29.到着そして昔話
ただひたすら走り続けて数時間。日が登り始めると、遠目にアルハの村が見えて来た。
「はぁ……はぁ……着いた……」
月明かりを頼りに進んでいたので、方向を間違っていないか何度も不安になったが、どうやら杞憂だったようだ。
この坂を下れば、村の門までは目と鼻の距離のはずだ。最後の力を振り絞って再び走り始めた。
あの場所からここまでぶっ通しで走り続けていたが、体力的にも魔力的にも、なんとか保ちそうだった。ほとんど魔法が使えないのに、魔力量が無駄に多かったのがこんなところで役に立つとは。
「もうすぐだからな……」
優しくあやすように、眠っている彼女に話しかける。
レイアの身体の中には魔力が一滴たりとも残っていない状態なので、単純な生命活動すら出来ていないだろう。
地球では全く意識することなどなかったが、こちらの世界では魔力は生命活動にすら作用する必要不可欠なものだ。
レイアは今、一時的な植物状態と言っても過言ではないだろう。
そう思うと自然と足が早まり、俺は村へとラストスパートをかけるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
薄いアルコール臭の広がる部屋の中に置かれたベッドの上で横になっているレイアをぼんやりと眺めながら、俺は葉や枝で出来た擦り傷を治癒してもらっていた。
村に着くと、すぐに状況を察してくれた王都の調査隊の隊長が村1番の医者の元まで案内してくれたおかげで、迅速な治療を受けることが出来た。
とは言っても、王都の医療施設よりも圧倒的に劣っているし、地球の医療施設のように無数の医療器具があるわけでもない。学校の保健室に来ている、そんな感じだ。
「はい。これでいいよ。動かせるかい?」
かなり高齢の女性医師(この病院の院長)が、おおらかな口調で俺に訊ねた。
「……はい。ありがとうございます」
手足を軽く曲げ伸ばししてからそう返した。
「かなり身体を酷使したんだねぇ。1週間は安静にしてなさい」
俺の治療の最後に高齢の女性医師は俺の肩を優しくとんとんと2回叩き、レイアの元へと歩いていった。
それと丁度入れ替わりで、入口から調査隊長のユーリが1人の老人と一緒に入ってきた。
「身体はもう大丈夫かい?」
「はい。1週間は安静、と言われましたけど」
それを聞いて一安心したのか、表情が柔らかくなり、ハンサムな顔がより一層際立った。
「それで済んだのならよかったじゃないか」
「……はい。そう……ですかね……?」
本来護衛の俺が軽症で、護衛対象のレイアが重症などあってはならないことなのだ。簡単に「はい。そうですね」と答えられるはずもなかった。
「少しいいかね」
俺が顔を伏せて暗い表情をしていると、隣にいた老人が口を挟んできた。
「まずは、初めましてと言わせてもらおうかの。異界の勇者よ。ワシはこの村の長をしとるセルドと言うもんじゃ」
それを聞いて俺は心臓が飛び上がるような衝撃を受けた。
なんでこの人は俺が異世界から来たことを知っているんだーーー!?
このことは国のトップクラスの役職の僅かな人にしか周知されていない。それ以外の人には俺は辺境の小さな村出身で実力が見込まれ、かつレイアと仲良くなったため護衛として採用された人物という設定らしい。正直無理があると思ったが……。
「ふぉふぉふぉ、そんな顔をせんでもええ。黒髪黒目は勇者の特徴と昔から相場は決まっておる」
どうやら俺は相当間抜けな顔をしていたらしい。セルドは愉快に笑いながら俺の隣に座った。
「それで?何があったのか、話してくれるかのぉ?」
薄らと開かれた瞳からは冗談を一切許さないと言わんばかりの鋭い眼光が溢れていた。
「実は……」
俺は自分たちの身に起きた出来事を1つ残さず話した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なるほどのぉ……」
「いや、まさか……早すぎる……」
話が進むにつれ2人の表情は険しいものになっていった。セルドは眉間にしわを寄せ低い声で唸り、ユーリは信じられないといった顔でいや、そんな、まさかなどと呟いていた。
しばらくの沈黙の後、セルドは重い口を開いた。
「お主が出会った怪物はおそらく……”古龍”と呼ばれる種族の1種じゃ……」
「やはり……セルドさんもそう思いますか……」
「特徴を聞く限りではな。まだ生きてたとは……」
「ざっと……百年ぶりでしょうか」
2人の話に俺が付いて行けずに、ただ呆然としていると、それに気づいたセルドが説明を始めた。
「この国の昔話は読んだことあるかの?」
「いえ」
昔話……王城の図書館では見かけなかったなぁ。まぁ、幅も高さもとてつもない図書館だから探せば見つかるだろうが。
「『古龍と光の勇者』という題名なんじゃがな。すこし長くなるかも知れんが……まぁ、聞いてくれ」
そしてセルドは幼子に読み聞かせるような口調で語り始めた。
投稿ペースすっっっっっっごく遅くなりそうです。
来年の夏あたりまで続きそうです…。




