17.カリフォンでの散策
「疲れたぁ……」
そう言って大きく息を吐きながらベッドに倒れ込む。しかし王城生活の時のようなふんわりと包み込まれる感じはしない。
なんか違う……。
そう思うのも無理はないと思うが、一般より少し上程度の宿屋に王家のお偉いさんが使用するような高品質のベッドを求めるのも無理があるだろう。このひと月で随分贅沢な人間になってしまったものだ。
カリフォンにたどり着いた俺たちは真っ先に領主に手紙を渡しに行き、そのお礼ということで領主が紹介してくれた宿に無料で止まらせてくれるということになった。全く無料とはいい言葉である。
荷物ーーーと言っても、腰の剣ぐらいしかないがーーーを置き、ラディアから支給されたレイアが着ているのと同デザインの白コートを再び羽織る。
夕食ついでに少し街を散策しよう、というレイアの提案があったからである。王都ではレイアのことを知っている人と出くわす可能性が高かったために殆ど散策出来なかったのだ。
部屋に置かれていた俺の身の丈と同じくらいの大きさの鏡で髪型などを整えて終えたのと殆ど同時にレイアが部屋を訪ねてきた。今更かもしれないがレイアとは部屋は別である。
「シュウ、行こ!」
「はいはい、ただいま参りますよ姫様」
夜の街は信じられないくらい明るかった。魔光石は大きさや色によって明かりの具合が変化する。その性質を利用して客引きを行なっている店が殆どだ。
「すごいなぁ」
「マリアラは夜光の街って言われるくらいだからね」
俺の感嘆にレイアが答える。魔光石の明かりによって照らされた景色は日本のどこであろうとも見れない光景を生み出していた。
「あっ」
その後、十分ほど散策していると、不意にレイアが何かを見つけて立ち止まった。
「どうした?」
「あれ」
レイアが指差した先には日本の和風の温泉そのものが転移してきたのではないかと思わせるほどの懐かしさを醸し出す温泉宿があった。
「温泉かぁ、懐かしいなぁ」
家から5分ほどの場所になかなかの高評価を受ける温泉施設があったので、妹や大地としばしば通っていたのを思い出して頰が緩む。
俺のそんな表情を見たレイアは俺の手首を掴むと温泉宿に向かって駆け出した。
「夕飯、あそこで食べよ。温泉にも入れるし一石二鳥でしょ?」
「えっ、レイアはいいのか?あそこで」
引っ張られている状態なので時折躓きそうになりながらレイアに尋ねる。
「いいよ。私温泉入るの初めてなの。楽しみだなぁ」
そういうことか、と納得して俺も躓かないようにレイアの歩調に合わせて走り出す。
どんなんだろうなぁ、と思っている俺の脳裏でふと思い出したことがあった。
王城のお風呂って普通に温泉ぐらいの広さあったよな?