24.物乞い鳥と幸運
「はぁ、まだお昼なのにもう疲れたよぉ……」
隣を普段よりずっと遅いペースで歩くレイアが大きなため息とともに呟いた。顔色も心なしか悪そうに見える。
「食料もほとんど買えなかったしなぁ」
それに続いて俺もため息を吐く。
「ギルドに王女様が来ている」という噂はすぐに街中に広まり、その姿を一目見ようとしてか、多くの人がギルドに押しかけていた。つい昨日自然災害にあったとは思えないほどの勢いだった。幸い、俺たちはギルド長の計らいで裏口から逃してもらえたためことなきを得たが、バレないようにギルドからある程度離れるまではずっと気を抜けなかった。全く、酷い目に遭いかけた。まぁ、突然王女が目の前に現れたら誰でも驚くと思うので、あの受付嬢を悪く言うつもりは毛頭ないのだが。
「うーん、食料がないのは結構厳しいね……」
「そうだな。あとどれくらいあったっけ?」
「1日……2日は保つと思うけど」
この街がアルハの村から1番近いが、それでも徒歩でまだ2日はかかる。嵐で道が荒れていることを考えると最低でも3日分は欲しいところなのだが。
そうして街の商店街を見て回ったのだが、どの店も何かしらの被害を受けているのか空いている店は1つとしてなかった。せめてもの救いは昨夜泊まった宿屋がお昼にと、サンドイッチを持たせてくれたことだろうか。と、いう訳で俺たちは今、街を出てしばらく進んだところにある草原を進んでいた。
「そろそろお昼にしようか」
俺の提案にレイアは嬉しそうに頷いた。
そうして良さそうな岩に2人で腰掛け、貰ったサンドイッチを取り出した。2つのサンドイッチは間にこんがりと焼けた大きな肉を挟んでいて、冷めているにも関わらず柔らかい肉をかじる度に肉汁が溢れ出て甘味が口一杯に広がり、それでもって油っこさが控えめでとても食べやすかった。
「うっまい」
「ほんと、美味しいね」
肉を噛む口の動きが止まらない。それほどまでに美味かった。
「...…ん?」
しばらく食べ続けているとレイアの足元に鳩ほどの大きさの白い鳥が数羽、彼女を、正確には彼女の手のサンドイッチを見上げて突っ立っていた。
「あ、ちょーだい鳥だ」
俺の視線に気づいたレイアが自身の足元にいる鳥を見つめらがら呟く。
「え?何その名前?」
正式名称ではない……よな?
ふざけているとしか思えない名前に気を取られているうちにも空から小さな羽音を立てて更に数羽のちょーだい鳥が舞い降りて来た。
「ちょーだい鳥って言うのはね、まぁ、そのままの意味なんだけど人に餌をねだる鳥なの」
そう言いながらレイアはパンを少し千切って集まった鳥たちにばら撒いた。
集まった鳥たちが一斉にそのパンに群がっていくのを見つめらがら彼女は続けた。
「この鳥、白くて綺麗でしょ?だから幸運を運ぶ鳥って言われてるの」
確かに、純白の羽には汚れが一切なく太陽光を眩しく反射していた。
「縁起が良さそうな鳥だなぁ」
そう返して再びサンドイッチに齧り付こうとしたその時。
「チョーダイ」
背後から高い声でそう聞こえた。ギョッとして振り向くとそこには1羽のちょーだい鳥がいる。
……え?……まさか。
こいつの鳴き声?と信じられずに腑抜けた顔をしていると再び目の前にいるちょーだい鳥が口を開いた。
「チョーダイ」
えぇぇえ……。
衝撃的な鳴き声に思わず思考が停止してしまった。
そして、その一瞬の隙が仇となってしまった。
「チョォーーダイ!」
ちょーだい鳥は甲高い声で一鳴きすると俺のサンドイッチ目掛けて羽ばたいてきたのだ。
「あ」
すっかり度肝を抜かれてしまっていた俺はいともあっさり残り3分の1ほどの大きなになったサンドイッチを奪われてしまった。例のちょーだい鳥は数メートル滑空して着地すると旨そうに俺の昼飯をついばみ始める。また、待ってましたと言わんばかりに他のちょーだい鳥もそこに群がる。
「あぁぁ……俺のサンドイッチがぁ……」
こんなカクレクマノミが主人公の映画に出で来てたような鳥に昼飯を奪われるとは……。
「うぅ、何が幸運を運ぶ鳥だよ」
「んふふふ、どんまいどんまい……ぷっ……あははは……」
一連のやり取りをすぐ隣で傍観していたレイアは必死に笑いを堪えようと涙目になっている。
「はい、私の半分あげる。食べかけだけど……」
絶品のお昼ご飯を取られて意気消沈していると、レイアは徐に残り半分ほどになったサンドイッチを更に半分ほどに千切って、少し申し訳なさそうに俺に差し出した。
「いいの?」
「うん。私が注意してなかったせいでもあるし……」
これって、つまり要するに……
間接キスってことですか?
そうして彼女から貰ったサンドイッチは、心なしかさっきのよりも美味しい気がした。同時に俺の中でちょーだい鳥に対する評価はうなぎ上りとなった。




