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色なし勇者の戦い方  作者: Momiji.FS
第1章
20/43

20.逃げた先で

 大粒の雨が窓ガラスに当たり、いや、衝突してと言った方がいいだろうか。それほどの激しい雨が暴風でさらにその威力を上げて降り注いでいる。


 俺が今宿の一室から見ている光景である。そして俺の側にあるベッドには辛そうな表情で横になっているレイアがいた。


「大丈夫かレイア?」


「うぅ……ん、あんまり大丈夫じゃないかも……」


「そうか」


 彼女曰く、物凄い頭痛と筋肉痛に襲われているらしい。頭痛は俺も感じているが筋肉痛というのはない。運動不足じゃない?と言って睨まれたのが僅か5分前の出来事である。


 どうにかしてあげたい、と室内の温度を無属性魔法の応用で上げ下げしてみたり、同じ用法で頭痛を軽減させようとしたりと色々と試してみたものの、大した効果を出せずにいる。


 一方、俺はというと開発していたオリジナル無属性魔法の1つが対魔力嵐になることが判明し、現在進行形で使用中だ。レイアにも教えてみたが扱いがかなり難しく、すぐには無理だということで断念した。しかも、自分以外にかけることが出来ない上に、消費魔力もバカにならない。


「本来ならもう避難所に入ったるはずだったんだけどなぁ……」


 小さくため息をつきながら俺はそう呟いた。


 テンペスの街に何とか魔力嵐がたどり着く前に来ることが出来た俺たちであったが避難所は既に人で一杯で入れないとのことだった。幼い子供が優先される上に前日に街祭りがあったらしく避難所に子供を連れた親が押し寄せていたのだ。


 そうして避難所に入り損ねた俺たちはこうして近くの宿に一先ず避難した、という訳であった。


「レイア、頭痛大丈夫か?」


「……今は少し楽な方」


「お腹空いてないか?」


「少しだけ空いたかな」


「わかった。何か作ってもらってくるよ」


「ありがとう……」


「……おぅ」


 ここまで元気のない彼女を見たのは初めてのことだった。苦しそうな表情に胸が締め付けられる。


「早めにどっか行ってくれよ……」


 そんなことを呟きながら、俺は階段を降りていった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺は早速料理を作ってもらうべく1階の厨房にいる宿屋の主人の元に向かった。


「おじさん、食べやすい料理2人前お願いします」


「はいよ。丁度他の客さんの分作ってたとこだ。多めに作っといたからすぐにでも食べれるが、どうする?」


 おぉ、ここに来てなかなかついてなかったがようやく運が回ってきたのだろうか。


「はい。よろしくお願いします」


「はいよ」


 そう言って厨房の奥へと戻っていく主人を見送った後に食堂を見渡す。前日の祭のせいかこんな暴風雨にもかかわらず食堂は多くの人で溢れていた。人々の顔には不安のふの字も感じさせないほどの笑顔で溢れている。ちょっとした宴会状態だ。


(案外大したことないのかな、魔力嵐って)


 そんな様子を見て俺はそんなことを思ったりした。


「ほいよ。定食2人前だ。彼女さんの分は食べやすく小さめにしといたぜ」


 ニヤニヤと笑みを浮かべる主人に彼女じゃないですよ、と否定してお盆を受け取ろうとした。


 その時だった。


 地面が浮いた。


 とてつもない轟音の直後ほんの一瞬の浮遊感が体を襲う。それと同時にとてつもない頭痛にも襲われる。


「!?」


 飛びかけた意識を舌を噛んで強引に引き留める。

 しかしあまりにも強い痛みに耐えきれずその場にかがみこんでしまう。


 受け取り損ねた皿が割れる音が耳に鳴り響き、麻痺していた聴覚が戻り、食堂のあちこちから悲鳴があがっているのがわかる。


「……ズ……ボウズ……ボウズ!大丈夫か!?」


 宿の主人の男の声でようやく意識がはっきりとした。


「は、はい。なんとか……」


「そうか、そりゃ良かった」


 俺の無事を確認するとすぐに食堂にいる他のお客に向かって大丈夫か!と大声で呼びかける主人。その声に部屋のあちこちから大丈夫だ、と言う声が返ってる。


「なんだったんだ……さっきの……」


「雷だよ」


 ぼそりと呟いた俺の問いに答えたのは俺の近くの席に座っていた冒険者の男であった。


「雷?」


「そーそー。意外だろうけどね。魔力で強化された雷を舐めちゃいけないよー」


 いやーでもさっきのは飛び抜けて凄かったねー、と気楽に話しながら伸ばしてきたその男の手を取り立ち上がる。


 しかし、そこでふと考えた。


 大して頭痛を感じない俺でもここまで痛いと感じた。


 なら、身動きが殆ど取れないほどのレイアは一体どうなっているのか……。


 そう思い立った時には既に体は動き出していた。躓きつつも階段を全力で駆け上がり借りた部屋へと向かう。


「レイア!!」


 部屋のドアを勢いよく開き、白髪の少女の名を呼ぶ。しかし、俺の目に入ってきたのは、ぐったりとした様子でぴくりとも動かない少女の姿であった。



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