人類は何度も古龍に戦いを挑み、何度も全滅してきた。
その歴史から、人類はいつしか古龍を含めた竜たちと戦うのをやめ、それらの生物が入ってこられない狭い空間で生活を送るようになった。
しかし、そんな生活に疑問を持つ者が現れた。
彼は、滅亡した国の魔術を研究し、異界から9人の勇者を召喚することに成功した。勇者たちはそれぞれ、火、水、風、土、雷、氷、光、闇、無の属性の聖剣を持ち、古龍たちに立ち向かっていった。
勇者たちの圧倒的な力や能力によって、地上の古龍たちは次々と討伐されていき、その数を減らしていったが、勇者たちも同様に次々と力尽き、最後には光の勇者がただ1人が残るのみとなってしまった。
彼は悲しみをバネに古龍との戦いを続け、遂に人類が地上に王国を築ける日をもたらした。
光の勇者はその王国の初代国王となり、国の防衛線として高い城壁を築き、生き残りの古龍の襲撃に備えた。
防壁は十分すぎるほどの効果を発揮し、古龍を次から次へと撃退、討伐していった。
誰もが人類の時代が来たと信じていた。
“奴”がやってくるまでは……。
あの日、城壁に1体の古龍が接近していた。
兵士たちはいつも通り、戦闘に備えて準備をし、警戒を強めていたが、どこか安心感を抱いていた。
戦いは一方的だった。
翼を持たない、ただ力が強いだけの古龍に城壁が壊せるほどの突破力はなく、砲弾の雨が降り注ぎ、魔法の矢が体に突き刺さり、巨大な槍が頭を貫いた。
負けるはずがない戦いだった。
しかし、その日以降の王国の記録はどこを探しても見つからない。
最後の記録とされているものの中に、国王となった光の勇者が残した手帳がある。そこには乾いて固まった血と大急ぎで書いたような粗い字でこう書かれていた。
『光を滅する古龍。国を………人を喰ら……。我、奴と戦い、そして敗れる。………去るが、……断す………。奴は未だ死にあらず』
所々は風化して読めなくなってしまっているが、そこには1体の古龍が光の勇者を倒し、国を滅ぼしたとされる文章が書かれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「えっ……?終わり……ですか?」
昔話には珍しいバッドエンドに俺は驚きを隠せなかった。
「そうじゃ、これで終わりじゃ」
「そうですか……」
初代光の勇者が勝てなかった古龍。物語から察するにまだ生きている、ということだろうか。
俺が頭の中で自己流に推理していると、セルドが「おそらくじゃが……」と前置きして話し出した。
「お前さんが出会ったのは、この昔話に出てくる古龍じゃ」
「………は?」
驚きのあまり口をあんぐり開いて静止してしまう。
俺たちが戦ったあの巨竜が、初代光の勇者を倒して、国を滅ぼしたあの”古龍”?
色々と疑問は出てくるが、まず第一に俺は言いたいことがあった。
「流石に違うと思います。古龍の存在をつい数分前に知った俺が言うことじゃないかも知れませんけど、あの巨竜は確かに強かった……けど、”古龍”と言うには弱すぎる気がします」
初代光の勇者が戦って負けるような相手だ。ステータス値が1000も超えてない(適応率でさらにステータスが下がる)俺たちが、まともにダメージを与えられる存在ではないはずだ。少なくともあの巨竜には斬撃が通用したし、レイアの魔法で体半分を消しとばすことも出来た。
俺の反論を聞いて、少し考え込んでいたセルドとユーリだが、互いに顔を合わせたのちにセルドが再び口を開いた。
「お前さんが出会ったのは竜は、高い再生能力と体を変質させる能力、魔法を破壊もしくは妨害する結界を張る能力を持っていたと言ったな?」
俺がその質問に頷くのを確認してから、今度はユーリが口を開いた。
「さっき話した古龍もね、全く同じ能力を持ってるんだよ。特徴も話を聞く限り、記録に残っているのと大差ないだろうしね」
俺がそれを聞いて黙っていると「それにね」とユーリは付け加えた。
「あの古龍は性格が悪いことでも有名でね。格下相手にはまず本気を出さないんだよ。皮膚質もそんなに硬くないからそこそこの実力者でも傷が付けられる。自分の力が通用するってわかったら嬉しいだろ?そうやって相手に希望を与えてから、あいつは再生•武装して相手を絶望のどん底に落とすんだよ」
ユーリの説明を聞いて俺はようやく納得がいった。俺があの竜と戦った時に感じた違和感はこういうことだったのか。理解すると同時にだんだんむかついてきた。舐めて襲いかかってきたくせに、レイアの聖剣魔法で反撃されたのにいらついて結界を張ったということだろうか。
「あの竜は2、300年に1度目覚めては、虐殺と暴食の限りを尽くすのじゃがなぁ……」
なるほどユーリの「早すぎる」とはこういうことだったのか。セルドの一言で納得していると、ユーリは部下たちに報告の指示を出していた。
「とにかく、”滅神竜”が現れたからには早急に対策しなければいけません。各国への連絡と行動範囲内の住民への警告、避難準備をさせます」
「失礼します」と付け加えて、ユーリ自身もその場から急ぎ足で立ち去って行った。
「あの”滅神竜”って……」
「うん?あぁ、まだ言っとらんかったな。お前さん達が出くわした古龍の異名じゃよ」
“滅神竜”。「竜」なのに「神」と呼ばれるのか。個人的には「魔」の方がいいと思うのだが。神と言うよりは悪魔といった印象が個人的は強い。
重い話の後で表情が険しくなっている俺にセルドは、声質を和らげて言った。
「さて、お前さんも疲れたじゃろ?宿を用意しておるから今夜はそこで寝なさい」
まだ痛みの残っている身体を若い村人に支えてもらいながら、俺はセルドに教えてもらった宿に向かうために病院を出るのだった。
すいません……。投稿ミスで1話分飛ばしてしまいました……。既に読んでしまった方は違和感を感じさせてしまったと思います。申し訳ございません。




