表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/167

第96話 計画始動



 そのまましばらくの間ヴァルキリーさんの居室で話を煮詰めた後、俺たちは首都アランテルへ戻った。


 帰りがけに寄り道をして、とある仕込みも抜かりなく。


 いつもの宿屋に転移し、休むことなく夜の街へ繰り出した。

 そして南大門を目指す。


「いやー、すっかりヴァルキリーさんには迷惑かけちゃったね(主にキンさんがな。後で差し入れでもして機嫌とっておこっと)」

「そうですねぇ。でも出してくれたお菓子はすっごくすっごく美味しかったですー(あの味、現実でも再現できたらなぁ~)」

「僕もたっぷりと美しい彼女の姿を目に焼き付けてしまったよ……眼福眼福(リアルに戻ったら思い出して……ムフフ)」

「私もアキさんを抱っこできてとても幸せな時間を過ごせました……(幸せな時間は過ぎるのが早すぎます。もっと抱っこしていたかったのに……)」


 吐息と共に、俺以外のみんながそれぞれに思いを馳せている。

 ヒナは食欲。

 キンさんは性欲。

 ツナの缶詰さんは庇護欲を掻き立てられていた。


 うむ。

 やはり人間と欲望とは切っても切れない関係らしい。


 見てよみんなの恍惚とした顔を。

 今にもイッちまいそうだ。


 やめてよね。

 計画はこれから始まるんだからさ。

 腑抜けるにはまだ早いよ。



「おーおー、いるわいるわ」

「今日も賑わってますねぇ」

「活気があるのはいいことだよ」

「プレイヤーあってこそのMMORPGです」

「うん。ツナ姉さんの言う通りだね。そんじゃ、部屋を立てるよ」


 部屋、つまりはチャットルームのことである。

 入室したもの以外、会話が聞かれずに済むこの部屋で冒険の行き先や条件、そして時には激論を繰り広げるのだ。


 俺たちのいる場所、首都南門から出たここは通称『臨公広場』。

 アイテムを求める者や、レベル上げを目的とした同士を募り、臨時の経験値公平分配パーティーを組んで冒険に出るわけだ。

 コミュニケーションや情報交換の場ともなっており、【OSO】においては首都アランテル内部に次いで、最も活気のある場所だといえるだろう。


 そんなところで俺は部屋を立てた。

 勿論、伊達や酔狂ではない。


 俺の頭上に掲げたチャットルームの看板。


 そこには、『行き詰った中級冒険者募集 カンスト組が全力で引っ張ります』と書いておいた。

 『引っ張る』とはネトゲ用語で『レベル上げを手伝います』の意だ。


 すなわち、俺たちでプレイヤー連中を一気に高レベル帯まで育て上げ、邪神に対抗しうる戦力とするのが計画の全容であった。


 邪神の脅威は『【OSO】University』とハカセ率いる『翰林院アカデミー』の手によって広く知れ渡っていると聞く。

 それに伴って、この『臨公広場』においてもやはりレベル上げの募集が異様に多い。

 つまり、プレイヤーたちもそれなりの危機感を持ってはいるのだ。


 ま、そこらへんはハカセたちが煽りまくってるかららしいけど……

 何気に暗躍してるよね……

 これだから頭のいい連中ってのはおっかねぇ。


 ともあれ、中レベル帯くらいになると、いくら狩ってもなかなかレベルが上がらないスパイラルに陥って萎えちゃう連中も出てくる。

 そんな輩を精神的にも戦闘訓練的にも鍛え直してやるのが目的なのだ。


 個人的には『養殖』みたいであんまり好きじゃないんだけどね。

 しかし邪神を倒すのがストーリー進行に必要ってんならやるしかない。

 俺の好み云々はこの際置いておこう。



『サチさんが入室しました』

『マーカーさんが入室しました』

『みっきみきさんが入室しました』

『マチャルさんが入室しました』


 おぉ。

 立てた途端にバンバン入室してきやがった。

 やっぱりみんなレベル上げには苦労してんだな。


 俺たちではたとえ数名ずつしか育てられなくても、今度は育った連中が次のプレイヤーを育成すればいい。

 それが連鎖して加速度的に屈強なプレイヤーが増えるはずだ。

 手札が増えれば邪神の進行とて押し返せるだろう。



 取り敢えず手始めに────


「こんばんは! まずはあなたたちのレベルを教えてくれるっ?」






「違う違う。今の場合は一度パリィして足止めをかけてからスキルを発動するの。わかった?」

「はい! アキ姫さま! さすがです!」

「……姫さまはやめて……」

「わかりましたアキ姫さま!」

「……」


「いいですか? 例えば、今はアキきゅんが右へ動いていますよね。あれは私たちが魔法をモンスターに撃ち込みやすくするために回り込んでいるんです。はい! 今! ……そうそう、上手です」

「わぁ! なるほど! ヒナちゃんは教え方がうまいのね!」

「そうですか? えへへ」


「僕たち司祭が第一に気を付けなきゃいけないことがあるんだ。それはわかるかい?」

「えーっと、回復ですか?」

「うん。HPゲージも大事だね。だけど、もっと大事なことは支援魔法を決して切らさないってことなんだよ。支援が切れれば隙が大きくなる。大ダメージを貰うときはだいたいいつもそんな時なのさ」

「ほぉお! ためになりますぜ! キンの兄貴ィ!」

「……兄貴って……とほほ……女の子に教えたかった……」


「まずは相手の攻撃で最も危険と思われるものを判別します。それが確定したのならば、モーションを確実に覚え、兆しが見えたら仲間にその攻撃が及ばないようにモンスターのヘイトをこちらに向けるのです。そしてきっちりと盾を構え防ぎきりましょう」

「……こんな感じ! ですかツナお姉さま!?」

「ええ、今のはとても良かったです(お姉さまだなんて恥ずかしすぎます……!)」



 俺たちは自己紹介の後、簡単な趣旨の説明を終えて狩場へ移動していた。


 場所は勿論、言わずと知れた『白蓮の森』である。


 戦乙女神殿からほど近いここは、中~高レベル帯には絶好の美味しい狩場なのだ。


 ヴァルキリーさんの部屋から帰る時に寄り道したのもここである。

 理由は簡単、ポタメモを取得するためだ。


 メモってさえおけば転移魔法でいつでも行き来が可能だからな。

 へっへっへ。

 下準備もバッチリとか、俺って冴えてるー(自画自賛)。


 ともあれ、募集で集った彼らのレベルを俺たちが先んじて戦い、ある程度上げて単独戦闘に耐えられるようになってからは徹底的な個人指導へ移行した。

 俺たちで出来る限りの戦闘方法を叩き込む狙いである。


 まぁ、そうは言っても教えられるのはごくごく普通の戦い方とか心構えなんだけどね。

 俺のジョブと装備は特殊すぎるから教えようもないし……

 でも、だいぶみんなサマになってきたと思うよ!



 俺たちはそんな彼らの戦いぶりを満足気に見つめるのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ