2.些細な前触れ
部屋に鳴り響く目覚まし時計の音で目が覚める。時刻は6時40分。夏休みにしては少し早い起床だ。当然、これには理由がある。
本日8月2日は俺たちのクラス、1-8の登校日だからである。登校日と言っても授業をしたりする訳ではない。夏休み中の学校の掃除をするためである。そしてその担当日が今日というだけだ。
前日の夜に用意しておいた制服に着替えて1階に降りる。家に両親はいない。中学3年生の妹と現在2人でこの広い家に住んでいる。広いというのはいいことだが、掃除が大変なのが残念なところだ。自動掃除機を使っても2時間はかかる。
イヤホンをつけて音楽を聴きながら簡単な朝食を作る。勿論2人分。妹は朝に弱いので9時くらいまでは起きてこないだろう。いつも通り完成した2人分の朝食のうちひとつにラップをかけておく。こうして一仕事終えた俺は、リビングのソファーに座って小さくため息をついた。
ここでソファーに座ったのが間違いだった。
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「はぁ……はぁ……」
息を切らせながら自分の席に腰掛ける。他の教室でクーラーがついていないおかげもあって、教室内は普段では信じられないほどに涼しかった。時計は8時50分を指している。集合時間丁度、幸い担任はまだ来ていないようだった。
「珍しいなぁ、お前が遅刻ギリギリなんて」
滝のように汗を流している俺に話しかけてきたのは、親友の六葉大地である。若干茶色に染まった髪をもつ、チャラそうなイケメンというのが、彼に対する俺やクラスのイメージである。
「二度寝してしまった……」
「まじかよ……普段から二度寝すんなって言ってる奴が二度寝したのかよ」
「……朝から音楽聴いたのが悪かった」
「あぁ、そら眠たくなるわな」
うんうんと頷く大地を見てこの光景も2週間ぶりだなぁと懐かしく思った。
「ん?どうした?」
俺の表情の変化に気付いた大地がたずねる。
「あぁ、なんかさぁ、この感じ懐かしいなぁと思って」
「……解らなくはないけどなぁ、2週間だぞ?」
「2週間も、だよ」
そんないつもの会話をしていると、俺はふと朝見た夢のことを思い出した。
「そうそう、今日変な夢見てさぁ……」
わいわいと教室各所で盛り上がっているクラスメイト達。そんないつもの日々が本日をもって終わることなど、まだ誰一人として知る由もなかった。